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あなたになりたい

作者: 斑鳩 千早
掲載日:2026/08/21

私はあなたになりたいの


なんでも持っているあなた。美しい金の髪をなびかせて、楽しそうに翠の瞳を細めるあなた。まるでどこかの国の宝石のようなあなた。誰もが羨む生家をもち、優しい家族に囲まれて育った。天真爛漫なあなた。誰をも受け入れる心の広さを持ち、婚約者を一途に想う誠実さも持ち合わせたあなた。どんな求婚にも靡かず仲むつまじく過ごすあなた。学園でも優秀な成績を修めて表彰されるあなた。舞踏会ではドレスの流行を作り出すあなた。あなたを妬む私にさえ慈悲と微笑みをこぼすあなた。


すべてが羨ましくて仕方がなかった。


家では両親がいつも話している。あの子が娘だったら、嫁ぎ先も直ぐ見つかったのに。あの子のように要領がよければ、弟の補佐にできたのに。あの子のように人望があれば、領地の民に慕われたのに。


弟もそれに同調するように言ってくる。あの人が姉だったら、自慢して歩けるのに。家の繁栄に少しも貢献しない怠惰な姉じゃなく、あの人のように勤勉だったら。姉があの人だったら、周りに可哀想だと言われることもなかったのに。


なんども耳を塞ぎたくなった。


でも、塞げなかった。


何もかも足りないのは、私のせいだから。



ある日、見合い話が来た。これが私が認められる機会(チャンス)だと確信した。失敗はできない。綺麗な令嬢を演じて、見初めて貰うのだ。あなたのように。


お風呂場で体を念入りに洗い、随分前に残り少なくなっていた香油を塗って。夜が更ける前に眠りについた。朝は日の出とともに起きて、あなたのようにさらさらになる訳ではないけれど、いつもより丁寧に髪を梳かして。あなたのように綺麗とは言えないけれど、薄く化粧をして艶やかな紅をさした。あまり好きではないけれど、朝食も取った。胃が驚いている気もするけど、あなただったらそうすると思うから。


張り切って望んだ当日、待ち合わせ場所の公園に着た人はとても優しげな御仁だった。この人なら、私を選んでくれるかもしれない。少しの緊張と恥ずかしさを感じながら、名を名乗り挨拶(カーテシー)をして微笑むと開口一番に言われた。


「なんだ、麗しの姫君と親交があるって言うからこの(見合い)に乗ったのに。この様子じゃ嘘のようだな。こんなのと麗しの姫君が親睦を持つわけがない。自分の価値を下げるようなものだ。ふっあり得ないね。」


「……え?」


「はぁ、君の家も必死だね。こんなしょうもない嘘をつかなきゃ相手が見つからないなんて。可哀想に。次はもう少しまともな誘い方を考えるんだね。」


取り繕うまもなく、話は終わったというように振り返ると手をひらひらと振って言った。


「あとさ、その気色悪い表情やめた方がいいよ。まだ無表情の方がいいね」


案外ショックは受けなかった。もう、心が慣れてしまったのかもしれない。誰もがあなたのことを素晴らしい人だとわかっているから、私なんかじゃ満足どころか妥協も出来ないのだ。頬の汚れをぬぐってその場を去った。



あなたがお茶会の招待状を送ってきた。真新しいドレスとともに。私の色に合わせてあつらえられた、流行の型のドレス。袖を通すとぴったりだった。新品のドレスなんていつ以来だろうか。割れた鏡に写る自分に浮き足立って、あなたへの嫉妬を感じドレスを脱いだ。あなたが着たらもっと綺麗なはずなのに。私には、あなたのようにはとても着こなせないのだわ。段々と冷えていく心をクローゼットに押し込んだ。


お茶会に行くにはドレスだけでは物足りなかったから、昔買った髪飾りをつけた。あなたが昔お揃いにしようと言って買った、屋台で売られていた意匠をこさえた美しい髪飾り。分不相応だから、引き出しの奥にしまっていたものだったけれど、今日くらいはこのドレスを際立たせて貰おうと思って引っ張り出した。これで、少しでもまともな格好になることを祈って。


あなたの家は何度来ても華やかだった。大きな庭に大きな屋敷。沢山の使用人と豪華な料理。お茶会もいうよりもはやパーティーだった。他の家のお茶会もそうなのだろうか。我が家はお茶会を開くような家格ではないから、わからなかった。主役のあなたを待つ間、周りの令嬢の声が聞こえる。私が流行りのドレスを着ているのが気になるらしい。羨む声が聞こえる。密かに優越感が満たされる。たまには、私の番があってもいいじゃないか。扇子に隠された表情はどんなだったのだろうか。いつも私があなたにしているような顔だったのかしら。


