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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
12 接触ライン

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Line of Contact2 接触ライン3


「ジーン、NEIC製か?」


 アンブローズは拳銃をかまえつつそう尋ねた。

 ジーンが複雑な表情でヒューマノイドを凝視する。

「違うのか?」

「いや、ちょっと待って……」

 ジーンがますます複雑な表情になる。


「お肌のこと、もっと勉強しとくんだった」


 何のことだとアンブローズは眉をよせたが、アリスが以前、NEIC社製とアボット社製のものは肌の透明度がちがうと言っていたのを思いだす。


「アボット社製か」

「たぶん。NEIC製のものにくらべると、動きがよりなめらかというか。首筋の脈まで再現度が高い」


 ザザッ、と低木の葉がなぎはらわれる。

 シスターがジーンの目の前まで走りより、銃をつきつけた。

 同時にジーンがシスターの(ひたい)に向けて銃をつきつけ、アンブローズは同じようにシスターに銃口を向けた。


「シスターじゃないよな」


 アンブローズは念を押した。

「特別警察です。いますぐ作業をやめなさい」

 シスターが抑揚のない声で告げる。

 さきほどの人あたりのいい態度は、潜入捜査用にプログラムされたものかとアンブローズは思った。

 人目もある場所だ。できればこちらを騙して穏便に始末するつもりだったか。


「どんなわけで」


 アンブローズは問うた。

「こちらはれっきとした移葬作業会社の者で、委任状まで添えた依頼内容を提出して許可を得ている。管理事務所の見解は?」

「教会およびそれを管轄する政府機関、関連事務所の見解は必要ありません。国体護持のさまたげとなる作業です。いますぐやめなさい」

 シスターの薄茶色の瞳が、内部構造の透けて見えるスケルトンの瞳に入れ替わる。


「抵抗すれば法律番号36 Geo.E.3 c.7に基づき強制執行いたします」


 シスターが無表情でそう告げる。

「移葬のどこが国体護持のさまたげとなるのか解釈を聞かせろ」



「アボット社専用人工衛星、スクエアーの映像を傍受しました。ここに埋まる死体を探るのは、国体護持のさまたげとなります」



 アンブローズは掘った穴を横目で見た。

 あたりか、と目をすがめる。

「なお、人工衛星スクエアーを管理するアボット財閥総帥、A・A・アボットことアリス・A・アボットをすでに共謀者として拘束しています」


 「え」とジーンが小さく声を上げる。

 こちらをチラリと見たが、アンブローズはつとめて表情を変えずにいた。

 アボット財閥総帥A・A・アボットが、八歳の少女アリス・A・アボットとつきとめるのは特別警察の情報開示の権限を考えればさほどむずかしいことではないだろう。


 カマをかけているのかもしれんと思う。


 アリスに近い人間に直接確認するしか真実は分からない。

「人質のつもりか? あのお嬢さまには、もとから何かに巻きこまれても守れんと言っている。本人もたぶん承諾済みだ」

「たぶんて」

 ジーンが小声でツッコむ。

 アンブローズは、シスターの米噛みにグッと銃を押しつけた。



「俺は任務のためならゲイのまね事もするし、幼女でも見捨てる。ここまで探って分からんか」

「だが、そうは言いつつ情というものがわくのが生身の人間では?」



 シスターが厚い唇のはしをクッと上げて笑う。

 いやな表情までプログラムされてやがんなとアンブローズは思った。

「つまり、このまえみたいな戦闘に特化したヒューマノイドじゃなく特別警察隊員を直々によこしたのは、人質獲得を告げるためだと」

「陸軍療養所においては、国体護持のさまたげとなる陸軍参謀部アンブローズ・ダドリーの処刑を試みましたが失敗しました」

 シスターがよどみのない口調で言う。


「処刑って裁判は? 法治国家でしょ、うち」


 ジーンが苦笑する。

「後日の調査で、陸軍参謀部ジーン・ウォーターハウス、および療養所にて執行妨害をした三名の女性将校も共謀者として処刑判断が下されています」

「ぅえ」

 ジーンがおかしな声を上げてさらに苦々しく笑う。


「ますます憲法解釈のプログラムが狂ってやがるらしいな……」


 アンブローズは眉間にしわをよせた。ふいにシスターが指先を動かしたのが目に入る。

「ジーン!」

 ジーンが察して(ひざ)を折り、中腰になる。

 同時にアンブローズはジーンに体当たりしてかたわらの低木につっこんだ。

 背後で銃声が鳴る。

 すかさず手をのばし、シスターに銃口を向けた。

「いて……」

 ジーンが折れた小枝に埋まった体を起こす。


「痛がってないでさっさと体勢直せ」


 そう指示しつつアンブローズは立ち上がった。

「この通り冷たい人ですから」

 ジーンが立ち上がりながら苦笑する。

「身をていして(かば)ってやったろうが」

 アンブローズは顔をしかめた。

 シスターが厚い唇を上げ、ニッと笑う。

 修道服のスリットをかき分けると、ガーターベルトに引っかけた小型のディスプレイ端末をとりだした。


「あのそれ、どういう演出……」


 銃をつきつけつつジーンが体を引く。

「おまえみたいにヒューマノイドの太股ごときでドキマギするやつがいるからだろ」

「ハニトラ仕掛けられてんの? 俺」

 ジーンが眉をよせる。

 ディスプレイの真上に、立体の動画が現れる。



 殺風景な室内。窓はないと思われた。



 アンティーク風のワンピースを着た金髪の少女が、行儀よくイスに座っている。

 アリスだ。

 拘束した証拠ということだろうか。

「ああ、なるほどねー」

 ジーンがいつもと変わらない調子で口のはしを上げる。

 むだに動揺しないところにアンブローズはホッとした。

 非常時に動揺する連れほど面倒くさいものはない。

 もっとも、そういう性格傾向のDNAの提供で生まれている上に、動揺しないよう訓練は受けているのだが。


「了解していただけましたか?」


 シスターが挑むような目つきを向ける。

「了解した」

「では、作業の中止を。これからあなたがたを国体護持のさまたげとなる団体、および個人として処刑執行いたします」


 シスターが指先を動かす。

 すかさずアンブローズは引き金を引いた。





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