表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
22 尋問という名のケーキトーク

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/77

Cake talk disguised as interrogation1 尋問という名のケーキトーク1



「──あなたがきょうも無事でホッとしましたわ。“プティットフィーユ” のあまさをおさえた抹茶とアーモンドのリンツァートルテは食べてくださったかしら」



 コンドミニアムのリビング。

 ブレインマシンが空中に投影した画面のなかで、アリスは神に祈るときのように手を組んだ。


 ジーンにも見せるため他人にも見える画面システムに切りかえてある。

 ジーンはディスプレイのまえに置いたクッションにあぐらをかいて座り、画面を見上げた。


「あの甘ったるい物体は、相方が今後一週間かけて片づける予定だ。差し入れはとうぶん要らない」


 アンブローズは答えた。

 新しいタバコのパッケージに手をのばす。いちどふって一本を取りだしくわえた。


「ついでにお嬢さまもとうぶん顔を出すな」

「待って待って。一週間リンツァートルテ責め?」


 ジーンが苦笑する。


「一週間かけて食べるならそうそうキツい量でもないだろ」

「たまには誰か呼ばない? アンの彼女のうちの一人とか」


「ハニトラにかけた女に自宅教えるバカがいるか」


 アンブローズはタバコの煙を吐いた。

「付き合ってる女の人がハニトラの相手しかいないってどういうこと」

 ジーンが眉をよせる。

「おまえこそNEICの女性社員とか、そこらで待ち合わせて渡せる女いないのか」

「いまのところ俺のいちばんの理想のタイプ、食堂のメアリーなもので」

 ジーンが答える。

「そろそろ調理中の事故で死亡とかいう設定にしとけ」

 アンブローズは煙を吐いた。


 空中に投影された画面のなかで、アリスが頬に手をあてわざとらしいため息をつく。


「──あなたのお仕事は理解していますわ。ですからハニートラップにかけた女性を何人キープしておこうが、わたくしは口出しはいたしませんつもりですの」

「お嬢さまに口出ししてもらう義理は一パーセントもない」

 アンブローズは答えた。

 灰皿を指で引きよせ、トントンと灰を落とす。


「──わたくし以上に理解のある女はいないとあなたもそのうち解ると思いますわ」

「お嬢さまは子供であって女じゃない」


 アンブローズはタバコを強く吸った。



「……いちおう尋問のためのアクセスなんだが。分かってんのか、お嬢さま」

「女子供でも容赦しないあなたの姿勢ってすてきですわ」



 アリスが、ほうっと息を吐く。

「容赦はしてやってる。時間限定のオンライン尋問なんざ、超甘々だ」

「俺らは敵国のスパイ容疑なんてあったら、いまの時代でも何時間も拘束されて尋問されるもんね」

 ジーンがディスプレイまえで笑い声をあげる。



「アリス・A・アボット」



 アンブローズはあらためて呼びかけた。


「一つめの質問だ。ドロシーといちばんはじめに接触したのはいつだ」


 アリスがしばらくだまりこみ、遠い目をする。

「五歳のときですわ。あなたに会いにマンションに行ったら、見目うるわしい黒髪の女性がいらっしゃって」

「そこまで(さかのぼ)らんでいい。今回の件に関してだ。特別警察にあえて連行されたのはドロシーの指示か?」


「わたくしの判断ですわ。わたくしが総帥だと名乗り出なければ、重役が何人か身に覚えのない容疑で拘束されるところでしたの」


 アリスが答える。

「人質ってこと?」

 ジーンがあぐらをかいた足首をおさえてつぶやく。


 八歳の幼女が、社員を守るためにみずから拘束されたということか。


 ほんとうなら見事としか言いようがないなとアンブローズは思った。

 幼少期から軍の教育を受けている自身たち将校でも、八歳のときはまだいっしょに育った子たちと初等部のクラスルームでとっ組み合いのケンカをしていた。



「つぎの質問だ。ドロシーが介入してきたのはどこからだ」

「ドロシーさんの活動を追ってますの?」



 アリスが問う。

「質問してるのはこちらだ、アボット財閥総帥アリス・A・アボット」

 アンブローズはあえてそう呼びかけた。

「軍内の活動なら軍内でお聞きしたほうがよろしいのではなくて?」

 アリスがそう返す。

「質問に答えろ」

 アンブローズは、タバコの灰を落とした。


「──ちょっとバディのかた?」


 アリスが顔をかたむけ、ジーンのほうを見る。

「ジーン・ウォーターハウスと申します、お嬢さま」

 ジーンが苦笑いして応えた。



「このかた、ご自身を危険にさらすようなことを考えているのだと思いますの。気をつけて差し上げて」



 ジーンが真顔でこちらを見る。

 すぐに画面のアリスのほうに向き直ると、いつもの軽薄な笑い顔をつくった。

「愛の力で止めますよぉ」

「──そういうつまらないネタは要りませんの」

 アリスが不快そうに吐き捨てる。


「軍でお聞きすればよろしいことをわざわざ外部のわたくしに聞いているということは、場合によっては命令違反をしてもなんらかの動きを取るつもりがあるということですわ。──もしくは」


「ドロシーが介入してきたのはどこからだ?」

 アンブローズはあらためて問うた。

「──もしくは身の危険をかえりみない行動が予測できるので、軍はわざと教えないのだと思いますの」

 灰皿に灰を落とす。



「バディのかた、のんきに座っている場合じゃありませんわ。たぶんドロシーさんの先回りをして弾除けになるつもりだと思いますの、このかた」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