そう思っていた矢先だった。あなたが登場した。皆の視線はあなたに釘付けだった。ただ美しさに見とれていただけではない。あなたは、私と同じドレスを着ていた。そして、周りの有象無象を見渡していった。


「たまには、親友とお揃いにするのもいいかなと思って、このようなドレスを作ってみましたの。」


私の目をみてふわりと微笑んだ。


「皆様もぜひ、大切な方とお揃いのドレスを仕立ててみてくださいませ。」


微かな優越感が音を立てた。ヒビが入る音だったのか、砕ける音だったのか。


すぐさま会場がざわめいた。すぐさまドレスのデザインの相談を仲間内でしだす令嬢達。慌ただしくなる会場。誰かが扇子の奥で呟いた。「でも、麗しの姫君と同じドレスなんて、私なら着れないわね」「そうよね~しかも、あの方じゃ」「月とスッポンよね」周りはほとんどドレスの話で持ち切りなのにひそひそと笑い合う令嬢の声が嫌に響いた。うつむいて声を聞かないようにしていると、誰かが私の前に立った。顔を上げるとあなただった。


「どう?サプライズよ!!とてもよく似合っているわ。うふふ、前から計画していたの。あなたにとびっきり素敵なドレスを贈ろうって。そこでね、折角だから二人で同じものが着たいなって。どうだったかしら?」


花も恥じらう笑みだった。私の心がよくわからない音を立てた。


「…ぁ、ありがとう。とても嬉しいわ。大事にするわね。」


そう伝えるので精一杯だった。そのあとの記憶はほとんどない。あなたは、何て私に返したんだっけ。抱えきれない虚ろな気持ちのまま帰路に着いた。



次の日から、私の世界は変わった。いろいろな社交場に行く度にお揃いのドレスの話を振られるのだ。


「お揃いのドレスってどのデザインがいいと思います?とてもいい、センスをお持ちのようだから教えていただきたくって。」

「初めての流行作りって緊張なさったでしょう?お陰で素晴らしい文化ができましたわ。」


あなたよりも話しかける敷居が低いからか、最新の流行となった揃いのドレスについて私に尋ねてくる人が沢山いた。少しずつすり減っていた自尊心が回復していった。あなたが決めたデザイン、作ったドレスなのに、あたかも私もデザインしたかのように扱われる。私に声をかける彼女達の真意なんてどうでもよかった。手柄を横取りしている罪悪感もろとも承認欲求に塗りつぶされた。


そこで私は思い立った。


そうだ、すべてあなたの真似をすればいいのだ。


今までは、仕草や言葉遣いばかり真似していた。その結果がこれだ。だから、きっとそれだけでは足りなかったのだ。服も、髪も、瞳も、何もかもを真似すれば、私もあなたのように愛されるのだ。


追い詰められた心はそれに賛同した。自分が止められなかった。どれだけ歪んだ考えなのかもわかっていたのに、やめられなかった。やめたら、自分がなくなってしまう気がした。


それ以降、私はことあるごとにあなたにドレスのデザインを聞いてほとんど同じものを用意して着た。新しいドレスなんて今までくれなかった両親も、最近の私の社交界での評判を聞くと当たり前のようにドレスを発注してくれた。


なんだ、こんな簡単なことだったのか。


今まで参加したこともなかったような、煌びやかなパーティーにも出席するようになった。あなたの真似をしていれば、堂々と歩けるから。殿方だって私にすり寄って来るようになった。あのときの優しい人によく似た表情をしていたけれど、きっと気のせいよ。周りのご令嬢の扇子からひそひそと聞こえてくる、恨みの声はパーティーの雑踏に掻き消えていった。


見合い話も増えた。家の事業が好転し始めたことも相まって、流行を駆ける私との婚約を望むものがいるのだ。見目麗しい釣書の数々。どれもあなたの婚約者には及ばないけれど、私の魅力に気付いてくれる人がこんなにもいたのかと頬が緩んだ。最近雇われた使用人達は私を怪訝な顔で見てきていたけれど、きっと妬みの視線なのだろう。私もかつて、そうだったから。結局、あなたを越えるような相手はいなかったから、すべて捨てた。そのうち、隣国の高貴な人から声がかかるかもしれないから。


ひとり、四阿でお茶を嗜みながら、花を見つめる。私の好きな牡丹は微笑むように風に揺れていた。思わず口元が綻ぶ。可憐な私を表しているようだった。満足したところで四阿を後にした。道中あなたの好きな水仙が項垂れて萎れているのを横目に次の茶会の準備を始めた。


