I seek you2 フランス人形捜索中2
一般家庭のリビングや玄関口やキッチン、企業の作業室や倉庫、ポリスボックスの給湯室、役所の管理室やカフェの店内。
ありとあらゆるところをのぞきき見て何時間が経ったのか。
国会中継のライブ配信は、二時間前に終了していた。
外が暗くなる。
アンブローズは壁のほうに手をのばし部屋のあかりをつけた。
「……自分であかりつけるんだ、ここ」
ジーンが新鮮なものを見たという顔でつぶやく。
「そこまで旧式だったんだ。じっさいいつごろの建物なの?」
「違法に増築し放題の界隈だったから建物によるだろうが、ベースになってる建物は八十年くらいまえのやつか?」
「二十一世紀の前半くらいか……」
小型オートマトンの視点らしき映像から、防犯カメラと思われる映像に切り替わる。
視点の高さですぐに分かるが、本来ならそれについても表示する機能がありそうなものだが。
なさそうだなと空中の画面を見上げる。
「はじめは面食らったの思い出した。まっくらになった室内で手さぐりでスイッチ探さなきゃならんとか、スイッチの位置を教えてくれる小型オートマトンもいないとか」
「つまりこの界隈は、こんな感じの方法じゃのぞけない界隈ってことか。選んだ理由はその辺?」
「まあ、それもある」
PCの画面を見つめたままアンブローズはタバコのソフトパックを取りだした。
一本をくわえて唾液で火をつける。
さきほどから何時間もくりかえしているので、もはや口が疲労している。
「かわいい妹の仕事を引きついで不自由な生活をえらぶお兄さん……泣けるよね」
ジーンが目頭をおおう。
「早くさき行け」
顔をしかめて急かす。
「はいはい」
ジーンがそう返事をして指先を動かした途あとたん、画面いっぱいに熟女の悶える顔があらわれ、ジーンが「うっ」とうめく。
声まで聞こえてきそうなほどに濃厚な男女の絡みが目のまえで展開され、ついついそろって凝視してしまう。
「えと、さ……」
ジーンが口を開く。
「さきに行くであります、大尉」
「……あ、ああ」
アンブローズは口元にタバコを指先でおさえた。
疲労していた頭が急にスッキリとクリアになった感覚を覚えながら、つぎつぎと切りかわる映像を見つめる。
「あ……これ?」
しばらくしてからジーンがつぶやいた。
映ったのは、せまい部屋に小さなシンクとベッドと机とイス。
はしのほうにはシャワールームのドアが見える部屋だった。
一角にある窓から見える景色は、海のようで中々ながめがいいが、窓には格子がかかっている。
「よく分からないけど、留置場っぽいといえば留置場っぽいかな」
ジーンが告げる。
アンブローズはじっとその映像を見た。
「たぶん留置場だな」
そう断言する。
「へえ……」
ジーンが声をもらした。
「あんがい快適そうな部屋なんだ。超コンパクトなコンドミニアムって感じ」
「いまどき冷暖房もちょっとしたシンクもない薄暗い部屋じゃ、人権が云々言われるからな」
アンブローズはかたわらのサイドテーブルに置いた灰皿に灰を落とした。
「俺がまえに入ったところは、もうちょいせまかった」
タバコをくわえる。
「……入ったことあるんですか、お兄さん」
「わけ分からんタイミングでお兄さん言うな」
アンブローズはタバコを強く吸った。
「留置場に入ってるやつに用があって、三日ほど入ったことがある」
「……何でもやってますよね、お兄さん」
ジーンが苦笑する。
「お兄さん言うな」
「この周辺に絞って画面を切りかえてもいい? ひとまず」
ジーンが問う。
アンブローズはうなずいた。
「監視カメラかな。こういうの各部屋にあるなら、護衛ヒューマノイド特定しなくてもアリスちゃんの様子のぞけるんじゃ」
「NEICになかば乗っとられた形の特別警察が、アボット社のカメラ使ってると思うか?」
「ああ……」
ジーンがため息混じりの返事をする。
「最終的には、あそこのヒューマノイド隊員すべてをNEIC製にしたいんだろうが……」
アンブローズは水蒸気の煙を吐いた。
当初は、自社の市場シェアを広げたいという程度の企みだろうと思っていた。
「……これかな」
つぎつぎと映像を切りかえていたジーンがつぶやく。
ヒューマノイドのものと思われる視点から映された映像には、コンパクトな部屋のベッドに座る金髪の幼女が映っていた。
身につけているのは簡素な生成りのエプロンドレスだが、質は上等そうだ。
ジーンがパネルを操作し人物の顔を拡大する。
アリスに間違いない。
「いたな、お嬢さま」
タバコをくわえつつアンブローズはつぶやいた。




