A game of cat and mouse2 ウソと真実とリップサービス2
「おまえのことは、むかしから知っているしね」
ブランシェット准将がククッと笑う。
「ドロシーが詳細不明の事件を起こして昏睡状態となれば、感情面でも国への忠誠の面からも、おまえは上に逆らってでも真相をさぐろうとするだろうと」
准将が目線を上げてこちらを見る。
背後の大きな窓で逆光になった顔が、気のせいかきょうは別人のように威圧的に見える。
「……あなたとは、初等部のころからなにかと組まされた。上層部はその時点から今回のようなことを仕組んでいましたか」
アンブローズはそう問うた。
尋ねても答えてくれるとは思えない。逸らかすこともウソをつくこともできる。
「上層部と教育部は、おまえが思うほど連携しているわけではないよ」
准将がクスクスと笑う。
「もっと連携したほうがいいとわたしは思うけどね」
そうとつづけた。
微妙に逸らかしにきたかとアンブローズは思った。
NEICとその裏のナハル・バビロンによる国家転覆の計画は、いったいいつからだったのか。
一つの国を乗っとり転覆させるとなれば、数十年はかけた事例も過去の歴史にはある。
いつから上層部は察知していたのか。
「ずいぶんと懐疑的になっているようだが……」
准将が肩をゆらしてククッと笑う。
「いざというときに人材を適切に使えるよう、育つ過程で資質の分析というものは教育部は常にしている。組ませれば有効な組み合わせというものも同じように」
「将校となる人間を遺伝子から選別し子供のときから育てれば、少なくとも他国のスパイが指揮系統に入りこむ余地はゼロに近くなる」
准将の言葉には反応せず、アンブローズは自身が察したことをつづけた。
「そして時世に逆らってヒューマノイドの隊員はいっさい採用せず、生身の軍人というものに軍部はこだわった」
アンブローズは言葉をつづけた。
「結果、特別警察のヒューマノイド隊員はマルウェアで狂わされ、こちらには同様の被害は当然なし」
ブランシェットがこちらの顔を見上げる。
おもしろそうにククッと笑った。
「何もかもつなげすぎだよ。参謀部のトップだって、そこまですべて見通しているわけではない。たまたまだ」
アンブローズは、ふぅと息をついた。
たとえたまたまでなかったとしても、こういう言いかたのあとは|また逸らかされるだけだろう。
以前から国会でなんどか議題に上がりつつも、なぜ軍部が遺伝子で選別した者を軍のなかで生まれさせ、子供のころから育てるというシステムにこだわるのかと引っかかっていた。
「一生を国家に保証される特権階級」「時代に逆行した遺伝子差別」もしくは「職業選択の自由を阻害する人権侵害」と非難する声がありながらも、軍はこのシステムを強行した。
生身の将校にこだわった理由は何なのか。
今回のこの一連のことにその答えがあるのかと思ったが、もしかすると一将校には一生伝えられることはないのかもしれない。
ふぅ、とアンブローズは息をついた。
緊張していた全身の力を抜く。
「……ちなみにウォーターハウス中尉と引き合わせられたのは? たまたま彼がNEICに入りこんでいた人物だったからというだけですか?」
「ウォーターハウス中尉が士官過程に進む直前、組ませれば有効とAIが分析したうちの一人に、おまえが上がっていたらしい」
ブランシェット准将が微笑して答える。
「彼の上官からの紹介というのはそういうことでしたか」
「満足したか?」
ブランシェットが尋ねる。
この立場にしては、たかだか一人の下官にきわめて親切に答えてくれたものだと思っていい。
「ありがとうございました。いまのところ質問は以上です」
アンブローズは踵をそろえて敬礼した。
「失礼いたします」
「ああ、帰りの芝居はいい。秘書にはおたがい誤解があったがすっかり仲直りしたと話しておく」
そうブランシェット准将が告げた。