なにもかもが上手く行っている。幸せだ。


その矢先、あなたに舞踏会に誘われた。数年に一度の催しで、数々のご令嬢が友好に花を咲かせるのだろうだ。私の存在をアピールする絶好の舞台だ。私が参加することに感謝すると良い。そんな気持ちのまま、ぞんざいに参加の返事を出した。もちろん、彼女の装いも尋ねる内容を連ねて。


いつものようにあなたに聞いた通りのドレスをこしらえた。髪飾りには、お気に入りのお揃いのものを。入浴を済ませて、湯冷めしないうちに床についた。


当日、あなたが寄越した迎えの馬車に乗り会場に向かった。普段乗っているものより随分静かな乗り心地で、すこしだけ鳴りを潜めていた嫉妬心が足をつかんで来るのを感じた。そんな気持ちも、会場につく頃にはすっかり置いてきてしまった。


意気揚々と舞踏会に入場した。事前に聞いた洋装はばっちりだ。弾む気持ちで人々の前に出る。


そこで目にしたのだ。


聞いていたものと全くことなるものを着たあなたを。


「……え?」


思わず大きな声を出してしまった。皆が私を見ている。あなたもこちらへ振り返った。


「ごきげんよう。ご覧になって。この御令嬢のアドバイスで急遽デザインを変えてみたの。いつも同じデザインじゃあなたも飽きてしまうだろうって」


ドレスの裾をつまみながらくるくると回る。無邪気な様子に息が詰まる。どこからともなく声が聞こえる。


「ふふふ、酷い顔。真似に失敗して驚いたのかしら」

「身の丈に合った服装をしていただかないと」

「そうよねぇ、麗しの姫君と同じドレスなんて」

「恥を知ってほしいわ」

「あぁ、あのような品のないかたには恥なんて感じられないのかもしれませんわ。」


どこからともなく笑い声が聞こえる。頭がいたい。笑い声はどんどん大きくなり、ガンガンと響いた。



後退りして、笑い声から逃げるように会場から逃げ出したくた。



「お待ちになって!」


背後からの制止の声も聞かずに走り出した。逃げ出したくて仕方がなかった。私は、何をしていたのだろう。あなたの服を真似て、似たような装飾品を着けたって、生まれも育ちも変えられないのに。自分の浅ましさが嫌になる。


ドレスが足に纏わりつく。令嬢たるもの走るなんてはしたないと言われ続けた。でも今は、あなたのように自由に走れている。息は苦しくなってきたけれど、初めての解放感を覚えた。


普段おとなしい令嬢の体力はたかが知れていた。直ぐに走れないほど息が切れた。肩で呼吸をする。爽快感は一瞬で過ぎ去っていってしまった。私が手を伸ばしても届かないほどに。


「つ~かま~えた!」


あなたが私の前に立つ。


「急に走り出されたので驚きましたわ。一緒に帰りましょう。皆さんきっと心配してらっしゃるわ。」


心配…?戻ったところで私は扇子の裏に隠された淑女話の格好の的だろう。どこに帰るというのだ。やるせない気持ちとともに息を吸う。もう、すべて言ってしまおう。この胸の葛藤も何もかもを吐き出してしまおう。そうすれば、この胸のつかえもとれる。走ったときの爽快感が私の背中を押した。


「私はあなたの真似ばかりしているのよ!!あなたが妬ましくて、羨ましくて!気持ち悪いでしょう。軽蔑したでしょう。いつもあなたがちやほやされるのが気にくわなかった!私とあなたで何が違うのだと、そう思ってしかたがなかったのです!!!!ですから、私はあなたが思うような人間ではないのです!わかったら、放っておいてくださいまし!!!はぁ、はぁ」


一息に言いきる。普段こんなに叫ばないから喉が痛いし、呼吸も上がってきた。きっとみるに耐えない醜い姿だろう。自分の心根が現れたのだ。


それなのに、あなたは微笑んで私の手を救い上げて言った。


「真似、じゃないわ。お揃い、でしょう?」





















だから、私はあなたになりたいのだ



















―――――――――――――――――――――







私は、あなたになりたい。



私と違い、何にも縛られずに朗らかに笑うその笑顔、見る目のあるものだけが気付くであろう瞳に宿す美しさと気高さ、伴侶を自分で選ぶ自由、社交界の汚れを知らない純粋さも、私のわがままを困ったように笑うところも、『麗しの姫君』なんて誰がつけたかもわからないあだ名に左右されずに私自身を見てくれる誠実さも、なにもかもが羨ましかったし、誇らしかった。


