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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
16 人工衛星群ティー・パーティー

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Pretending to be a little girl1 幼女のふりしやがって1

 空中に映るアリスの立体映像をながめる。

 うつむいてはいるが、心身ともにたいした異状はなさそうだ。

 簡素なエプロンドレスは、側近にでも届けさせたのか。


「やっぱ護衛ヒューマノイド連れてたか」


 アンブローズはつぶやいた。

 とりあえずブレインマシンで通常通りの連絡をとってみる。


 シャットアウトされていた。


 拘束された時点で特別警察側に操作されたか。まあそうだろう。

「アリスに合図送る方法あるか?」

 そう問うと、ジーンが(ひじ)かけの操作パネルの上で指先を動かす。

「うーん」

 つぶやいて軽く眉をよせた。

 護衛ヒューマノイドの動作を遠隔操作できれば理想的だと思ったが、ムリか。

「ほかに使えそうなのあるか?」

 アンブローズは、アリスのいる留置部屋の備品や設備を一つ一つ見つめた。


「自信はないけど護衛ヒューマノイドの瞳の中の録画ランプ点滅させられるかな」


 ジーンがふたたび操作パネルの上で指先を動かす。

 しばらくすると、アリスが顔を上げ護衛ヒューマノイドの目のあたりを見つめた。


「点滅……してるかな」


 ジーンが操作をつづけながら首をかしげる。

「ためしにモールス信号送ってみろ」

 アンブローズはそう指示した。

「じゃ、ためしに」

 ジーンが指先を動かす。

 「抹茶ケーキおいしかったよ」と打ってみる。

 アリスの顔が紅潮し、大きな目が見開かれた。


「通じてんのか?」


 空中の立体画面を見つめつつ、アンブローズはタバコをくわえた。

「ていうかアリスちゃん、モールス信号知ってんの?」

 ジーンが眉をひそめる。

 ふいにアリスが横に手をのばした。

 ベッドのまくらの上に置いたB4サイズほどのホワイトボードを手にとる。



「ちょっと待て。そのホワイトボードはどこから手に入れた」



 アンブローズは尋問のときのように声音を落とした。

 さっそくアリスの油断ならなさを再認識する。

「重役さんが届けたか、それとも特別警察が幼女相手だから配慮したか」

 ジーンが、とりあえず「アリス、アリス」とモールス信号をくりかえし打つ。


「俺らにはエグい拷問方法の提示してやがったくせに、お嬢さまにはホワイトボードか」


 アンブローズは顔をしかめた。

「そりゃ、はっきり敵対してる情報将校と企業のトップとはいえ幼女じゃ」

 ジーンが苦笑いする。

「古典的なオモチャを」

 アンブローズはタバコを強く吸った。

「電子ディスプレイあたえたら、外部と連絡とられちゃうからかな」

「どうかな。ネットその他だけ遮断することはできるだろうし」

 色とりどりのペンまである。

 あたえたやつは今どきこれらをどこで買い求めたんだかとアンブローズは思った。


 あえてホワイトボードを選んだ。そこにアリスの何らかの思惑がある気がしてならない。


 アリスがホワイトボードに何かを描きはじめる。

 困惑しつつしばらく待つと、ボードをくるりとこちらに向けて描いたものを見せた。

「は? なに」

 二人で画面をのぞきこむ。


 描かれていたものは、三、四色のペンで描かれた典型的な幼女のお絵かきだった。



 左から二本の低木のそばに寝そべったライオン、ネックレス、ブーツ、三本の低木、ほどけた状態のリボン、直立した鳥。それらが横二列にならべて描かれている。



「女の子らしい絵だけど何これ」

 ジーンが眉をよせる。

 アンブローズはしばらく無言でタバコを吸った。



「……幼女のふりしやがって」

「幼女だってば」



 ジーンが苦笑する。

「かわいらしくお絵描きするくらい元気ってこと?」

「あのお嬢さまがタダで幼女のふりなんかするか。拷問で頭がイカレたんでもないかぎり」

「エグいこと真顔で言わないでよ……」

 ジーンが顔をゆがめる。

「どっかで見たような……気のせいか?」

「暗号だとしても見たことないパターンだけど」

 ジーンが(あご)に手をあてる。


「木、ブーツ、鳥……」


 口元でなんどもくりかえす。

 しばらくするとアリスはホワイトボードを(ひざ)の上に置き、何かを描きくわえた。


 こんどは雄牛の頭部、ライオン、二本の低木、コーヒーカップの横にまた低木。



「頭だけの牛と立った鳥ってモチーフ、どっかで見たことあるような……」



 ジーンが検索をはじめる。

 検索バーにいくつか特徴を書きこんだあとAIが提示したのは、古代の絵文字だった。

「ヒエログリフ?」

「AIさんがそれじゃないかって」

 ジーンが答える。

「たぶん万が一特別警察側に(かん)づかれたときのことを考えて、アルファベットのルーツになった絵文字も混ぜてる」

「幼女のお絵描きあそびに見せかけて、外部と連絡とる方法さぐってやがったか」

 アンブローズはつぶやいた。


「アン、俺、アリスちゃん怖い」

「いまごろか」


 アンブローズはもういちどタバコを強く吸うと、煙を吐いた。

「……何で電子ディスプレイじゃなくてホワイトボードなのか分かった。書いたもののデータが残らない」

「とりあえずヒエログリフと対応させてみる」

 ジーンが複数のページを開きアリスの手元のホワイトボードと照合する。

「I、LOVE、YOU……そのあとにALICEかな」

 読み上げたあと、ジーンが即座にモールス信号を打つ。


「何て返信した」

「 “俺もだよ。アンブローズ” 」


「何送ってる、おまえ」

 アンブローズは横からジーンの襟首(えりくび)をつかんだ。

「アリスちゃんを力づけてあげようと思って」

 ジーンがヘラッと笑う。


 アリスがキラキラした目でカメラを見つめた。





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