表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
11 人工衛星スクエアー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/41

Satellite Square1 人工衛星スクエアー4


 リビングに戻ると、アリスがおとなしくテーブルについていた。


 空中をじっと見つめているところをみると、ブレインマシンでひまつぶしにドラマでも観ていたのか。

 アンブローズは窓の外を見やった。陽がかたむきかけている。そろそろ夕刻ちかい。

 そんなに長時間つめてたか。

 無言でテーブルの片隅に手をのばす。

 置き忘れたタバコのソフトパックを手にとった。一本をくわえて引きだす。


「終わりましたの?」


 アリスがこちらに視線を向ける。

「ジーンがまだやってる。俺はタバコとりにきただけだ」

 アンブローズは水蒸気成分の白い煙を吐いた。


「ハイゲートではありませんでしたの?」

「まだ分からん。大きな墓地だからな。目視で探すとなると思ってたより広い」


 タバコを指でおさえながら、アンブローズはテーブルの上を見た。

 さきほどの抹茶のケーキは、まだ手をつけられず箱の中だ。

「もう暗くなる。お嬢さまは帰れ」

 アンブローズはそう告げた。

「ほかの場所を見るとしたら、まだ必要ではありませんの?」

「必要ならメールで連絡する……」

 そう言いかけてアンブローズは口をつぐんだ。

 メールはのぞかれてる可能性があるんだったなと思う。

 生まれるまえからある当たりまえのツールなだけに、どうにも忘れる。

「やはり泊まりこみますわ」

 アリスが言う。


「ジーンと交代で仮眠をとりながらになるかもしれん。お嬢さままで泊められるか」

「貞操の心配をしていらっしゃるのなら、あなたを信じていますから平気ですわ」


 アンブローズは眉をよせた。

 もはや言葉を返す気力もない。

「……それはともかくだ」

 無視して灰皿に灰を落とす。

「アン」

 寝室に通じるドアが開き、ジーンが顔をのぞかせた。



「白骨死体が四体、タテにならんで埋まってるの発見」



 アンブローズは目をすがめた。

「服装はスーツか? ブランドは?」

 早足でジーンのもとに歩みよる。

「いや……」

 ジーンが顔をゆがめた。


「俺もボロボロのブランドスーツとか想像してたんだけど、考えてみれば服はないほうが身元が分かりにくいし――殺害後に本人の着てた服を着るってのも考えられるよね?」


「なるほど」

 アンブローズはそう返した。

 なりすましはこちらの本分だ。たしかに服装の情報は大きい。


「ということは刺殺や射殺じゃないのか。出血の少ない方法か……」


 寝室に入る。

 ドアを閉めるまえにアンブローズはいちどリビングをふりむいた。



「お嬢さまはケーキ回収して暗くならんうちに帰れ。これがビンゴならしばらくここ留守にする」

「ごめんね、アリスちゃん。これからアンとベッドルームで朝まで二人きり……」


「いらんジョーク吐くな」



 ひらひらと手をふるジーンの腕をつかみ、アンブローズはドアを閉めた。

「どこだ」

 空中に投影された映像を見つめる。

 ジーンが操作パネルの上で指先を動かし、映像の角度を二、三度大きく変えた。


 おおかたの火葬の骨よりも深い位置。

 四体の骨が、あおむけに横たわった格好でたてに重なるようにならんでいる。


「何でこのならびだ」

「たぶん一体ずつ(ひつぎ)に入れたんじゃないかな。明度の調節していけば、棺も見えるんじゃないかと思うけど」

 ジーンが操作パネルに置いた指を小きざみに動かす。



「いちおうは不審がられたさいの工作はしてんのか……」

「花もなさそうだけどね。全裸でごろん」



 ジーンが苦笑する。

「ヒューマノイドがこの手の偽装すると、どこか不可解な偽装になるってな。――生身の人間のセンスが分かってないから。そう言ったのおまえだっけ?」


 アンブローズはリビングから持ってきた灰皿に灰を落とした。

 玄関のほうからドアを開け閉めする音がする。

 アリスが帰ったか。


「これが当たりなら、遺体処理したのはヒューマノイドか……」


 ジーンが空中の画面を見つめながら(ひじ)かけに頬杖をつく。

「まあ、わざわざ生身の人間にやらせる意味もないしな。たいていのヒューマノイドにくらべたら腕力ないだろうし、忌避感(きひかん)で失敗されるおそれもあるし」

「骨になにか特徴ないかな……」

 ジーンが操作パネルの上で指をすべらせ、少しずつ拡大する。


「やっぱ届けてない機能いろいろありそうか? スクエアー」


 アンブローズは空中の画面を見つめた。

「アボット社製のものとつなぐなら、防犯カメラと各種レーダーカメラ、コード転写タイプのGPS盗聴器まで、その気になればスクエアーからすべて感知可能みたいだね」

 そういえば一晩中の行動を各所のカメラから追われてたことがあったなとアンブローズは思った。



「これで捕まったら、児童少年法で無罪とか言いだすんじゃないだろうな、あのお嬢さま」



 アンブローズは顔をしかめた。

「墓地内のだれの所有地か特定できるか? NEICが購入した土地なら、それだけでも攻める材料になる」

「あの紙の資料と照らし合わせることになるかもしれないんだけど……」

 ジーンが眉根をよせる。


「ブレインマシンにスキャンしてないのか、おまえ」

「つまり一人で照会作業しろと」


 ジーンが苦笑いする。

「必要事項の照会と準備ができしだい、ハイゲートに出発する。てきとうな理由つけて軍とは関係ない車調達しとけ」

 アンブローズはタバコを灰皿に押しつけた。

「わりと人使い荒いすね、大尉(キャプテン)

「墓掘りにはいっしょに行ってやる」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