おまけに隣国に留学中の私の兄上にとても愛されていた。聡明で次期宰相の呼び声も高い麗しい兄上。兄上は帰国後に婚約を取り付けるつもりでこっそり手を回しているらしい。肝心のあなたにはまだ伝えていないけれど。私からも黙っていたのは、兄を取られてしまうという些末な嫉妬心からだった。


社交界では、『麗しの姫君』なんて呼ばれているけれど、その実周りの令嬢に妬まれて避けられているだけだ。私を壁のはなにする良い口実だったのだろう。殿方には婚約者のいる私に話しかける絶好の機会だったのか、遠回しに乗り換えないかと持ちかけられることも多かった。本当に気持ちの悪い人たち。


家ではいつも言われていた。その容姿で男を誑かしてばかりではしたないと。私にそんなつもりはないのに。優しいだけで私を庇ってくれない婚約者。あなたが私が良いと言ったから、私は、あなただけにすると決めているのに。蔑まれる私を見て見ぬふりをされ、歯痒い思いで毎日を過ごしていた。


でも、お茶会のときは違った。あなたがいるから。媚を売ってくるご令嬢たちの後ろから静かに私を見つめている。私を品定めする令嬢をよそにあなたのところへ駆け寄る。あなたはうっとうしそうに私の相手をしてくれる。嬉しかった。ひとりの意思ある人間として振る舞えていた。


無理を言って来て貰った祭りで、2人で揃いの髪飾りを買った。あなたと私、2人に似合うような髪飾り。嬉しさが押さえきれなくて毎日身に付けていた。あなたは、恥ずかしがったのか着けてはくれなかったけれど。


ある日、髪飾りを見た母が言った。


「こんなに派手なものを日常使いするなんて、本当にはしたないわ。あの子のように素朴な可愛らしい子が娘だったら、どんなによかったかしら。」


私の思いを知ってか知らずか放たれた言葉に、衝撃を受けた。髪飾りを貶されたことに、ではない。あの子が私だったなら。もっと深く愛されたのだろうか。数ミリの皮に惑わされない愛を、貰えたのだろうか。


そこで、思ったのだ。そうだ。あなたに私になって貰おう。


そうして、揃いのドレスをあつらえた。あなたに合わせた極上のドレスを。こうなる前からあなたには最高級のドレスを贈って、私のために着飾ってもらいたかった。あのときの気持ちとはすこし違うけれど、純粋に似合うデザインでこしらえた2つのドレス。そわそわしながら招待状と一緒にしたためた。当日美しい流行をまとったあなたに皆が見とれることだろう。そう信じて疑わなかった。



当日、私の目論み通り揃いのドレスは令嬢の注目を集め新たな流行の先駆けとなった。おまけに、あのときの髪飾りを初めて着けてくれていた。


「どう?サプライズよ!!とてもよく似合っているわ。うふふ、前から計画していたの。あなたにとびっきり素敵なドレスを贈ろうって。そこでね、折角だから二人で同じものが着たいなって。どうだったかしら?」


純粋な気持ちをほんの少しの嘘を混ぜてあなたに伝えた。今後は兄上に見初められて新たな流行の担い手となるに違いないあなたに。私のよこしまな気持ちは、知られないままで良いのだ。昔揃いで買った髪飾りをつけていることに気付き胸に灯ったほの暗い後ろめたさも。


「…ぁ、ありがとう。とても嬉しいわ。大事にするわね。」


いつもより一層静かな返答だった。私はこのとき、初めての衆目を集めて緊張しているのだと勘違いしていた。



あの日から、あなたは変わってしまった。



最初は私のドレスを聞いてくるなんていじらしい人、なんて思っていたのに私と同じドレスを着ていると吹聴して回っていた。最近のあなたがずっと着ているのは、この間お揃いで仕立てたドレスだったのに。


使用人から聞いた噂話では、あなたは最近白紙の紙をみて微笑んでいるそうだ。まるで、なにかを見比べているかのように。四阿でひとり過ごすことも増えたらしい。いつも、何かに怯えながらいるらしい。


一度様子を見にあなたの家を訪れたとき、見合いの釣書が最近沢山届くとあなた言ったわね。あなたの見合い話は私の兄上が止めていると言うのに。


極めつけはあなたが私以外の茶会やパーティーに出席し始めたとき。私も参加し、心配で遠くから見ていたときだった。私以外の家の催しなんて、参加したことなんて今までなかったじゃない。最初は令嬢と談笑していたあなただったけれど、途中でひとりになると誰もいない空間に話しかけたりしていたのだ。虚ろな瞳で自嘲気味に笑うあなた。自分の心臓が締め付けられる心地だった。


