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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
11 人工衛星スクエアー

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Satellite Square1 人工衛星スクエアー3

 ジーンが、安物のカーテンをめくり寝室の外の景色をながめる。


「これ、外を警戒して閉めっ放しにしてんの? いまさらかもしれないけど、ここまでするならもう少し設備が整ったところを拠点にしてもよくない?」


 そう言いスッと閉める。

「とくに関係ない。仮眠とるときいちいち閉めるのが面倒くさいから閉めっ放しにしてる」

「了解です」

 ジーンが応える。


 アンブローズは、デバイスチェアの(ひじ)かけについたPCの起動パネルに触れた。

 空中に「welcome」の文字が大きく表示される。


「いま遺伝子認証の登録する。おまえのDNAデータのぞくぞ」

「どぞ」

 ジーンがそう返す。

 軍の名簿にアクセスする。

 活動内容によっては諜報担当のDNAデータは機密あつかいにされ特定の階級以上でないと見られないこともあるが、そこまでではないらしかった。


 本来はNEICの監視ていどの任務だったとブランシェット准将が言っていたか。


 諜報担当としてのIDを書きこみ、表示されたジーンのDNAデータをコピペする。

 「遺伝子認証」の項目を選び、パスワードを書きこむ。

 ちらりと背後を見た。

 何の遠慮もなくジーンがうしろからながめている。


「……なに見てる」

「パスワードって何にしてるのかなと思って」


 ふつう見るか。アンブローズは顔をしかめた。

「その人のいちばん大事なものに関連した単語だったりすること多くない?」

「知らん」

 アンブローズはそっけなく答えた。



「これ統計とっておくと、傍受とかクラッキングとかするとき楽なんだよね。だから常にしてる」



 どこまでが趣味で、どこからが任務に基づいた行動なんだか。アンブローズは眉をよせた。

 とりあえずは見ないようにとの配慮か、ジーンがあさっての方向に顔をそむける。

 しばらくして「登録が完了しました」との表示がでた。

「よし使え」

 アンブローズはデバイスチェアから離れ、ジーンに座るよううながした。



「アボット社の “スクエアー” か。こんなときじゃないと、さすがに手はだせないな」



 ジーンがうきうきした表情で肘かけの操作パネルに手を置く。

 少しうしろに反れた背もたれに背中をあずけ、ややしてから満面の笑みでアンブローズのほうを見た。


「少しシステムのデータとりながらでもいい?」

「勝手にしろ」


 アンブローズはベッド横のサイドテーブルに置いた灰皿に灰を落とした。

 データをとったのがバレるか、データを利用して侵入したかのさいにアリスと一悶着(ひともんちゃく)あるかもしれんが、任務完了してバディが解消されたあとなら知ったことじゃない。

 ジーンが肘かけの操作パネルの上で指先を動かし、画面を見つめる。

 エンターキーを使っている率がずいぶん高い気がするが、まあいいかとアンブローズはチェアのうしろでタバコを吹かした。


「ハイゲート墓地って、火葬? 土葬? どっちも許可されてる?」


 ジーンが尋ねる。

「都市近郊なんで土葬は少なめ。だがさっきのぞいた様子だと、古い埋葬地はけっこうある」

「都市のどまんなかでガイコツならべてる国とかもあるじゃん」

「カタコンベか?」

 話しつつ空中に投射された画面をながめる。

 アボット社の専用人工衛星、スクエアーから傍受された画像が読みこまれはじめた。

 土の中の真っ暗であろう景色を、あかるめのライトで照らしたようにAIが自動で修正する。


「傍受した分、少し画像落ちてるかな? それでもじゅうぶんだと思うけど」


「じゅうぶんだ」

 アンブローズは身を乗りだして画面を見つめた。

 ジーンがタッチパネルの上で指先をススッと動かし、画面の角度を変える。


「ここまでの機能、アボット社で何に使うつもりだったんだろ」

「俺に聞くな」


 アンブローズは指先でタバコをおさえた。

「火葬が多いなら、殺害後にそのまま埋められた遺体との区別はかんたんそうだけど」

 ジーンがスクエアーの撮影した画面をつぎつぎと表示する。


「深さはほかの埋葬遺体と同じかな?」

「念のためほかの遺体より少し深めの場所も表示しろ」


 アンブローズはそう指示した。

 火葬された遺体よりも五メートルほど下の地下部分が表示される。

 ところどころに火葬された骨が小ぢんまりと(まと)められた形で映っていた。

「かなり深く埋める慣習もあるのか」

「でもちゃんと骨壺(アーン)に納められたやつっぽい」

 ジーンが応える。


「骨の位置がちゃんとそろって寝てるか丸まってるかしてる遺体があったら、特別警察の上役の可能性が高いのか……」


 アンブローズは煙を吐いた。

 ほぼ静止画だった画面が、クリアになり少しずつ動画になる。

 二人でじっと骨の埋まる箇所を見つめた。



「……ちなみに関係ない殺人事件の被害者の遺体を見つけてしまった場合はどうするでありますか、大尉(キャプテン)



 ジーンが画面を見ながら問う。

「無視する」

 アンブローズは答えて水蒸気の煙を吐いた。

 少し考えてから言い直す。


「訂正する。保安局に通報して恩を売る。いざというとき何らかのカードになるかもしれん」

「さすがであります、大尉(キャプテン)


 ジーンが苦笑する。どうせ同じこと考えてたろとアンブローズは思った。





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