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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
16 人工衛星群ティー・パーティー

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Satellites “Tea party”1 人工衛星群ティー・パーティー1


「watch……」


 アンブローズはつぶやいた。

「見る? 見守る? 腕時計? なんだろ」

 ジーンが首をかしげる。

「いまどき腕時計いわれてもな。コレクターか美術館くらいしか持ってないだろ」

 そんなものをどうしろというのか。どこぞのコレクターの腕時計にメッセージを隠したということなら、古典的でブランシェット准将と気が合いそうだが。

「スラングのほうかな。――気をつけて、危ない、監視する、調査する……」

 ジーンが(ひじ)かけについた操作パネルの上で指先を動かし検索する。



「傍受する」



 ジーンがそう口にする。

 いちばんアリスらしいメッセージという気がするが、では四角、矢印、お茶会のセットとはなんだ。

「こんどはヒエログリフじゃないのか?」

「ヒエログリフにはちょっと該当するのがないよ。とくに矢印。カップはあるんだけど、お茶会のセットというと違うのかな」

 ジーンが(あご)に手を当てる。


「ここは、他国の諜報員あての暗号をさきに解く暇つぶしをライフワークにしている自分にまかせてほしいであります、大尉(キャプテン)


 ジーンが早口で宣言する。

 ライフワークだったのか。

 アンブローズは、無言でタバコを吸った。

「四角……四角……フラットランドのスクエアー氏……」

 ジーンがつぶやく。

 むかしのSF小説か。アンブローズはタバコをくわえた。



「え? もしかして?」



 ジーンが声を上げる。

 ヒエログリフの一覧をすべて閉じ、複雑な記号と数字の羅列(られつ)をキーボードで打ちこみはじめた。

「何だ」


「ものすごくかんたんに考えた。“スクエアー” → “ティーパーティ” 、“傍受”かな」


「スクエアーはあのスクエアーか? アボット社の」

「もしかするとあのスクエアー」

 キーボードを打ちながらジーンが答える。


「ティーパーティは何の隠語だ」

「NEIC所有の人工衛星がそう呼ばれてる。正確には人工衛星群の総称っていうか」

 アンブローズは、ゆっくりと空中のPC画面を見上げた。


「NEIC、人工衛星なんか持ってたのか。つかんでなかったな」


「超小型のものだし数が多いから、いちいち情報として流れなかったかも。うちの国じゃなくてナハル・バビロンに届け出てるみたいだし」

 画面をつぎつぎと開きつつジーンが答える。


「やっぱナハル・バビロンか」

 アンブローズはつぶやいた。


「スクエアーよりは? 機能的に」

「個別に見れば確実に下だけど、千単位って数の多さでカバーしてる」

 ジーンが答える。

 開いているデータのおもむきが変わった気がした。

 国と地域別のコードが違うと気づく。



「……んで、何だこれは」

「NEICの事務職やりながらコツコツさぐった “ティーパーティー” のデータ」



 タバコを吹かしつつアンブローズは眉をよせた。

 三百年ほどまえにあった、どこぞの国の税をめぐる茶葉の大量投棄事件を思い出すネーミングだ。

 たしか自国が植民地の一つを手ばなすきっかけになった事件だったはず。



「表向きは製造番号で届けてるらしいけど、NEIC上層部は通称ティーパーティって呼んでる。社内の書類もだいたいはその名称で通ってるみたい」



「……不吉な名前を。嫌がらせか?」

 アンブローズは眉根をよせた。

「単に前身の会社が茶葉をあつかってたからじゃないかと思うけど」

 ジーンが苦笑する。


「……そういやおまえ、表向きNEIC社員だったな」

「なにその忘れてたみたいな」


 ブレインマシンに連絡が入る。

 アンブローズはこめかみに手をあてた。

 ブランシェット准将だ。

 大きな歯車の表示が目のまえで回転をはじめる。

 独りごとを言う人と思われないよう、通話のときだけ他人からも見えるように出る表示だ。

「──どうしている」

 そう問われる。

 そういえばしばらく休みを取れという意味のことを言われていた気がする。


「おとなしく自宅で休養しています」


 歯車の表示に向けてアンブローズは答えた。

「いまは寝室です。起床したところで──ウォーターハウス中尉ですか?」

 こちらをふりむいたジーンと目が合う。


「休養のときまで男とつるんでる性癖はありません」

「先生ぇ、上官に虚偽の報告してる人がいるんですけどぉ」


 ジーンが小声で言う。

 先生って何だ。アンブローズは眉をよせた。

「はいっ!」

 ジーンが唐突にこめかみに手をあてる。

 准将が念のためあちらにもアクセスしたかとアンブローズは察した。

「はっ。ジーン・ウォーターハウスです。──いまですか?」

 ジーンがこちらを見る。

 アンブローズは分かってるなという目線を向けて圧をかけた。



「あー……──かわいいブロンド女性と通信中です」



 ふたたびこちらと通話をつなぎ、ブランシェットが「ふむ」とうなずく。

「お疑いですか」

「──きちんと休養をとっているならいいんだが」

 ブランシェットが、いつものおだやかな口調で言う。

 ボロが出ないうちに通話を切ろうと思ったアンブローズに、ブランシェットが本題であろうことを告げる。

 アンブローズは眉をひそめた。



「──ドロシーが?」



 ジーンが、こちらをふりむいた。





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