不安だった。あなたに一体何が起こってしまったのか。あんなに、眩しいあなただったのに。私財を投じて徹底的に調べ上げた。そこで、わかったのだ。兄上の牽制を退けてあなたに見合いを持ち込んだ男がいることに。


その男に話を聞いた。あなたに随分酷い言葉を言ったらしい。身の程知らずの愚かな男だ。速やかに兄上に報告を上げた。社交界の動きどころか礼節もわきまえぬ貴族社会の膿がいた、と。あの兄上のことだ、もうあなたを傷つけられないようにしてくれただろう。いつもあなたを影から見守っていたもの。……私の婚約者と違って。


その後、兄上に事情をすべて話すように言われた。素直に今まで調べたものを送りつけた。兄上なら、なんとかしてくれるだろうと考えたからだ。案の定、すぐに返信が来た。


次の舞踏会で言う通りにしろ、と事細かな計画が書いてあった。なぜこんなことをする必要があるのか私にはわからなかったけど、あなたのためならばと準備をした。餌を吊るしたような招待状をしたためて届けた。いつもと違って崩れた文字で了承の返事が返ってきた。兄上の言う通り、嘘のドレスを伝えて当日を待った。



きっと、私の邪な思いの咎をあなたが代わりに受けてくれたのだと思うから。



あなたが舞踏会にやってきた。あのときお揃いで仕立てたドレスを纏って。揃いの髪飾りを携えて。とても気に入ってくれていたのだという喜びを表に出さないようにし、私はたおやかに回りながら挨拶をした。


「ごきげんよう。ご覧になって。この御令嬢のアドバイスで急遽デザインを変えてみたの。いつも同じデザインじゃあなたも飽きてしまうだろうって」


これは建前だ。兄上に言われた通りの台詞を言う。我ながら自然な振る舞いだった。


これで、あなたの不安を解消できる。きっと平静を取り戻してくれる。そうしたら、私があなたを追い詰めてしまったから、何でも贖罪のためならするわ。いくら罵ってくれても良い。そう覚悟を決めていた。いつもの、あなたに戻ってほしくて。


でも、あなたは会場を走り去ってしまった。


「お待ちになって!」


周りに己に責任があることを伝え、あなたのもとへ向かう。令嬢たちはあなたの身を案じていた。やはり、こんなやり方では駄目だったのではないかと。私はきっと混乱しているのだ。後で冷静になったあなたにしっかり話を聞こうと伝え、走り始めた。『麗しの姫君』が走っている現実に悲鳴を上げる声が遠くから聞こえた。


走り始めると案外すぐに追い付いた。普段室内にいるあなたのことだ、走るのになれていないのだろう。息を切らしたあなたをほほえましく思いながら、あなたの前に回った。


「つ~かま~えた!」


私の前であなたが肩で息を整えている。無理やり息を吸い込んでいるから、むしろ呼吸は途切れ途切れになっていたけれど。


「急に走り出されたので驚きましたわ。一緒に帰りましょう。皆さんきっと心配してらっしゃるわ。」


そう声をかけた。もとのあなたに戻ってほしい一心で。それを聞いたあなたは目の光を失った。うろたえる私を写すこともせずに、あなたは深く息を吸った。


「私はあなたの真似ばかりしているのよ!!あなたが妬ましくて、羨ましくて!気持ち悪いでしょう。軽蔑したでしょう。いつもあなたがちやほやされるのが気にくわなかった!私とあなたで何が違うのだと、そう思ってしかたがなかったのです!!!!ですから、私はあなたが思うような人間ではないのです!わかったら、放っておいてくださいまし!!!はぁ、はぁ」


ひとしきり気持ちを吐き出した後、不安そうな顔で私を見たあなた。私には出来ない本音の発露。


あなただけが私を見てくれている。あなたは、とても高尚な人なのだ。そう思っていたけれど、あなたも一緒だったのね。お互いがお互いをうらやましいと思っていた。私も兄上に本当の愛を捧げられるあなたが羨ましかった。有象無象の媚を相手にしている私にはないものだったから。


思わずあなたの手を握りしめた。暖かい手のひらだった。


「真似、じゃないわ。お揃い、でしょう?」

















だから私は、あなたになりたいのだ。

高評価だったら兄上も登場させて、長編に書き直します。感想・ご指摘もお待ちしています。

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