Loss of Consciousness-Dorothy 意識消失のドロシー
オフホワイトと木目調でデザインされた療養室内。
部屋の中央に設置された長細いベッドは強化ガラスで覆われ、中は生理食塩水で満たされていた。
昏睡状態の患者の床ずれをふせぐために開発された医療用ベッドだが、現在では健康にこだわりふだん使いする者もいる。
まくら元には、中で眠る者の体温、心音、血圧、意識状態など、体内の状態が数値で示されていた。
常に微妙に数値の変わる液晶画面を、アンブローズは見つめた。
うすく色の入った強化ガラスのなかで、妹にあたるドロシーが眠っている。
整った顔には大きな酸素吸入器がはめられ、長い黒髪はまくら元の少しくぼんだ位置にまとめられている。
栄養を吸収するために腕に巻かれたパッチは、肌からの吸収を容易にするために内側に細かい針がいくつもついている仕様だ。
「ああ……なるほど」
ジーンが上体をかがませてドロシーの顔をのぞきこむ。
ややして顔を上げ、ベッドをはさんで立つアンブローズを見た。
「いわれてみれば似てる」
アンブローズは複雑な心情になった。
軍で生まれた将校クラスの名字は便宜上のもので、遺伝子提供者と家族としてのつながりはない。
ドロシーが同じ「ダドリー」だとしても、たんに遺伝子提供者が同じだったというだけで、それ以上のものは何もない。
だがドロシーとは、何となく慣れあいのように関わっていた。
冗談半分で、ドロシーは「兄さん」と呼んだりしていた。
ドロシーが昏睡状態になったあと、調査の引き継ぎをなかば志願した形なのは、完全に兄妹としての感情からだったと思う。
「防犯カメラの映像何回も見たのに、何でアンの顔見て思い出さなかったんだろ。あれ顔は加工されてないよね?」
「まあ男女の兄妹なんか、兄妹だと思って見なけりゃそんなに気づかんだろ」
ジーンが上体をかがませ、眠るドロシーを見つめる。
しばらくして、また顔を上げた。
「眠り姫ってなかったっけ」
「……なに考えてる」
「お兄さん」
「何でおまえにそう呼ばれる」
アンブローズはジャンパーの胸ポケットをさぐった。
ついタバコを取りだそうとする。
現在のタバコが体に害のない成分で作られているとはいっても、やはり病室のたぐいで吸うのはマナー違反という慣習はある。
「外で吸ってくる」
アンブローズはそう告げて出入口へと向かった。
「ニコチンもないのに、何の中毒なの?」
ジーンが眉をよせる。
アンブローズがとくに答えず退室しようとすると、ジーンが小走りでついてきた。
「俺も帰る。NEICの事務のほう、昼休みに抜けだしてきたから戻んなきゃ」
「んじゃ、ここで解散。俺はタバコ吸ってからコンドミニアムに帰る」
「吸ってんの見物してから帰社する」
何でだ。
アンブローズは眉をひそめた。




