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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
07 意識消失のドロシー

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Combat Nurse4 武装ナース4

 アンブローズは眉をよせた。


「聞きだそうとしても意識を失くして逃れるドロシーより、俺のほうが容易だと思ったか?」


「アン! 拷問されても話すなよ! 絶対に助けるからな!」

 ジーンがヒューマノイドの腕に首をがっちりと固定された格好でわめく。

「首つかまれて動けないやつが言うな」

 アンブローズは横目で見た。


「いまのところはおまえが人質だぞ。分かってんのか」


 アンブローズは自身の米噛みをつついた。

 ジーンがふいに真顔になる。

「俺なら大勢のゲイにやられる拷問がいちばんイヤかな」

「……わざわざ敵に拷問方法の提案してどうすんだ、おまえ」


「性的いやがらせは、われわれにはどれほどいやなのか理解はできませんが」


 ヒューマノイドの女が無表情で口をはさむ。

「だろうな」

「いやがる者が大半という基本データにもとづいて、拷問方法の選択のさいに参考にいたします」

「拷問する前提で話すな、趣味(わり)いな」

 アンブローズは眉をよせた。


 女のスケルトンの瞳の奥から、かすかな機械音がする。


「どれほどいやがるかデータ解析はじめてんじゃないの?」

 ジーンが自身の首をしめる女の顔を見上げる。

「そもそも拷問は違法だろうが」

 アンブローズは顔をしかめた。



 出入口のドアの向こうから、複数の靴音がひびく。



 ドアが開き、カーキ色の軍服の女性軍人が三人ほど入室して銃をかまえた。

「どっち」

 彼女らを横目で見やりジーンが尋ねる。

 どちら側の味方かという意味だろう。

「たぶんこっち」

 アンブローズは答えた。

「陸軍本部の者だ」

 女性軍人たちにみじかくそう伝える。女性軍人たちが目で「了解」と伝えてきた。

「だれかの遺伝子情報で入りこんだなら、あるていど時間が経てば気づかれるに決まってんだろうが」

 アンブローズはヒューマノイドの女のほうを向き告げた。

 


「さきほど療養所の看護師二名の遺体を発見、回収いたしました」



 女性軍人の一人が凛とした声で告げる。

「ひえ」

 ジーンが苦笑した。

「不法侵入目的の第一級殺人、および一般習俗と葬制に反し遺体を遺棄した容疑で拘束します」

「人質を離しなさい!」

 べつの女性軍人が声を張る。


「女のほうはヒューマノイドだ」


 アンブローズは女性軍人たちにそう告げた。

 女性軍人たちが、女の両側と後方にゆっくりと動いた。

 一人の軍人が女の後頭部にぴたりと銃口をつける。



「その角度なら患者のベッドにもあたらない。撃て」



 アンブローズは指示した。

 ヒューマノイドの女が、ジーンの首をさらに締めあげ天井を向かせる。

 ジーンが「ケ゚」とも「ウエ」ともつかない声を上げた。


「ちょ、待って。貫通して俺にあたんない?」


 ジーンが苦笑する。

 アンブローズは腕を伸ばし、女の(ひたい)に拳銃をピッタリとつけた。


「くだらない拷問のネタ提供してるあいだに逃げられたろ」


 そう返して眉をよせる。


「だいたい、おまえは何かっていうとゲイジョークしか思いつかないのか」

「この手のネタは結論がないから時間稼ぎしやすいんだよねえ」


 ハハッと笑いながらジーンが答える。

「OK。んで」

 アンブローズは告げた。



「資料見たってことは、このタイプの決定的な弱点も知ってんだろ」



「アン……ぐぇ」

「フルで呼べ」

 相方の苦悶の表情には関知せず、アンブローズは淡々とそう要求した。


「資料が膨大だったんで、脳内で検索して引きだすのに少し時間がかかった」


 ジーンが苦笑する。

 アンブローズは女に突きつけた銃をジーンの眉間に移動させた。



「いますぐ該当資料を抜粋して俺のブレインマシンに送るか、ひとことで明瞭に吐け」 



「おいー」

 ジーンが苦笑する。

「ワルサー社のP-2099。P-99の改良復刻版とはセンスいいですな、大尉(キャプテン)

「人が何の銃使おうが大きなお世話だ」

「十八.九ヘルツ」

 ジーンが言い合いにまぎれこませるような声でポソッと言う。

 アンブローズは軽く目を見開いてから言わんとしていることを推察した。



「超低周波だ。技術班に連絡つけろ」



 アンブローズは女性軍人たちに指示した。

 女性軍人たちが一瞬だけ目を合わせあい、一人が米噛みに手をあてる。


 ブレインマシンにアクセスしたと思われた。 


 ヒューマノイドの女はとつぜんジーンを離すと、ピンヒールで床を蹴り連絡をつけようとした女性軍人に飛びかかった。

「ぐっ」

 女性軍人の頬を殴りつける。

 避けそこねて女性軍人が床にたたきつけられた。

「クッ……」

 カーキ色のタイトスカートから伸びた脚を(もが)くように動かし、床を()う。


 アンブローズとのこりの女性軍人たちは、いっせいに女の背中を撃った。


 看護服とやわらかいコラーゲンスポンジの肌に弾丸がめりこむ。

 服の焦げ目からほそい煙が立ち上がったが、女の動きは変わらなかった。

 手近にいたほかの女性軍人の腕をつかみ、さきほどジーンにしたのと同じように首に腕を回して締め上げる。


「ハァッ!!」


 女性軍人はタイトスカートから伸びた脚を肩幅ていどに開くと、勇ましいかけ声を上げて女を背負い投げの要領で床にたたきつけた。

 ヒューマノイドの女の長身の肢体が床をすべる。


「うっわ」

 ジーンがつぶやく。


「うわじゃねえ。何でおまえはあれやらなかった」

 アンブローズは眉をよせた。

「万が一ドロシーちゃんのベッドを壊しちゃったらって思ったんだよう……」

 わざとらしい泣きまねをしながら、ジーンが弾丸の数を確認する。


「壊されてもカプセル内の生理食塩水がこぼれて床が水びたしになるだけだ。それだけで死ぬか、金魚じゃあるまいし」


 アンブローズは言った。

 女性軍人が女を引きつけているあいだに、自身も弾数を確認する。

 荷電粒子を発射するいわゆる光線銃もだいぶまえの時代に開発されていたが、周辺の機器や電波への影響がある場合もあり、まだまだ日常的には弾丸を使った銃が重宝されていた。


 発砲のさいの轟音で手っとり早く周囲に危険を知らせることができるというのも、むしろ合理的な武器だととらえられている。


「十八.九ヘルツの超低周波っていうと、むかし幽霊が出る周波数とか言われてたやつだな」

 アンブローズはそう切りだした。

「それ。超低周波に知らずに反応して幻覚幻聴が起きてたパターンがあったとかいう」

 首を絞められていたせいだろう。ジーン軽く(せき)をしつつ答える。



「一部のヒューマノイドは、機能向上に特化したあまり人間の低周波過敏症と同じような反応をするのがいる」



「やっぱそれか。聞いたことはあった」

 アンブローズはそう返した。

「この機種は、主に十八.九ヘルツでそれが起こるんだってさ」

「人工脳に不具合が起きるわけか」

 あらためてアンブローズは女に銃を向けた。



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