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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
09 フィッシュ・アンド・チップス

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Fish-and-Chips2 フィッシュ・アンド・チップス2

 窓からはNEICのヒューマノイド工場が見える。

 都市計画法と景観法の観点で、建物の外壁は自然に近いダークブラウンにデザインされていた。

 一般的なヒューマノイド工場に比べると規模は大きい。



「国家転覆なんて俺も脳内でたどりついちゃったときはびっくりしたけど、アンに正解だって言われてさらにびっくり」



 ジーンが棒つきのアメの包みをガサガサと開ける。

 不気味な大きい黒いアメを口にした。

 見ているだけで口の中に黒砂糖をつっこまれた気分になる。アンブローズは顔をしかめた。


「どこから証拠を固めるかなんだが」


 アンブローズは、この部屋の小型オートマトンを横目で見た。

 むかしのジャパンのアニメを思わせるずんぐりむっくりデザインのオートマトンは、部屋のかたすみでうしろを向き充電器につながれている。

 電源は落としてあるとジーンがさきほど言っていた。

 アンブローズは軽く息をついた。

 ここで話がつつぬけになっては、わざわざ上層部を盾にして上官にグチられた甲斐(かい)もない。



「電源を落としても非常電源で自動的に録音されるとか送信されるとかって機能がもしあったら、保証できないけど」



 ジーンが黒いアメを口からだす。

「……あんまり安心はしきれないな」

「部屋で一人で倒れた場合とか、緊急事態にそなえての機能はいまどきふつうだからね。内部をいじった痕跡が残ったら怪しまれるから、下手にぜんぶ触るわけにもいかないし」

 アンブローズは米噛みに手をあててNEIC製の家庭用小型オートマトンについてのデータを検索した。

 一般の広告文と取扱説明書くらいしか出てこない。

 軍のほうの情報は、いまのところこれにはそれほど触れていない。


「なので、いちおう非常電源が起動したさいにはニセの映像と音声が流れるよう仕掛けてある」

「ニセのか」


 アンブローズはタバコを指先でとんとんと叩き、灰皿に灰を落とした。

「ゲイポルノのアーッなシーンをてきとうにつなぎ合わせて加工したやつ」

 あははははとジーンが声を上げて笑う。

 アンブローズはきつく眉をよせた。こいつのわけの分からんおふざけが早速きた。


「……何でノンケのポルノじゃ駄目なんだ」

「そっちはなんか気恥ずかしいでしょ?」


 ジーンがアメを口から出したり入れたりする。

「出入りしてる俺が誤解されるだろうが」

「入室して何分経つの。非常電源あったらいまさらじゃん」

 ジーンがゲラゲラと笑う。


「ゲイのふりは不必要じゃないならOKじゃなかったっけ、大尉(キャプテン)

「不必要だ。いまからべつのに差しかえろ」



「幼女がひたすら素数を読み上げてるって映像も考えたんだけどさ。どうせならNEICの社内調査部のみなさまにも楽しんでいただきたいじゃない?」 



「楽しくない」

 アンブローズは眉をよせた。

「そんなのが楽しいのはアリスお嬢さまくらい……」

 そこまで言ってから、もういちどアンブローズは電源の落とされたオートマトンを見た。


「……こんなものまでクラッキングしてこないだろうな、あのお嬢さま」


 タバコの灰が落ちそうになる。

 少しあせって灰を灰皿に落とした。

「ここまではやらないでしょ。俺には興味ないって言ってたし」

 ジーンが笑う。

 ややしてから何かを思い出したように宙を見上げた。


「このまえNEICの機密用のシステムに入ってたら鉢合(はちあ)わせしたけど。あれたぶんアリスちゃんでしょ」

「たしかか」


「サイバー空間の移動のしかたとか、欲しい情報のさがしかたとか侵入経路とか、ざっくり特徴が出るんだよね」

 ジーンが片手をくるくると回すしぐさをした。

「なんかこう、コーラルピンクのテディベアがシステム内をものすごいスピードで飛び回ってるみたいなイメージの侵入が検知された」

 独特すぎて意味分からん。

 アンブローズは眉をよせた。



「そのままお嬢さまの盗んだ情報の送信先でもSNSの極秘アカウントでも侵入できるなら伝えとけ。専用人工衛星の不正に軍が気づきそうだぞって」



「キンキン声で直接ここに抗議にこられたら怖いんだけど」

 ジーンが苦笑する。

「総帥直々に何さぐってんだ」

 アンブローズはつぶやいた。

「たしかにバレたら大事(おおごと)だね」

 ジーンが声を上げて笑う。

「ほかの社員には任せられないことでもあるのか……」


「バレても八歳女児なら知らずにやっちゃいましたぁで済むからじゃない? 総帥は別人の三十八歳男性ってことにしてるんだし」


 ジーンがアメを片手に持ちコーヒーを飲む。

「そういうことか?」

 アンブローズは、薄いアメリカン風の合成コーヒーに目線を移した。

 忘れていた。保温プレートなどは置いていないので、すっかり冷めていそうだ。

「となると、あと数年は女児の特権を使いまくるだろうね。アリスちゃん」

「イヤな子供だな」

 アンブローズは眉間にしわをよせた。





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