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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
17 つけ合わせは真っ赤なリンゴ

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Served with red apple2 つけ合わせは真っ赤なリンゴ2

 アンブローズは、ブランシェット准将の顔を見た。

 なにがあってもおだやかな表情、おだやかな物ごしの人だ。

 ふだんはつきあいやすい上官だが、こんなときになるといやになるほど本心が分かりづらい。


「……タバコ、吸ってもよろしいですか」


 アンブローズはそう尋ねた。

「いいよ」

 准将が穏やかな口調で答える。


 ジーンがなかなか来ないのを怪訝(けげん)に思い寝室のドアを開けると、ドアの目のまえに立っていた。

「なに聞き耳たててやがる。出ろ」

 ジーンの腕をつかんで引っぱる。

「いやいやいやいや……」

 ジーンが苦笑してまえにつんのめった。


「ちょっ、あのさ」

「聞いてたろ。どうせバレてる」


 強引にリビングに連れだされたジーンが、准将に苦笑いした顔を向ける。

「あの……」

「気にすることないよ、ウォーターハウス中尉。階級が上の者には逆らえなかったで通せばいい」

 准将が微笑する。


「あっ、まあ。逆らえなくて」

「ノリノリでくすねたデータ提供したくせにな」


 ジーンとすれちがうようにして寝室に入りながら、アンブローズは小声で反論した。

 寝室のサイドテーブルに置いたタバコのソフトパックを手にとる。

 軽くふって一本をとりだし、くわえた。

 唾液で発火させてリビングに戻る。

 ジーンは准将のまえの席につかされ、愛想笑いを浮かべていた。


「フィレンツェ風ミネストローネと、ラグーソースのタリアテッレです」


 きれいな顔立ちをした諜報担当が、バイオプラスチックの容器に入った料理を各人のまえにならべる。

「……なんか豪華」

 ジーンが引いたような表情をする。


「早い話が、中央イタリア風の野菜スープとパスタ」


 言いながらアンブローズは席についた。

 タバコをもう一吸いしてから、かたわらの灰皿に置く。


「うちの国は、料理がまずくて有名だからね」


 准将がきれいな造形の指で容器を開ける。

「そのわりにスイーツはうちの国の伝統食なんですね」

 アンブローズは、真っ赤な皮のついたベイクドアップルの容器を手にした。





 准将が連れてきた諜報担当二人も加わり、男五人がせまいテーブルで食卓をかこむ。


 消臭システムのない旧式の家屋なので、トマトと肉汁のにおいがただよう。

「それで、二人で何を見ていた?」

 平たいパスタをフォークでまき、准将が切りだす。


「情報の提供元と、情報取得方法を伏せてもよろしいのなら言いますが」

「いいだろう」


 しばらく間をおいてから准将がそう答える。

「おそらくはナハル・バビロンの役所施設の内部です」

 准将がしばらく沈黙する。

 品のいいマナーで、ミネストローネを口に運んだ。


「何か報告すべきものは」

「なにも」


 アンブローズは答えた。

「約九十六時間、ぶっ通しで監視していてもだれ一人内部に見あたらない」

 話をつづけようとして、アンブローズは准将の両脇の諜報担当をチラッと見た。

「彼らはだいじょうぶだ。この件に関して把握してる」

 准将が口元をハンカチで拭きながら告げる。



「……何もないのがおかしいのではと思いはじめていたところです」

「なるほど」



 准将が、そう返してミネストローネを口にする。

「ブランシェット准将、ダドリー大尉に質問してもよろしいですか」

 ジーンが左手を上げる。

「何だ」

 アンブローズはかたわらの席にすわるジーンを横目で見た。

「お兄さんとしては? ドロシーちゃんが消息不明なのは、ほんとに心配してない?」

 アンブローズはなにげに向かい側にすわる諜報担当を見た。

 眉ひとつ動かさずにミネストローネを口にしている。

 どこまでを把握しているのか。


「准将」


 アンブローズは、口元を親指で拭きながら呼びかけた。

「ほんとうはドロシーの行方を知ってるのでは?」

「知らないよ」

 准将が微笑する。


「ドロシーは三年間も眠っていて、なぜこんなに即座に動けたんですかね」

「優秀だからじゃないかな」


 准将がクスッと笑う。

「まあそりゃ優秀だからこそ……」

 ジーンが言いかける。

 「優秀だからこそ、ステルスオフィサーなんでしょ」。たぶんそう言いかけたのだろう。

 ジーンはさりげなく言葉を中断させて黙った。

 諜報担当のジーンですら、ドロシーの話を聞くまではステルスオフィサーをなかば都市伝説だと思っていたのだ。

 軍籍の名簿の上すら、いくつもの暗号で保護されている機密中の機密だ。

 目のまえの二人は、これも話していいのか。



「たとえばドロシーは情報を持ったまま眠ったのではなく、すべて軍に伝えていた。だれかが三年のあいだ情報にそってドロシーを援護する準備を進めていたのでは?」



 アンブローズは准将に問うた。

 「だれか」とは暗に准将を指している。

 この人も長年のつきあいだが、けっこう分からないところがある。

 准将が無言で塩なしパンをちぎる。

「ナハル・バビロンのがらんどうみたいな役所の内部を見ているあいだは、かなり退屈で。いろいろくだらないことを考えてしまったんですが」

 アンブローズはパスタをフォークにからめた。





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