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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
19 ウソと真実とリップサービス

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A game of cat and mouse1 ウソと真実とリップサービス1

 軍施設の地上十六階。

 アンブローズは、下町のガラの悪い若者という(てい)でブランシェット准将の執務室へと向かっていた。


 無機質な内装の廊下を、カツ、カツ、と靴音を立てて通る。


 通る人間は、さきほどからほとんどいない。

 本部の上階にいる人間のほとんどは、ふだん書類仕事中心の将校ばかりだ。

 オンライン勤務の日もある上に、いちおう労働法を遵守して非常時以外は数時間の勤務で帰る。

 自身のオフィスのフロアと玄関とのあいだしか通らない人間が大部分だ。


 せっかくの見せ場なのにな。アンブローズは苦笑した。


 ブランシェット准将の執務室のドアのまえまで来る。

 一、二度脚を上げ下げしてから、ドアを思いきり蹴った。



「出てこいコラァ、ブランシェット! くっだんねえ通話よこしやがって、恩着せた気になってんじゃねえぞ!」


 

 ドアが勢いよく開く。


 長身の女性秘書が唇を噛みしめ怒りの表情で立っていた。

「ダドリー大尉、あなた軍が法的には切れない人だからって調子に乗りすぎでしょう!」

「まだいたのか、ブス」

 アンブローズは煽るように(あご)をしゃくった。


「そんなかたを准将に会わせるわけには!」

「ブランシェット出せ。舐めやがって」


 アンブローズは女性秘書を押しのけ、強引に秘書室に入った。

「待ちなさい! ダドリー大尉!」

 秘書がアンブローズの肩をつかむ。

 肩をゆらしてふりはらうと、タイトスカートからのびた脚を大きく曲げて蹴りをくりだす体勢になった。

「このまえの決着つけるか」

 アンブローズもかまえる。


「……やめなさい」


 奥の執務室のドアが開く。

 ブランシェット准将だ。

 一部の(すき)もなくきっちりと軍服を着こんだ施設内での姿はあいかわらずだ。

 准将が、呆れたようにため息をつく。


「ダドリー大尉、なかに入りなさい」


 ブランシェット准将が執務室へとうながす。

「准将! いいんですか! 上に取りなそうとしてくれてる准将に感謝もせずに彼は!」

 秘書が顔を紅潮させてわめく。

「気にしてないから、通常の職務に戻りなさい」

 そう告げて、ブランシェット准将がドアを閉める。


 准将がこちらを向くとすぐに、アンブローズは姿勢を正して敬礼をした。



「失礼しました。ブランシェット准将」

「……わざわざ以前の芝居のつづきをやる必要があったのか」



 准将がため息をつく。

「地下の諜報担当だけのオフィスなら防諜も万全でしょうから必要ないかもしれませんが、地上のオフィスは外部の人間が出入りするエリアもありますから “命令違反で軍から追い出された大尉” で通すほうが無難かと」


「それでも法的には、軍で生まれた人間は一生軍と縁は切れない。除隊もどうせ茶番だと見ている人間のほうが多いと思うよ」


 准将が自身のデスクのイスに座る。

「上が本気で手を焼いている人間なら、本来は降格しているか予備隊員という名目で自宅待機になっているかというところだ」

「それでは収まらないほど手を焼いているという設定を、こちらの秘書はまるっと信じてるみたいでしたが」

 アンブローズは秘書室のほうを見た。


「……あとでうまく言っておく。とりあえず女性にブスは言いすぎだ」


 准将が手を差しだし、応接セットのソファをすすめる。

「けっこうです」

 アンブローズはそう断った。


「このまえは同じテーブルで夕食を食べた仲じゃないか」

「だからこそです。オンとオフはきっちりしたい」


「まじめだな。むかしからだが」

 准将がククッと笑う。

「ドロシーと接触しました。オンライン越しですが」

「見つかったか、よかったよ」

 准将がデスクに(ひじ)をつき手を組む。


「どうせドロシーがどこで何をしているかなど、ぜんぶ把握しているんでしょう――と聞いても答えないとは思いますが」


 准将が微笑する。

「俺は以前、“顔にアイデンティティを持たないヒューマノイドと対峙(たいじ)するには、こちらも顔を変えるくらいの覚悟が必要” と言いましたが」

 アンブローズはそう切りだした。



「一つ見当がついたのは、ドロシーとあなたと軍の上層部は、とっくに隠れた顔で動いていた」



 ブランシェット准将は変わらず微笑している。

「もちろん、それをどうこう言うほどバカではありません。(おとり)には囮の役割がある」

「……おまえが “顔を変える覚悟で” と言ったとき、おまえを選んで間違いなかったと思ったよ」

 准将がそう応じる。


「リップサービスはけっこうです」

「本心だよ?」


 准将が鼻白んだ表情になった。

「そうどこまでも疑われたら、さみしいんだが」

「ここに来る直前まで疑問だったのは、なぜふつうに命令しなかったのかということです。単純に囮になれと命令されたらそれに従った」

 アンブローズは言葉をつづけた。


「ここに来た今は分かったのか」



「可能性としては、私が万が一特別警察に拘束された場合を考えた。ステルスオフィサーと違って脳内のチップで昏睡状態になれるわけではないので、拷問かP300脳波の分析で命令の内容を知られる可能性がある」



 准将は黙って微笑している。

「そうすれば、あなたをはじめ軍の上層部が国家転覆の計画に気づいていると気取られる。あくまで私は、勝手に志願して勝手に動いているという形にする必要があった」





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