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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
10 返信不要

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Human intelligence2 人的情報収集2


「三百余名の “埋葬” は、けっきょくドロシーちゃんのおかげでお流れになったってことか」


 ジーンが資料を一枚ずつめくる。

「いまだに土地を確保してるってことは、同じ手口で再チャレンジするつもりなのかな」

「三年かけてんだ。前回の(あら)を修正してんだろ」

 アンブローズは席を立ち寝室のドアを開けた。

 寝室の入口近くの棚に置いてある、極うすの使いすて手袋を二組とりだす。

 一組をジーンのほうに放り投げた。

「なに」

 ジーンが両手をだして受けとる。


「素手で触らんほうがいい代物なんだろ」

「細菌兵器じゃないんだからさ」


 ジーンが苦笑する。

「手を切るってのはともかく、指がパックリひび割れるってのはどういうことだ」

「ああ」

 ジーンが手袋をはめる。


「長時間紙をあつかってると、手の(あぶら)とか水分が紙にとられて手が荒れるんだってさ。場合によっては、荒れすぎてパックリ」

「やっぱ凶器じゃねえか……」


 アンブローズは顔をしかめた。

 手袋をはめ、イスにもどる。灰皿に置きっ放しのタバコの灰を少し落としてくわえた。


 ジーンが資料をめくる。



「三年前に体を張って止めたドロシーちゃんが昏睡状態なのはあっちも確認してるしね。その後の調査を引きついでるアン一人をコロコロしたらすぐにでもいけると思ってたかも」



「コロコロって何だ」

 アンブローズは軽く眉をよせた。


「そこに、“軍がすでに証拠を固めた、上層部まですべて承知だ” って証言が水を差したわけでしょ」


 ジーンがそう言う。おもむろに顔を上げて軽薄に笑った。

「時間稼ぎができたじゃあん」

 アンブローズはきつく眉をよせた。

 どこまで計算してやっているのか。こちらはとうとつのニセ情報拡散にヒヤヒヤした。

「でさ」

 ジーンが資料をめくる。



「すり替えた特別警察の上役も、そこに遺体埋めてんじゃないかと思って」



 アンブローズは目を見開いた。

「どの資料だ」

 思わず身を乗りだす。



「はっきり特定できるような資料は短時間じゃむりだったよ。でも大量の人骨の埋まる場所ならカモフラージュしやすいよね」」



 ジーンがそう答える。めくっている資料を、アンブローズは逆側からのぞきこんだ。

「NEICの元重役のいる大学で、サウス・ロナルド島の研究を仕切りだしたのはそういうことだってか?」

 アンブローズはタバコを強く吸った。


「埋まってる人骨をDNA鑑定か炭素14で測定されるかしたら一発で誰のものかバレるけど、理事長がストップかけちゃったらかんたんでしょ」


 ジーンが一枚の資料を差しだす。

「カム川沿いのK大学教授二名、准教授二名、講師四名ほどが元NEIC社員。――ちゃんと調べたらもっといるかもしれないけど」

 アンブローズは、ジーンの手元の資料を引ったくった。

 さすがにこんな関連性のなさそうな機関にまで調査を広げることはしていなかった。


「開発部とかにいた人たちらしいね。まあ一般の社員じゃ、教授に採用なんてしたら見え見えだもんね」


 ジーンが笑う。

「問題は、三百余名の遺体と違って数人となると運ぶのはかんたんだから、墓地のほうか島のほうか特定しにくいってことなんだけど」

「殺害した瞬間にヒューマノイドにすり替わってるだろうから、周囲にはいないことすら気づかれにくいしな……」

 アンブローズは灰皿でタバコを消した。

 ソフトパックに手をのばし、二本目をくわえる。

「コーヒーは? 飲まないの?」

 ジーンがコーヒーカップに視線を落とす。

「そのうち」

 アンブローズはみじかく答えた。保温プレートに乗せているので冷めはしない。

 ジーンが、あらためて資料をながめた。



「殺害されても家族にすら気づかれてないとか。一般の家庭よく知らないけど、ゾッとするな」



 そうつぶやいて顔をしかめる。

「夫婦生活はもとからなかったか、どうにかごまかしてたかだな。あれがあれば一発で分かったはずだ」

 アンブローズは淡々と煙を吐いた。

 ジーンが苦笑する。


「体当たりでそれ確認するアンって……」

「いちばん手っとり早い」


 アンブローズは水蒸気の煙を吐いた。

「アリスちゃんが評価してるのって、そういうところなのかな」

「そういや、お嬢さまの存在があったな」

 アンブローズは灰皿に灰を落とした。


「このまえの違法スレスレの機能で、墓地の地中のぞけるんじゃないか?」


「ああ……」

 ジーンが宙をながめる。

「軍の人工衛星じゃ、特別警察が傍受する可能性があるからな」

「へたすりゃ、シンプルに特別警察の人工衛星ぶつけられるとかね」

 ジーンが苦笑いする。


「音声感知の機能まではこのさい要らないけど」

「墓地の地中で話し声が聞こえたら、それはそれで世紀の大発見だけどな」

 アンブローズはもういちど灰皿に灰を落とした。





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