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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
17 つけ合わせは真っ赤なリンゴ

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Interception2 傍受2


「起きろ」


 カーテンから朝日が透けて、寝室にうすく射しこむ。

 アンブローズは自身のベッドで寝るジーンを起こした。

 ジーンが、はぁ、と息をついてゆっくりと上体を起こす。


「教育過程のころの実戦訓練の期間を思い出すなあ。四十秒で用意しろとか」

「四十秒で朝食食ってこい」


 アンブローズはリビングのほうに向けて(あご)をしゃくった。

「大尉の手作りでありますか」

 ジーンが毛布をのけてベッドから降りる。

 靴をはきながら、パーカーの首元のファスナーを上げた。



「朝っぱらからブランシェット准将の使いのやつがきて、二人分のモーニングセット置いて行った」



 アンブローズはそう告げた。

 手にしていたソフトパックからタバコを一本とりだしくわえる。

「なにそれ」

 ジーンが口元をゆがめた。

「ちなみにメニューは何でありますか」

「フルイングリッシュと焼きリンゴ」

 アンブローズは答えた。


「休暇返上でお仕事にいそしんでることバレてるんじゃ」

「女といっしょにいると想定した可能性もある。あわててボロ出すなよ、おまえ」


 アンブローズは水蒸気成分の煙を吐いた。

「わざわざ部下に届けさせるなんて、ちょっと監視っぽい……」

 ジーンが眉をひそめる。ややしてから立ち上がり、のろのろとリビングに向かった。

 四十秒とっくに過ぎてんじゃねえかとアンブローズは眉をよせた。


「トイレ行ってからでいいでありますか、大尉(キャプテン)


「……飛び散ったら自分で掃除しろ」

「らじゃ」

 ジーンが歩きながら敬礼する。

 ややしてから「うん?」とつぶやいて髪をかくと、こちらをふりかえった。


「まさかと思うけどアン、モーニングセットの食器にフラットカメラとかついてないよね」

「盗聴コードなら見つけた。トレーのロゴにまぎれて貼りつけてやがった」


 直径一ミリほどのプログラミングコードを軍の人工衛星が読みとり、周辺の音の波をひろうシステムだ。

「うわ……」

 ジーンが口を手で押さえる。

「ブランシェット准将って、あんなおだやかそうなのに意外とそういうことする人なの?」

「いちおうおまえの分のトレーと食器も見たが、同じロゴの部分だ。気をつけて食え」

 アンブローズは煙を吐いた。



「何やったのアン。准将なんて地位の人にそこまで監視される何やったの?!」


「ゆっくり休養とれとの上官の気づかいを無視して、おまえと組んで民間企業の人工衛星群から電波傍受して、上官に虚偽報告してる」



 アンブローズは煙を吐いた。

「巻きこまないでよ」

 ジーンが引きつり笑いする。

「ノリノリでティーパーティーのデータ持ちだしてきたのはおまえだ」

「いやちょっと待って……」

 ジーンが両手で頭をかかえる。

 ややしてからまじめな顔になり、顔を上げた。



「……ブランシェット准将としては、ドロシーちゃんがいなくなった理由が理由の場合、アンが何か行きすぎた行動するんじゃないかって警戒してるんじゃ」



 アンブローズは無言で煙を吐いた。

「なら、わざわざいなくなったと知らせてよこすか?」

「黙ってたってどうせバレるでしょ」

 ジーンがそう返す。

 アンブローズはサイドテーブルに置いた灰皿に灰を落とした。


「いつも余計なところに突っこみたがる人だが、通常はここまでおせっかいじゃない」

「だよね。俺なんかもう少しで二人の肉体関係まで疑うところだった」


 アンブローズは思いきり顔をしかめた。

「なに警戒されてんの。それともアリスちゃんの救出に行きそうだとか?」

「そこまで親切じゃないことくらいあの人は知ってる。いざとなったらドロシーの顔を変える案まで出してた人間だ」

 ジーンがじっとこちらを見つめる。

「……何だ」

「あんな美人を」

「変えた結果も美人なら問題ないだろ」

 アンブローズは煙を吐いた。


「ともかく、せっかくだから朝飯食ってこい。できるかぎり無言で食え。フラットカメラが仕掛けられてる可能性も考えて、なるべく食器に顔を向けるな」


 「ああ……」とつぶやいてアンブローズはつづけた。

「キッチンのコーヒーメーカーにあるエスプレッソは好きなだけ飲んでいい。アリスのブランド物のカップを使いたければ好きにしろ。ただし指紋も細胞片ものこさず洗え」

「あーうー」

 ジーンが意味不明なうめき声を発して頭をかく。そのままのろのろと寝室を出ていった。





 PCの操作パネルのついたイスに座り、アンブローズは空中に投射された海外のものらしき施設の内部映像を見つめた。

 ときおりいくつかある映像のうちの一つを拡大し、ほかの映像の奥に重なった映像と入れかえる。

 どこを見ても、壁に複数のランプがあるだけの暗くガランとした内部だ。

 寝室のドアが開いた。



「ゆうべ手をふってた女の子ちゃん、いた?」



 ジーンが頭にタオルを乗せて入室した。

 うすい色彩の金髪から、ポタポタとしずくが落ちる。

 朝食後にもういちどトイレに行った流れでシャワーまで使い、ついでにタオルを貸してほしいと要求した。

 いままで組んだ諜報担当にもこうだったのだろうか。


「 “女の人” っておまえ言ってなかったか? 子って年齢なのか?」


 アンブローズは操作パネルの上で指先を動かした。

些細(ささい)なことでしょ」

「大きく違うだろ。推定年齢どれくらいだ」

 ジーンが「うーん」とうめいて宙を見上げる。


「一瞬だったからな……アリスちゃん以上、健康寿命内ってとこか」

「分からんと言ってるのとほとんど同じだ」


 アンブローズは眉をよせた。

「たとえば、目覚めたドロシーちゃんって可能性は?」

「三年間も寝たままだったんだ。療養室のベッドは筋肉に負荷をかけて(おとろ)えをふせぐ機能はあるが、まだ危険な潜入ができるほど身体能力は戻ってないだろ」

「そっか」

 ジーンがそうつぶやいてバサバサと髪のしずくを落とした。





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