注目の的
樹龍様と黄龍様は他の貴族に挨拶に行かねばならないと言い、かなり嫌そうな赤龍様を引き摺って去られた
そうして残った俺達は会場中の視線の的だ
そりゃ滅多に出てこないシュレイア家の子供らが黄龍様や赤龍様、樹龍様と親しげにしていれば興味も持たれるだろうさ。おまけに黄龍様には頭まで下げられたし。
こんな状況下でクリスは居心地悪そうに。アリアは不快げにしているが、流石というかレインは我関せずとウェイターから酒を貰っている
「兄上、いりませんか?甘露ですわよ」
「甘露?」
「ウチが作っている酒ですわね。流石に最上級ですわ」
「頂くよ。それにしても甘露をいつの間に流通させてたんだ?」
「流通はしてませんわ。これは献上品です。父上が珍しいから献上したんでしょうね。今年の最上級100本の内、20本貰うよ、と先日仰ってましたから」
甘露は、他領に出回らないシュレイアの新たな産物だ
青い実を使って作るのだがレイン曰く梅のような実だから梅と字をつけたようだ。
おかげで名を知らぬ青い実は我が領では梅と定着した。
そうして<梅>を酒で漬けたものを《梅酒》 と便宜上呼ぶことにした
《梅酒》は原液のままだと噎せる程の濃さだが、氷を入れたり水や炭酸水で割ると酷く芳醇な香りを醸し出す。
まだ流通出来る程の量は出来ず領内にのみ出荷しているのだ
商品名は<梅酒>ではいずれ他領に出した時通じないから、<甘露>となった。
レイン曰くこっちの方が美味しそうな響きでしょう?とのこと。
口に含んだ甘露は、その独特の香りを一気に口に広げ滑るように喉を下る
最上級と言うだけあって実に美味かった。
それはこの酒を飲む他領の貴族達も感じたらしくウエイターに何の酒かと問うている。
「量産できれば飛ぶように売れるだろうな」
「あら、でも私は余り数作るつもりはないんですよ?兄上」
「あらどうして?」
突然会話に入ってきたアリア。何時もの事だからそのまま会話は続く
「果実酒は梅だけ作るつもりがありませんからねぇ。これからどんどん果実は実りますし、毎年他の果実でも研究を重ねていて、今年位に試作品が出来るんですわ。
当座それをしておきたいし、シュレイアはまだ新作を出さなくても利益は大きいし、余り発表を続けても目新しさが無くなってしまいますでしょう?」
一理あるな。と思う。アリアもこの回答で納得したらしい。
「あら、シュレイアの方々ではございませんか?」
ホホホとずっと此方を伺っていた人の群れからワザとらしく一人の老女がやってきた
「((誰だっ))」
「(姉上、兄上、本気で言ってますか?)
御機嫌麗しゅう、トレーネ・ヴォルケ様」
レインは俺達と違い外交に行くから他領主の名を一致させているのかーと感心していれば、
12領地の領主ぐらい学んだではありませんか、と老女に気付かれぬようレインに言われた。
12領主というのはこの国エーティスを13に分け、1はここ、黄龍様が直接治める宮に
残りの12領地は(ひとつ例外として)この国の大貴族達が領主として治めている。
言わずもがな例外の一つは家こと中流のシュレイアだ。
・・・つまり眼前で笑う老女は大貴族それも西の大領地を治める領主と言う事になる。
「あら、私の名を知っていただけているの?」
「勿論ですとも。西の広大な領地を誇るヴォルケ様は世間知らずな私どもとて存じておりますわ」
「「(私/俺知らなかったけど。)」」
「(無視。)」
無視とは酷いな妹よ。
しかしヴォルケのバーさんが来てから他の領主まで、おやおやまぁまぁ、と近寄ってくる。
これだから嫌なんだよ
「シュレイアの方は夜会やパーティは御嫌いなのかしら?滅多にいらせられないわね」
「あぁ、このようなステキ(棒読み)なパーティに私の様な田舎者は気後れしてしまうんですわ。」
棒読みだな妹よ
「ところで、先ほどは何故黄龍様に頭を下げられておいででしたの?」
「申し訳ございませんわ、この件に関しては口止めされてるのです」
「そう、なの。」
「ひょっとして赤龍様が関わっていらっしゃるのではなくて?先ほども随分仲良く喋っていたみたいですし」
今度は香水くさい女だ。余り近寄らないでほしい。動物に嫌われたらどうしてくれる
「赤龍様はとても当家に良くしてくださいますわ。
黄龍様が口止めされているのに、勘ぐられてはこれから大変なのでは?(黙れ☆)」
アリア、苛ついているなぁ
「姉上、ぼくあのシチューが食べたいなぁ」
「あら、申し訳ありませんわ皆様。末の弟は何分まだやんちゃな年ごろ故・・・せっかく御話しさせていただけたのに・・・申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げ群衆から抜け出す。
「ナイス!クリス」
「うん。子供っぽく見えた?」
「十分及第点ね。ホントいやだわ貴族って。噂話好きだし人の秘密を土足で荒らそうとするし、ねちっこいし」
アリアのセリフに確かに、と頷き当分パーティ関連は遠慮しようと心に誓った。