赤龍の心
赤龍の本質は火龍であり、有事の際には戦場の最前線で戦闘を行う攻撃型の龍である
そのことを国の誰もが知っており、知っているからこそ国の誰もが彼を厭う
平凡な生活を営む民にとって豊穣の力を持つ樹龍や土竜は崇拝し、一歩間違えれば自国すら巻き込みうる強大な力の持ち主であり、血に塗れる赤龍は、崇拝よりも恐怖が表立つのであった
戦があるたびに民の畏怖の眼差し、恐怖に引きつる声が火龍に届く
その眼差しも、その声も、火龍を縛る目に見えない鎖となる
―好きで赤龍になったわけではないのに―
-好きで力を持っているわけではないのに-
―誰が好んで血に塗れ、負の感情に晒されるか・・・・・!!我はっ―
暗い世界、血の湖に立つ赤龍を指差す数多の人影
己の歩んできた道そのものだ
暗いくらい世界に沈み込んで二度と浮上しなければいいとさえ、思った
-貴方のどこが怖いの-
―とても優しい瞳をしているじゃない。―
優しい声が響いた
数千年生きた中で初めて我を受け入れてくれた女性の声
―そんなに恐る恐る近寄らずとも私達は貴方様を取って食いませぬよ―
―赤龍様のようにお強ければ、姉上や兄上達を護って、家族を護って、領民を護れますね・・・!!
どうやって強くなったのですか―
―是非またシュレイアにいらしてくださいませ。レイン姉上の作る菓子は絶品ですよ!!―
そして恐れる我の手を引いて開いた世界を見せてくれたシュレイアの家族
会いたい、そう思う
春桜会以来会っていない優しい、暖かい家族の、あの娘の元に行きたい
「朝、か・・・・・途中までは酷い夢、だったな」
暗い世界、血の池に立つ己
しかしいつの間にか血の池は柔らかな草原に変わり暗い空はあの日見た何処までも続くような青空に変わっていた
「シュレイア、か
会いに行って、いいだろうか
許されるであろうか」
もし一瞬でも嫌な顔をされたら、立ち直れない自信がある
初めて己を見てくれた女性とその家族だ
今の己の心の支えだ
もし、もし、もし・・・・・・・・・・不安は尽くことが無い
「そのように不安に思うなら、一緒に行ってやろうか?」
「・・・・・・・・・・毎度のことで言うのもなんだが、樹龍、何で毎度バルコニーから侵入するんだ」
「何処から入っても一緒だろう?それより、俺も行こうか?レイン嬢の菓子も食べたいし」
「・・・・・・・却下だ。」
「葛藤したなぁ・・・・・・・・・・まぁいいさ。背中を押してやったんだから、土産貰ってこいよ」
「馬鹿め」
背中を押したのか、それとも遣いを頼まれたのか今一分からないが、切欠として、行こうかと思った
言い方はどうあれ樹龍には一応感謝しておく。