Fish-and-Chips1 フィッシュ・アンド・チップス1
ジーンの住むNEICの社員寮は、本社とヒューマノイド工場の敷地内にある。
グラウンドフロアから上は三十階建て。さすがの最新式の設備が整っていた。
自然光再現LEDと、住人の生活パターン、体調、外気温などをAIが把握して、自動的に飲みものが作られ、シャワーの温度が調整される設備。
一世帯に一体ずつ配備されている小型オートマトンが、家電等の不具合を管理し、掃除や客の応対などをになっていた。
育った軍の施設も、日常生活の場はこんな感じだ。
アンブローズとしてもこちらのほうがやはり馴染める。なつかしいというのは少しおかしいが、それに近い感覚で室内をながめた。
「オートマトンの電源はなるべくオフにしてるから、ちょっと不自由するかもしれないけど」
ジーンが合成コーヒーを淹れたカップをテーブルに置く。
「部屋での様子をさぐられたりするか」
アンブローズはコーヒーを口にした。
「確証になるものを見つけたわけじゃないけど、可能性はあるでしょ。どこの企業でも」
ジーンがそう答えてテーブルにつく。
企業としては職員のかくされた素性などあれば気になるというだけで、諜報に対してだけの警戒ではないのだろうが。
あかるいアイボリーと落ちついた木目の内装。
できうるかぎりの解放感で過ごせるよう工夫された間取りの部屋。
アンブローズはコトリとコーヒーカップを置いた。
「タバコいいか?」
そう断ってからタバコのソフトパックを取りだし一本くわえる。
コーヒーの湯気と水蒸気の煙とがまじる。
コーヒーはAI内臓ドリップがジーンの好みに調整しているものだが、とくに気にするほうではない。
かなりうすいアメリカン風だが。
「あの甘ったるそうなケーキ、准将に押しつけたの」
ジーンがコーヒーに角砂糖を一つ入れてヘラヘラと笑う。
「上官に突撃押しつける神経に動揺するなあ」
ブランシェットとの会話を聞いていたのかというレベルで、ジーンがどこかで聞いたようなセリフを吐く。
「上層部を盾にするおまえほどじゃない」
アンブローズは出された灰皿に灰を落とした。
「だいじょうぶだ。あの人はあの人で、秘書に押しつける」
「ああ、アンにブス呼ばわりされたっていう秘書さん」
ジーンがコーヒーを口にする。
「じっさいブスなの?」
「長身でふつう」
アンブローズはそう返した。
ジーンはしばらく沈黙していたが、ややしてからカップを置く。
「アン、アリスちゃんは美少女だと思う?」
「おフランス人形だと思ってる」
とうとつに何の質問かと思ったが、アンブローズは答えた。
「ドロシーちゃんは美人?」
「考えたことない」
ジーンがかなり間を置いてから、もういちどコーヒーを口にする。
「秘書さんは美人とみた」
「どんな判定方法だ」
アンブローズは眉をよせた。




