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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
17 つけ合わせは真っ赤なリンゴ

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Served with red apple1 つけ合わせは真っ赤なリンゴ1


 昼間もカーテンを閉めっぱなしの寝室。


 アンブローズはPCが内臓されたデバイスチェアに座り、空中に浮かんだ映像を見つめていた。

 かたわらに移動させたサイドテーブルの上には小型のディスプレイを置き、国会中継の立体画像を表示している。


 野党の質問に滔々(とうとう)と答える首相の顔を横目でながめる。


 いつまで見ても不自然なところのないのが恐ろしい。


 ヒューマノイドの開発が本格的にはじまった一世紀まえ、「不気味の谷」という言葉が話題になったと教育機関で教わった。

 人間に似ているが微妙に違うものへ感じる正体の分からない嫌悪感は、たぶん外見だけの問題ではなかったのではと思う。



 寝室の出入口のドアが開く。

 ジーンが入室した。



「玄関のDNA認証の登録ありがとね。ちゃんと入れたよ」

 片手をひらひらとふる。

「ああ……」

「二人のDNA登録しておくなんて、まるで恋人同士みた……」

「くだんねえあいさつしてないで代われ」


 アンブローズは立ち上がりジーンにデバイスチェアをゆずった。


「一日一回この手のおふざけ言わないと調子悪いんだけど」

 ジーンがチェアにすわる。

「NEICの事務室で済ましてこい」

 サイドテーブルに置いたタバコのソフトパックを軽くふる。一本をとりだし、くわえて唾液で火をつけた。



「何か耳よりなお話でも傍受できた?」



「いや」

 アンブローズは答えた。

「役所の内部の映像は緯度経度からナハル・バビロンって分かったが、どこ見ても一切だれも通らねえ」

 壁に背をあずけて、ふぅぅ、と長く煙を吐く。


「ジャパンの時代劇でさ、ニンジャが天井裏からのぞくと悪代官とキキョウ屋がちょうどタイミングよく悪だくみの全貌語ってくれるじゃん?」


 ジーンが言う。

「あれみたいに黒幕がいきなりぜんぶ語ってくれたらラクだねえ」

「悪代官って何だ。悪徳領主みたいなやつか?」

 アンブローズはタバコを強く吸った。


「いまでいう警察長官とか裁判官みたいな人じゃないの?」 

「兼任なのか。そりゃ汚職にも手を染めやすいわな」


 ふぅ、と煙を吐く。

「んでゲイシャの(おび)を引っぱると、ゲイシャがくるくる回って」

「シントウの儀式か?」

「そこにクノイチが乱入して、ミニスカ網タイツでフロントハイキック」

 アンブローズは眉をよせた。

 ジーンが操作パネル上でわずかに指を動かす。

 もしかすると乗らないほうがいい話だったのかもしれん。

 アンブローズはサイドテーブルに置いた灰皿に灰を落とした。


「考えたんだけどさ、傍受した映像内で手をふってたお姉さん、ヒューマノイドだったのかな」


 いつの間にお姉さんって設定になったんだとアンブローズは脳内でツッコんだ。

「何でそう思う」

「とくに根拠ないけど。いた場所が妙に生活感がないっていうか、何もなさすぎっていうか」

 アンブローズは、ナハル・バビロンと分かった役所内部の映像を見た。

 たしかに何もなさすぎる。



 玄関の呼び鈴が鳴る。

 アンブローズはタバコを灰皿で消した。



「だれ」

 ジーンが問う。

「来客の予定はないが、こんどは夕食が届いたのかもな」

 ベッドの横に置いた銃を手にする。

 弾数を確認し、スラックスのヒップポケットに突っこんだ。

「応対してくる」

 アンブローズはそう告げて玄関に向かった。

 さほど広い屋内ではないので、玄関までは寝室を出てリビングとキッチンを通り数歩だ。


「はい」

「わたしだ」


 ドア越しに返事をすると、聞きなれた声が聞こえる。

 ブランシェット准将だ。

 こんどは本人の出前かとアンブローズは顔をしかめた。


 魚眼レンズで外を見たあと解錠してドアを少しだけ開ける。


 先日来たときと同じように、若い諜報担当を二人ほど連れた准将がいた。

「いるな。けっこう」

「よほど俺に動かれたくないんですか?」

 アンブローズは眉根をよせた。

「入ってもいいか?」

 こちらの問いには答えず、准将は両わきの諜報担当に目配せすると屋内に入る。


「お夕飯もお持ちしました」


 両わきの諜報担当が夕飯セットの入っているらしい袋を両手でかかげる。

「……まあいいけどな」

 アンブローズは眉をよせた。



「ウォーターハウス中尉も中断して食事にしなさい」



 准将が奥に向けて声を張る。

 デバイスチェアの上で冷や汗をかくジーンをアンブローズは想像した。

「案の定だ」

 准将がつぶやく。

 いまさらこんなことの一つや二つ(とが)められても慣れているがとアンブローズは宙をながめた。


「ドロシーはその後どうしてます」

 アンブローズはさりげなく問うた。


「ああ……」

 准将が夕食セットを袋から出して微笑する。

「消息不明だ」

 おだやかな口調でそう答える。

 アンブローズは内心で舌打ちした。

 裏に何かあるならポロッと吐くかと思ったが。


「何でわたしが知っていると思った?」

 准将が微笑しながら真っ赤な皮のついたベイクドアップルをテーブルに置いた。  





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