Satellite Square1 人工衛星スクエアー2
「分かりましたわ」
アリスが凛とした口調で声を上げる。
「あなたが前時代的に、あくまでも生きていた年数でわたくしを計りたいのならしかたありませんわ」
アリスがツンと顎をしゃくる。
「今回は協力いたしますわ。でも、一つ条件がありますの」
「条件」
アンブローズは復唱した。
「十年後なら言ってくださる?」
アンブローズは無言で眉をよせた。
「呑んで! これくらいの条件なら呑んでいただかないと、話が進まないであります、大尉!」
ジーンが右手を挙げる。
「分かった」
アンブローズは淡々と答えた。
灰皿に灰を落とす。
何の交渉なんだこれはと眉間にしわをよせた。
アリスが米噛みのあたりに手をあてる。ブレインマシンを起動させたのか。
「まずはどこですの? スクエアーから撮影した動画を転送しますから、緯度と経度をおっしゃって」
アンブローズはジーンに目配せした。
「まずは近場のハイゲートか」
言いながら自身のブレインマシンを起動させる。ジーンがうなずいた。
「座標を送る」
空中に付近の地域の地図を表示させる。
ハイゲートに場所を絞っていくと、右下に表示された座標の数値が目まぐるしく変わる。
「緯度51.588、経度-0.072、DMS緯度51°35'17"N、DMS経度0°4'19"W」
「移動や姿勢変化はない対象なので、ほかの機能は必要ありませんわね」
アリスが問う。
「ほかの機能……」
アンブローズはつぶやいた。違法なものがずいぶん含まれているふしがある。
「大尉、このさい聞かなかったことにすべきであります!」
ジーンが苦笑した。
ブレインマシンに合成開口レーダーで撮影したハイゲート墓地の地下動画が読みこまれる。
虹色の分かりにくい画像だった開発当時の時代のものとくらべて、いまは現地で撮影したかのような現実的なカラーに変換されて表示されるので分かりやすい。
それだけに埋まっている骨の画像はリアルだが。
地下に埋まる棺。
現在は火葬を選択する率が大半になっているが、キリスト教の「土に帰る」という考えから土葬を選択する遺族も何割かいる。
バラバラになった白骨の動画が読みこまれ、アンブローズは眉をひそめた。
「分かった。お嬢さまはここでいい。ジーン、あとスクエアーから傍受しろ」
「傍受」
米噛みに手をあてつつジーンがとまどった表情をする。
「おまえならかんたんだろ」
「……ブレインマシンからできるかな。足つきそうなんだけど」
「何なら俺のPC使え。遺伝子認証の登録してやる」
アンブローズはPCのある寝室のほうを顎でしゃくった。
「なにをわざわざ手間のかかることをしていらっしゃいますの?」
アリスが顔を上げる。飴色の眉をよせた。
「子供の見るもんじゃない」
アンブローズはそう答えた。
タバコを灰皿で消し、ソフトパックに手をのばす。
空中に表示されたブレインマシンの画像を見つつ、口でタバコを引っぱりだした。
「また子供あつかいですの?」
アリスが唇を尖らせる。
「子供だ」
「ああもう、その堂々めぐりやめようよ」
ジーンが顔をしかめる。
「お嬢さまはあとはそこの豆料理みたいなケーキ処理してろ」
アンブローズは、ケーキの箱を親指で指した。
「抹茶ね」
ジーンが訂正する。
「衛星の持ち主を除けものにするんですの?」
「うまく行きゃ、このさき映るのはボロボロのスーツ着た白骨死体だ。見たいか」
アンブローズはタバコに火をつけた。水蒸気の煙を吐く。
「葬式のきれいに整えられた死体とは違う。お嬢さまはそれすら見たことないだろう」
「お父さまのものは見たことありますけど」
「ジーン、傍受」
アンブローズは無視してジーンに指示した。
「了解」
ジーンが米噛みに手をあてる。
しばらくしてから席を立った。
「やっぱりブレインマシンじゃ容量不足だ。PC使わせて」
「遺伝子登録する」
アンブローズは、ジーンを寝室にうながした。
アリスが複雑な表情でこちらの動きを目で追う。
「つまり、わたくしは利用されましたの?」
アリスがきつく眉をよせる。あくまで恋愛ドラマごっこをしたいのだろうか。
アンブローズはふりむいた。
「お嬢さまのためを想ってのことだ。愛してるってのは、そういうことだろう」
アリスが全身を固まらせる。ややしてからその体勢のまま顔を真っ赤にした。
「お嬢さまは俺にとって必要だ。そこにいてくれ」
寝室に入り、ドアを閉める。
「さすが」
ジーンが小声でつぶやいた。
「任務のためならハニトラも厭わない人は違う……」
「ハニトラに入るか。ただ子供をあやしただけだ」
アンブローズは小声で返した。




