異邦の影
ヴォルケ領襲撃の情報が届いて三日
緊張はシュレイアの地を包む。リオルからは最も遠いと言って差し支えないが、それでも警戒するに越したことはなかった
ヴォルケにはアルテナ様達が向かい、黄龍様や赤龍様は今のところ様子見のようだ
各領主達が赤龍様を!!と要望している様だが、その要望は通っていない。
・・・・というか通らなくて当然ではないだろうか??目先のことに捉われすぐに排除しようという気持ち一つで言っているのだろうが、そもそも八龍のお一人が出撃しただけで相当な被害が出てしまう。この場合の被害というのは民間人の事だ。強力な力をお持ちの八龍様は周囲に与える影響が大きい。
これが八龍様の中でも純粋な力だけなら黄龍様をも超える赤龍様が出撃すれば間違いなくヴォルケの領民は灰塵の中に帰すだろう
あるいは貴族にとって領民など挿げ替えのきくモノという認識なのかもしれないが。
「レイン、黄龍様から食料と物資の支援を願えるか?という文が来たわ」
「勿論 是。それから西の領地から平民が流れ込んでくるかもしれないから、役所の人間の数を増やしてね。受け入れるけれど、チェックは念入りに。間違ってもリオルの兵士を入れてはいけないわ」
「勿論よ。・・・・・・・・レイン!!??」
「予測の一つとして考えてあったわ・・・・・・・でも本当に厄介な」
シュレイアの上空に現れる黒い影
一見その巨体に龍かとも思うが広げられた翼、尾羽を見れば違うと分かる
リオルの軍兵の移動手段のひとつ、怪鳥サンダーバード
本来ならば東の端のシュレイア領まで来ることなく領空を守護する翼竜たちに撃墜されるはずなのに。
ヴォルケ領に侵攻した時同様翼竜の感覚を鈍らせてきたのだろう
レインは勤めて冷静に、領民を領主の屋敷および近接する避難場所まで火急に避難するよう領民達に伝えた。同時に火急時に鳴るサイレンが領地を木霊する
「目的、何だと思う」
「兄上。・・・・・・・・・・まさか食料奪いに来たわけではないでしょうね。となれば、私達シュレイア家の殺害ないしは誘拐が目的かと思いますわ」
世にシュレイアの傑物と知られるようになってしまったレイン達
シュレイア家の三人、キリク・アリア・レインの存在によって底上げされたシュレイアの地
見た目、田舎町でのんびりした生活を送っているように思われがちだが、端々に見える技術は、大領地に比べても遜色ない。否、むしろ上回っている部分すらある
少し調べれば分かること
だがエーティス国内の者は所詮は田舎領主と見向きもしない
鋭く観察してきたのはむしろ近隣諸国
何時か、出すぎた杭がうたれるように、襲撃される日が来るかもしれないとレイン達は最悪を想定していた
ゆえに他領はすることの無い避難訓練をし、いざという時にすぐに逃げれるように領民達の意識に緊急時のマニュアルを植えつけてきた
ものの数分で領民の姿が見えなくなったことがその証
最悪を想定するくらいならば、領地改良を目を付けられるほど早くしなければいいと思うかもしれない
だが、それはできなかった
その理由が、シュレイアにはあった
急がなくてはならない理由が。改良を行ったことに後悔はない
だが、この襲撃で民を失うことになるとしたらば私は・・・・・・・・・・・・
「レイン・シュレイア
領民が大切ならば我らと共に来てもらおうか」
サンダーバードの背から降り立ち此方を見る男の台詞
レインに勿論、否やはなかった
「姉上、兄上、あとは任せました」
「・・・・・・・・・・・くれぐれも気をつけろ」
「領地は任せて」
兄と姉の言葉に背を押されサンダーバードに近づく
侵入者の男に手枷を嵌められると視界が回る
「・・・・・・俵担ぎは遠慮したいわ」
肋骨の間に食い込む鎧が痛い
「ならば横抱きにしようか?」
「・・・・・・俵よりはマシね。お願いするわ」
「・・・・・・肝の据わった奴だ」
「お生憎様ねぇ。この程度で驚くほど精神が柔に出来てないのよね」
溜息を吐く
誘拐くらいで喚く(わめく)ならば、転生した時に発狂しているだろう
男は面白いものを見るように私を見て、サンダーバードの背に乗り上げた
「さぁリオルに招待しよう。レイン・シュレイア嬢」
「・・・・・・お招き預かるわ」
サンダーバードは高く舞い上がり彼方へと消える
その様子を歯噛みしながら見ていたキリク達はすぐに黄龍に報告すべく踵を返したのだった
レインの肝の据わり方は尋常じゃないと思います(笑)