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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
17 つけ合わせは真っ赤なリンゴ

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Interception1 傍受1


 そろそろ日付の変わったころか。


 キーボードを操作するジーンのうしろでアンブローズはタバコの煙を吐いた。

 閉めっぱなしの安い布地のカーテンをめくる。

 違法建築がそこら中に建つ下層の界隈だが、それなりに味のある夜景が広がっている。


「ぼちぼち寝たふりする。ブレインマシン落とすぞ」

「了解」


 ジーンが返事をする。

「おまえもてきとうなところで睡眠状態にしろ。言うまでもないが、准将がアクセスしてきたら話を合わせろ」

「大尉なら俺の横で寝てますよとか」

 ジーンが大きな声で笑う。アンブローズのすがめた目と目が合うと、ビシッとしたしぐさで敬礼した。


「了解しました、大尉(キャプテン)


「いちいち同性愛ジョークに落としこまないと作業できないのか、おまえ」

 空中の画面には、さきほどから海外の公的施設とおぼしき映像が表示されている。

「スクエアーで傍受したものか」

 アンブローズはタバコをくわえた。

「もうちょっと画面が不鮮明になるかと思って画像処理の準備もしてたんだけど」

 ジーンが指先を動かしながらつぶやく。


「スクエアーって、もとから傍受に適した機能も備えてるとか?」


 自分で言ってからジーンが口元を引きつらせる。

「……そこまではありえない?」

「あのお嬢さまならありえると思え」

 アンブローズは真顔で返した。


「大いばりで “貢献(こうけん)できるだけの機能がある” とか言うだけはあるな 」


 空中の映像をながめながら灰皿に手をのばし、灰を落とす。

「俺がまじめな人間ならこの任務終了後に軍にチクってるところだが、あのお嬢さまのことだ。俺のPCでアクセスした証拠はどうせ押さえてるんだろうな」

 アンブローズは、ふぅ、と煙を吐いた。


「そこまで読んでて、なんでアンのPC使ってるの」

「仮にそれで脅されたとしても、こっちはアボット社のべつの違法の証拠をつかんでる」


 ジーンが苦笑してキーボードを操作する。

 内臓音を勝手に好みのものに変えたのか、ピ、ピ、ピと古典的な音を鳴らした。

「……そういう相手を結婚相手に選ぼうとするアリスちゃんが分からない」

「俺も分からん」

 アンブローズは煙を吐いた。

 ややしてから、ジーンが手を止める。

 大きく息を吐くと、両腕を上にのばして伸びをした。


「休憩してもよろしいでありますか、大尉(キャプテン)

「許可する。コーヒーでも淹れてやる」


 アンブローズはタバコを灰皿で消し、部屋の出入口に向かった。

「たぶん “ティーパーティー” 全機から傍受可能な状態になったと思うけど」

「ごくろう」


「それで何が出てくるかだよね。――何を見せたかったのかな、アリスちゃん。黒幕の人がいきなりカメラ目線で全陰謀を説明してくれたら助かるけど」


 ジーンが背もたれに背をあずける。

 つぎの瞬間、全身を跳ねさせるようにして姿勢を正した。

「う……わ!」

 そう声を上げる。

 何ごとかとアンブローズはふりむいたが、こめかみのあたりに手をあてているということはブレインマシンへのアクセスか。


 ジーンの直属の上官か、それともブランシェット准将だろうか。


「は……はい。いま寝ようとしたところでして。ダドリー大尉? いえっ、とくに連絡は」

 ブランシェット准将のほうだ。

 さっさとブレインマシンを落としておいてよかったとアンブローズは思った。

「まあ……あの、俺は夜型で」

 目のまえの歯車型の表示に向けてジーンが苦笑いする。


 間違ってもビデオ通話の状態にするなよとアンブローズは内心で念を押した。





 台所のコーヒーメーカーで二人分のコーヒーを淹れ寝室に運んでくると、ジーンがイスに座ったままかたわらの壁に頭をあずけていた。


「ああー、ビビッた」

「案の定かけてきやがった」

 アンブローズはベッドのサイドテーブルにコーヒーを置いた。

「いや……上官がここまで休養の心配してくれるってめずしいんじゃないの。直属っていっても階級ずっと上でしょ?」

「上だな」

 アンブローズはコーヒーを口にした。

「教育機関時代から知ってるっていってもさ」

 ジーンがしばらく黙りこむ。



「……じつはアンの実のお父さまだとか」

「精通もない年齢のときの子供か。驚異的だな」



 ジーンがイスから立ち、ぎこちない動きでサイドテーブルに歩みよる。

「座りっぱなしで体固まった」

 つぶやいてテーブル横で軽くストレッチをはじめる。


「ブランシェット准将ってそういや、あの年齢にしては異例なくらいの出世してるよね」


 ジーンが首を回しつつ言う。

「飛びぬけて優秀な人なら可能な範囲?」

「ぜったいに敵をつくらないって特技のある人だからな。よほど上官の推薦に恵まれたのか。俺も気になってなかったわけじゃないが」

 アンブローズは、もうひとくちコーヒーを飲んだ。

「ん……?」

 スクエアーが傍受した映像を見上げてジーンが声をもらす。

「何だ」

「右はしの映像、女の人がカメラ目線で手をふったような。一瞬だけど」

 アンブローズも空中の画面を見た。



 うす暗く無機質な、どこかの施設内。とくに人型のものは映っていなかった。





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