第三章【リオル】暗雲
中々くっつくような状況ではない赤龍とレイン・・・事態は一転
豊穣の祭りから三週間
事態は緊迫したものに変化していた
シュレイア家の屋敷の一室、
レイン・アリア・キリクと領主夫妻は難しい顔をして額をつき合わせていた
・・・・・・・その表情は普段の彼らを知るものなら驚くほど、厳しいものだった
「そう、リオルの国が、また・・・」
「ヴォルケの領地に侵攻しているらしくてな・・・・小さな諍いは今までも何度かあったみたいだが本格的な侵攻は現在のリオルの王が即位の折以来だ。」
「ヴォルケの領民は?どこまで侵攻が進んでいるのかしら」
「損壊は7割。おまけに死傷者の数は不明だ。あの領地は貧富の差が激しい。領制で定められている独自の身分の中でも、下位程全体像が掴めていないからね。」
「侵攻にいたっては現在ヴォルケ領主の屋敷すぐ間近まで迫っているそうだ。
・・・・最も、昨日の情報だから既に落ちたやも知れぬ」
・・・・・・リオルとは人類至上主義を謳う軍事国家であり、魔法国家。エーティスの北西に面している国で人類至上主義を謳うだけあって龍の治めるエーティスとは争いの絶えない国だ
ただの人が、巨大な力を持つ龍族に敵う訳がない。だがリオルには世界でも希少な力を持つ魔法族が人口の6割を占める
龍族と相対して、勝機があるのは魔法族のみといわれている彼の国だからこそ、永きに渡って敵対続けることが出来るのだ・・・そんなリオルは西の大領地、ヴォルケに隣する
「だけど、何故ヴォルケ領とリオルの境のライ山を抜けて侵攻してきた筈なのにヴォルケ領主は対応が遅れたの?遅れたから侵攻を易々許したのでしょう?」
アリアの台詞にレインは目を細めた
ライ山はエーティスの中でも特に標高高く決して易々超えることの出来る山ではない
オマケに隣国がリオルとあって特に警邏は厳しいはずだ
「影の報告によると、警邏していたのは翼竜の騎士で、リオルの軍は対翼竜の感覚を鈍らせる魔法を使ったそうだ。おまけにヴォルケの領主は隣の領主、アズナス領でのティーパーティに出席で不在。
あの領地は独特の制度の存在のせいで、いざ侵攻が分かっても領主の指示なしに勝手に動くことが出来ないからな。もう領主が分かった時にはすでに領地には帰れない状況だったわけだ」
呆れたとばかりに息を吐いたレイン。その溜息は部屋に集まる領主一家の心を代弁したようなもので、皆が皆、似たような顔をしていた
「この侵攻で間違いなく赤龍様をはじめとする龍族の方々が前線に立つはずだ。
・・・・・・・どういうことか分かるな?」
「久方ぶりに国内が戦場になるわけね。被害が計り知れないわ」
「保存が利かない物はさておき、領民達にも暫く節制を呼びかけて、節制で浮いたものは須らく保存しないとね。すぐに各集落や町に伝令しましょう」
「今年が実り多い年で良かったよ・・・引き続き、影達に情報収集を頼まないとね」
「警備のいっそうの強化を。いくらリオルの国がシュレイアと間逆にあるからといって、安心なんて出来ないぞ」
エーティスに暗雲立ち上る
「黄龍様、出陣の許可を」
「ヴォルケ領主からも救援の声明が届いております!!」
「赤龍様に出陣の要請を!!」
謁見の間、黄龍の眼下で至急集まった上級貴族たち
黄龍は重々しい溜息を吐いた後、傍らに控える樹龍を見やる
「シヴァ、アルテナと金竜、銀竜と共にヴォルケ領へ」
「御意に」
「赤龍は待機。翼竜の一団を連れて行きなさい」
「畏まりまして」
黄龍と樹龍の会話に驚愕の声が上がる
何故戦闘ならば絶対の力を持つ赤龍を出陣させないのか
「私の決定に、何か文句があるのか」
「そんな!!滅相もない!!」
「ならば待機せよ。そして心得よ
此度の戦、赤龍が出て終わりということにはならぬだろう」
黄龍の台詞が謁見の間に響いた