Combat Sister 近接戦闘シスター2
「四十六景逃げるが勝ちでしょ」
「それ三十六計じゃないのか?」
ジーンの言葉にアンブローズはそう返した。
「ジャパンの富嶽ナントカから来てるんじゃないの?」
ジーンがガサガサと茂みをゆらす。
「あれ三十六景だろ」
「ざんねん。好評だったからあとで十景追加して、合計は四十六景」
何の話をしてるんだこいつとアンブローズは眉をひそめた。
暗号でも伝えたいのだろうか、それともいつものくだらないジョークか。
テンパられるよりはずっとマシなのだが、わざと上官に叱咤されたいマゾなのか、それとも緊張をほぐそうという思惑でもあるのか。
「逃げよ、アン。そして僕とどこか遠いところで幸せに暮らそう」
「……逃げる案を何としても推したいのはよく分かった」
アンブローズは顔をしかめた。
諜報においては決して悪い提案ではない。無事に情報を持ち帰るのが最重要だ。
「大尉の許可をもらいたいであります」
「よし」
アンブローズは答えた。
「さきに逃げるね! 援護して!」
ジーンがヒューマノイドの死角の位置にある茂みから立ち上がる。
全速力で墓地の奥のほそい道へとはいった。
行き先は、ますます木々が鬱蒼と生い茂っている。
アンブローズは、ジーンに銃口を向けようとしたヒューマノイドの手を撃った。
ヒューマノイドの手が一部破壊されて地面に指が転がる。
墓石の上に落ちた自身の白くほそい指にはまったくかまわず、ヒューマノイドのシスターは真顔で壊れた手を差しだし銃をひろう。
すかさずアンブローズは、かがんだシスターの肩を撃った。
シスターの肩の鉄色の部分がわずかにむき出しになる。
動きをうかがいつつジーンのあとを追おうとしたアンブローズに、ニヤリと笑いかけた。
銃で威嚇しながらジーンの背中を追う。
ほんとうに逃げるつもりなら駐車場のほうに向かうはずだが、ジーンが走って行くのは反対方向の墓地の古い敷地内だ。
どんどん多くなる木々の枝を手でかき分けながら、アンブローズは俊足で追ってくるシスターを威嚇しつづけた。
スリット入りの修道服が枝に引っかかって破け、見かけだけは健康的なナマの大腿が二本ともさらされている。
「恥じらいもプログラムしとけ……」
アンブローズは目をすがめた。
墓地を拡張するまえの時代の古い墓石がポツポツと建つエリアで、ようやく立ち止まったジーンを見つける。
あたり一面大きく成長した木にかこまれ、いままでいたエリアよりもさらに暗くて不気味だ。
「ジーン!」
何かあるのか。
手っとり早く説明しろとアンブローズは適切なゼスチャーはないか頭をめぐらせた。
「われらをして御身にならいてつねに天主に忠実ならしめ、その御旨を尊み、その御いましめを守るを得しめたまえ。かくてわれらあいともに天国において、天主の御栄えをあおぐにいたらんことを。御身の御とりつぎによりて天主に願いたてまつる――」
ジーンが教会の祈りの言葉と思われる言葉を口にしている。
おふざけやりながらじゃなければ死ぬ病気なのか。
「おい、何か思惑あるのか……!」
「アン、そこジョン・スミスさんの墓石あるから踏まないであげて!」
ジーンがさけぶ。
低木に囲まれて、たしかに黒っぽい墓石があるのが目に入った。
すぐうしろから大腿むき出しで追ってくるシスターを横目で見つつ、低木をつかんでバランスをとり横によける。
シスターが、ニヤリと笑った。
「生身の “心理”、“宗教観”。ほんとうにムダなものです。こんなものただの石なのに――」
黒い墓石を踏みつけたとたん、シスターの動きが鈍くなった。
前方を見すえたまま、前後にゆらゆらとゆれる奇妙な動作だけをくりかえす。
「効いたー」
ジーンがその場にしゃがみ、ハイタッチのようにこちらに手を向ける。
「何だ?」
アンブローズは指先だけふれる申し訳ていどのハイタッチを返してやりつつ問うた。
「むかしの時代は墓石の種類に規制とかなかったから、磁鉄鉱がふくまれてるのがけっこうあったって思い出してさ。ヒューマノイドに影響があるってのが理由の一つで規制されたらしいけど」
なるほどとアンブローズは思った。
墓地の敷地が拡張されるまえの古いエリアにはのこっていたということか。
「機械とデジタルは大変だな」
前後にゆれつづけるヒューマノイドのシスターに向かってそう声をかける。
「ささ、大尉。トドメを」
ジーンが手でシスターをさし示す。
アンブローズはゆっくりとシスターの背後にまわり、人工脳の脳幹にあたる部分を撃つ。
「アーメン」
ジーンがわざとらしく両手を組んだ。




