土竜と赤龍と田舎領主の娘
貴族の群衆から抜け出て、せっかくだからと料理を楽しむ事にする
流石は黄龍様主催と言うだけあって国中の料理が並ぶ
この国の主たる料理は洋食だ。レインにとっては和食特有の素材を生かした料理が懐かしい。勿論、郷愁にかられてばかりのレインでもないのだが。
ふと視線をテーブル中央に向ければ、ドンっと大皿に豪快に乗せられた猪の丸焼き。確か北の方の領地のご馳走だ。
レインは昔から野禽…猪や鹿など猟で狩る動物…が苦手だ。食べないことは無いのだが、少なくてもこの豪快な調理法では獣独特の臭みが強いし、丸焼きは見た目が少しキツイ
丸焼きを避けて別のコーナーに足を向けたレインに声が掛かった。
「食べないのか」
「あら…ご機嫌麗しゅう、土竜様」
八龍が一、大地を司る土竜様は褐色の肌に焦げ茶色の瞳、黒髪の2mはあろうかという長身且つ筋肉質な方で、当然美形だ
我が領は八龍様と縁は殆ど無いが、
土竜様は豊穣な大地に変化した我が領を気に入っていらっしゃるらしく時々ふらりと訪れになられる
「猪は嫌いか?レイン」
「牡丹鍋は好きなのですが、丸焼きは余り…」
「そうか。牡丹鍋とはなんだ?」
「猪の肉を薄くスライスして野菜と共に鍋で煮て食べるのですわ。臭みが余り気にならないんです」
「食ってみたいな。今度馳走してくれないか」
「しかと承りましたわ。
あら、これは当領地のものですわね」
「チーズ…か?」
「チーズを白ワインで伸ばしたもので、チーズフォンデュと。茹でた野菜やパンを浸してお召し上がり下さいませ」
中々美味しゅう御座いますわ。と告げれば土竜様は躊躇いなく口に入れた
「旨いな」
「白ワインが合いますよ」
チーズフォンデュなんてこの世界に有りそうなのに、なかった。
日本で生きていた昔は、戦中戦後、チーズなんて中々食べれなかったものだ。
晩年になり漸くスライスチーズをパンの上に乗せ食べれるようになったのだ。あれは幸せ以外の何ものでも無かった。孫がご馳走してくれたチーズフォンデュを思いだし作成したが、我が領内でも大人気である。
「土竜、何故レインといるんだ」
「赤龍、いや、元から俺は交流があったのだ」
「そう、なのか?」
「彼女が幼い頃、シュレイアの大地の改良を行ったのだ。栄養不足気味だった大地は長い時間を掛けて、ゆっくり豊穣な大地に変化した。俺は大地を司る土竜。故にこの変化を喜びシュレイアには今も時折顔を出す。」
口数が余り多くないと思っていた土竜様だけれど、やはり同族の方には違うのかしら。
「(心配せずともレインをとりはしないさ)」
「Σ」
「?」
「レイン、俺はクリスやアリアに会ってくる。またな」
頭を一撫でした土竜様は去っていかれた。去り際赤龍様の肩を叩くのを忘れずに
「赤龍様は挨拶お済みになられたのですか?」
「あ、あ。元々我には形だけだしな。問題ない。」
「何故その様に卑下されるのかしら…赤龍様の悪い癖ですわね」
「しかし脅えられるのは気分が悪い。シュレイアの者達の様に己を真っ直ぐ見てくれる人間と話す方が楽しい。」
「まぁ愛情には愛情を
敵意には敵意を返すのが世の常ですわね。
けれど、シュレイア以外で気を楽に持てる場を作らねば世界は狭いままですわ。」
レインには赤龍の気持ちがわかる。わかりつつ、それが駄目な事も理解しているのだ。
「視野が狭いままでは勿体ないではありませんか。せっかく生きているのです。楽しんでナンボですわよ」
少し口調が砕けてしまったと思いつつ、此方を見る赤龍に、ニコニコ笑い掛ける
日本に生き死ねればそれで良かった。
旅行だって国内でいい。幾らでも見る場所はある。そんな、かつての私を連れ出したのは初めは戦争で足をやられ、片手に杖をつく夫だった
米国は行く気になれず、トルコに行った。勿論、戦後復興後だ…何故トルコか、世界三大料理を食べてみたいしその文化を感じて見たかったのだ
日本とは異なる街並みに胸躍り、優しい人々に胸温まる
世界は広かった。
勿論、赤龍様とは意味が異なるけれど、悲しみだけでこの国を見て欲しくない。私が生を受けた新しい国はとても美しいのだ。
その眼にしかと焼き付けて欲しいのだ
今一土竜絡んでない…