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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
22 尋問という名のケーキトーク

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Cake talk disguised as interrogation2 尋問という名のケーキトーク2


「それが質問の内容と関係あるのか?」


 アンブローズはタバコを強く吸った。

「俺がどこでどんな命令違反をしようが、アボット財閥の株に関係なければ社員の生命と生活にも何ら支障はない」

「関係ありますわ。あなたは総帥であるわたくしの想い人ですのよ」

 アリスが飴色の眉根をよせる。


「感情の問題は無視する」


 アンブローズは眉をよせた。

 感情論という以前に、相手にもしたくない議論なんだが。

「感情の問題はそちらではなくて? ドロシーさんのために動くおつもりなんでしょう?」

 アリスが語気を強める。



「仮に俺が命令違反をしてドロシーを追っても、上層部とブランシェット准将は折り込み済みの可能性もある」



 アリスが怪訝(けげん)な顔をする。

 「ブランシェット准将とステルスオフィサーには」と言いたいところだが、アリスがステルスの存在までドロシーに聞かされていたとは思えない。

 ぼかしたせいで、あまりピンと来ていないようだ。

「あのお顔だけはよろしいブランシェット准将って、なにかありましたの?」

「話がそれるから機会があったら本人に面会して聞け」

 アンブローズはタバコを灰皿で消した。


「あらためて聞く。ドロシーはどこから介入していた?」


 アリスが軽く目線を泳がせる。

 よほどきつく口止めされているのか、それともアボット財閥の弱みを盾にドロシーに脅されでもしたのか。

「言ってもよろしくてよ。その代わり条件がありますの」

 アリスが真剣な顔で言う。

「結婚だの何だのなら、却下」

 アンブローズはテーブルの上を横目で見ながらさぐった。手さぐりでタバコのソフトパックをつかみ、軽くふって一本をとりだす。


「無事な姿でまた会ってほしいの」


 アリスが両手を組み芝居がかった感じで言う。

 唾液でタバコに火をつけながら、アンブローズは軽く眉をよせた。



「あなたって、自分から選んで最前線をつき進んでるみたいですわ」

「みたいじゃなくて選んでる。誰かがやるべきことで、俺らはそのために試験管の状態から選別されてる」



 アンブローズは煙を吐いた。

「お嬢さまには関係のない話だが、諜報の候補として育てられた将校は高等過程に進んだ時期と士官過程に進んだ時期、それと士官過程の終了時に計三回、諜報担当を受け入れるかどうか意思を聞かれる」

 灰皿に指をかけて手近に引きよせる。

「三回とも受け入れると答えたからここにいる。民間人が文句を言うことじゃない」

 トントンとアンブローズは灰皿に灰を落とした。


「もちろん教育で国家への忠誠心を植えつけられたってのはあるが……」


 タバコをくわえて強く吸う。

「あ、俺は先輩の女性将校メアリーが巨乳の清楚美人で」

「……調理中の事故で死なせておけ」

 なぜかヘラヘラと茶々を入れてきたジーンに、アンブローズは真顔で答えた。

 アリスがため息をつく。



「……わたくしが拘束された時点で、ドロシーさんが接触してきたんですの」



 アンブローズは、灰皿に灰を落とした。

「お嬢さまが着ていたエプロンドレスやら使っていたカラーペンやらは」

「それはうちの重役からの差し入れですわ」

 アリスが答える。


「ドロシーさんが差し入れてくださったのは、ケーキだけですわ」

「そのケーキにガレット・デ・ロワ張りに通信システムでも仕込まれていたのか?」


 アンブローズは問うた。

「ふつうのケーキですわ。“シェーン・メートヒェン” の日曜日限定スカイベリーとミルキーベリーのキルシュトルテ」

 アンブローズは、ついつい眉間にしわをよせた。


「ドロシーさんとは、甘いもののセンスも合いますわ」


 アリスが頬に手をあてる。

 アンブローズは、一瞬だが同じDNAだと思いたくない気がした。



「あなたがたが何らかの方法で接触してきたら、“ティーパーティー” の傍受に誘導してって」



 アリスがそう説明する。

「そちらのバディのかたが、わたくしとサイバー空間でちょくちょく鉢合(はちあ)わせをしていたのと、表向きNEICの社員ということで “ティーパーティー” のクラッキングはたしかに可能だろうとわたくしも思いましたわ」

 アンブローズは、ふぅぅとタバコの煙を長く吐いた。

「あれ……」

 ジーンが声をもらす。

「そういえばアリスちゃんとヒエログリフでやりとりしたあと、髪の長い女の人が勾留室に入ってきてアリスちゃんと百合百合っぽくやりとりしてたけど」

 ジーンがこちらを見上げる。



「あれもしかして?!」

「ドロシーだ」



 百合百合というほどだったかはともかく、たったいま同じ場面を思い浮かべていたところだ。

 アンブローズは声音を落として答えた。





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