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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
09 フィッシュ・アンド・チップス

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Fish-and-Chips3 フィッシュ・アンド・チップス3

 そなえつけの加熱調理器具で温めたフィッシュ・アンド・チップスを、ジーンがテーブルに運び雑に置く。


「伝統食だな」


 アンブローズはタバコを灰皿で消した。

「ふだんはなに食べてんの」

「ヴェネツィアの伝統食」

「パスタか」

 ジーンがそう返す。


「ずーっと吸ってたけど、タバコ止まんないのって口寂(くちさみ)しいから?」


 ジーンが問う。

 うすいアメリカン風の合成コーヒーのおかわりをカップにそそぎ、テーブルに置いた。


「アリスちゃんなんて、なに食べてんの。フランス料理とか?」

「おフランス料理についての見解をまえに語ってたな」


 アンブローズは長細くカットされたポテトをつまんで口に運んだ。


「 “イタリア人がまずいと言って押しつけた黒トリュフを、高級品だとありがたがるお国のお料理なんて間抜けにしか思えませんわ” だと」

「トリュフで決めんの……」


 ジーンが顔をしかめる。

「ガキなんだから、ピーマンでも食ってればいいのにな」

 アンブローズはふたたびポテトを口にした。

「トリュフとかああいうのって、いまだ高級品なんだね。工場で量産できそうなもんなのに」

 ジーンがイスを引きテーブルにつく。

「ああいうのは生産量コントロールして値が落ちないようにしてる」

「あ、そうなの」

「まえに潜入したところでそうしてた」

 アンブローズは薄いコーヒーを飲んだ。



「話変わるけどさ」



 (たら)のフライをバイオプラスチックのフォークで切り分けながら、ジーンが切りだす。


「ヒューマノイドにすりかえられた特別警察の幹部って、遺体はどこにあるんだろ」

「おまえ……食事どきに」


 アンブローズは顔をしかめた。

 言うほど気にしてはいないが、いちおうマナーという認識はある。

「遺体さがした?」

 ジーンがかまわずフォークでこちらを指す。


「ぜんぜん。置き場所の見当もつかないし、とりあえず一人で集められる証拠に全振りしてたからな」


「ずっと単独行動だったわけ?」

「基本的にはな。当初はドロシーの起こしたあの事件に、国家転覆の計画なんてもんが関係してるとは准将も思ってなかったみたいだし」

 アンブローズはポテトをつまんだ。


「国家転覆計画の情報って、どこからつかんでたの?」

「准将から伝えられた。詳細は知らん」


 アンブローズは答えた。

「そもそもあの事件で官庁ビルにいる要人にすりかわるとして、遺体はどう処理するつもりだったんだろ」

 ジーンが、フォークで刺した(たら)のフライを(かじ)る。

 サクッと音がした。


「三百余人もの遺体でしょ。薬品で溶かすにもそれなりの設備が要るし、埋めるにしても街なかで三百余人って運ぶの大変そうだけど」


 アンブローズはソイソースをさがしてテーブルに置かれた調味料の容器を見た。

 何をさがしているのかという感じで、ジーンが目線を追ってくる。

「ソイソースないか」

「なにに使うの」

「フライ」

 ジーンが複雑な表情でテーブルの上に目線を()わせた。

「ソイソース使ったことなかった」

「おまえとはまず味覚が合わんな」

 しかたなくウスターソースを手にとる。

「つづきいいぞ」

 フライにかけながらとジーンの話をうながした。

「ああ、うん」

 ジーンがウスターソースのかけられる様子を目で追う。



「いっせいにすりかわれる機会をねらってたわけだよね、あの事件の日って。何かあったっけ」

「国会の予算委」



 アンブローズはフライをフォークで切り分けながら答えた。

「弱いな」

 ジーンが眉をよせる。


「強いも弱いもあるか。いちおうは議員がすべて集まる」

「全員いたのかな」


 フライを口にしつつジーンがつぶやく。

「当日は審議が気にいらんとか言ってボイコットしてた議員が数人いた」

「だれとだれ。党は? みんな同じ?」

 ジーンが問う。

「その議員たちがNEICとグルだって可能性は? 手引きしたとか、さわぎが起こるのを事前に教えてもらってたとか」

 ジーンがフォークでこちらを指す。

 行儀悪いなこいつと思いながらアンブローズはフライを噛った。

「全員おなじ党ってわけじゃない。何なら確執のある同士もいた。数人のうち二人はボイコットの常習だ」

「だれ。そういう人に票入れてんの」

 ジーンが顔をしかめる。

「片方はアボット社が支持してる議員だ。社員はこいつに入れろと選挙時は無言の圧力をかけられる」

「アリスちゃん……」

 ジーンが眉をよせる。



「この日は軍と保安局の上層部も合わせて七名ほどきてた。直前にスパイが逮捕されてて、その証言のために」

「けっこう要人そろってんじゃん」



 ジーンが言う。

「だれ? 予算委なんて弱いとか言ったの」

「おまえだろ」

 アンブローズは眉根をよせた。

「そのころに逮捕されたスパイってどこのだっけ。ナハル・バビロン?」

「いや。ぜんぜんべつの国」

 アンブローズはそう答えて薄いコーヒーを口にした。


「そっか。俺も気をつけよ」

 ジーンがそう返してポテトをつまんだ。





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