The watchers are also being watched4 監視する側も監視されている4
「どこからあいつの囮にされてたんだ?」
アンブローズは、タバコのソフトパックを取りだして上下にふった。飛びでた一本をくわえる。
ベッドのヘッドボードについたデジタル時計は、そろそろ夜が明ける時間を表示していた。
カーテンからは、陽光がうすく透けはじめている。
「そろそろ仮眠とれば? アン。俺、きょうはNEIC休日だから一日いられるし」
「あいつがやってんのは国家転覆の証拠固めだったってのは引きついでから把握したんだが……」
唾液でタバコに火をつける。
一晩で何本吸ったのか。
片づけを面倒くさがっているので、灰皿はあいかわらず吸いがらでいっぱいになっている。
空中に浮かんだナハル・バビロンの施設内部の画像をながめる。
この監視は、囮としてとりあえずは続けていいのだろう。
NEICの人工衛星群に不正にアクセスして他国の役所施設をのぞいている何者かがいるとして警戒をこちらに向ける。
どこの警戒か。
NEICと、その裏にいるであろうナハル・バビロン政府。そんなところか。
ドロシーは、こちらの動きにかくれて何らかの活動をしているということか。
アンブローズはタバコを強く吸った。
「まさか三年まえから仕組まれてたとかじゃねえだろうな……」
アンブローズはつぶやいた。
ジーンがゆっくりとこちらを向く。
「誰に? ドロシーちゃんに?」
「ドロシーとブランシェット准将。もしかしたらプラス軍の上層部」
そう答えると、ジーンが眉をよせる。
「三年まえにドロシーがせっぱつまってド派手すぎる行動にでたあと、頭に埋めこまれたチップで昏睡状態。ブランシェット准将なら、俺がドロシーの様子を気にかけつつ調査の引きつぎを志願するかもという予想はできる」
「いや……それ何で。ふつうにアンに引きつぎを命令すればいいだけじゃ」
「だよな」
アンブローズはそうと返して、煙をふぅぅと長く吐いた。
「昼間、ブランシェット准将から通話あった。軍に戻ってこい的なダラダラ話だったが、言いたいのは “ハイゲート墓地のあの辺りをこっそり掘らせてる” ってことらしい」
アンブローズは、灰皿に灰をトントンと落とした。
「こっそり」
ジーンが復唱する。
「あからさまに掘ったら、またあのコンバットシスターが出るかもしれないからかな?」
「だろうな。だから特殊部隊にこっそりやらせてるんだとよ」
アンブローズは煙を吐いた。
「その後なんか出たって?」
「さいわい王室の人間の骨は一個もないらしい」
ジーンが無言で苦笑する。
「そろそろ朝メシの用意するか」
「いや……寝なよ、アン。だいじなとこ分析してんのかもしれないけどさ、ぜったい疲れてるよ」
「食ってから寝る」
アンブローズはタバコを消した。
「用意しながらバタンいったらヤダな……」
ジーンが苦笑いしてデバイスチェアから立つ。
「俺が作るよ。上官をバタンさせるわけにいかないし」
「疲れてると逆に頭だけ研ぎすまされてくるんだよ。――おまえに関してもちょっと思ったんだが」
「俺?」
寝室を出ようとしたジーンがふりむく。
「はじめに逢ったとき、おまえヒューマノイドと入れ替わってたよな」
「ああ、あれね。やられたね」
ジーンが笑う。
「てかほんとうは、俺がニセモノなんだけどね。ダドリー大尉」
ジーンが、スッと真顔になり告げる。
アンブローズは相方と目を合わせた。
しばらく無言で見つめ合う。
「……おまえも休め」
「くだんね」とつづけてアンブローズは灰皿を手にした。
そろそろ吸いがらを片づけなければ。容量が限界だ。
「アンに連日連夜、短時間睡眠でこきつかわれたから俺も脳ミソぶっ壊れそ。アンがひと眠りしたらそうする」
ジーンが大きくあくびをした。




