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FACELESS フェイスレス 〜身元特定不可能の殺人犯、顔不確定のヒューマノイド、年齢偽装の令嬢、スパイのバディ~  作者: 路明(ロア)
06 チョコレート,チョコチップ,チーズケーキ

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19/51

Chocolate,Choc Chip and Cheesecake4 チョコレート,チョコチップ,チーズケーキ4


「うちはコラーゲンスポンジを覆うシリコンフィルムに光透過性の高いものを使っていますから、ヒューマノイドの肌はもっと透明性があってきれいですの」


 アリスはそう説明する。

「透過性を高める原材料の割合は、うちの機密ですからお話はできませんけど」

「肌」

 アンブローズはつぶやいた。


「他人の肌なんか気になさらないほうでしょ」

「自分のすら気にしたことない」


 アンブローズはそう返した。

「しかし、そんなもんに気づいたとしても確かな証拠にはならんしな」

「すみません先生、生身の幹部がヒューマノイドにすり替わってるって、なに」

 ジーンがひかえめに右手を挙げる。

 タバコを指でおさえアンブローズは横目で見た。

「……なに」

「いや」

 アンブローズは灰皿に灰を落とした。


「いっぺん話したつもりでいたんだが、考えてみればそれ話したのおまえのニセモノだった」


 ふいにとなりの建物から男女のどなり声が聞こえる。

「なにここ、壁うっす」

 ジーンがそちらをふりむく。

「どちらかというと下流の地域だからな」

 アンブローズは灰皿に灰を落とした。


「あのとき会話はどれくらい聞こえてた」

「大半は聞こえてないよ。二階のトイレにいたし」


 ジーンが答える。

「もう一回説明しなきゃならんのか……めんどくさ」

 アンブローズはタバコを強く吸った。

「しょうがないでしょ」



「言葉どおりだ。特別警察の生身の幹部は、三年前までにすべてそっくりのヒューマノイドにすりかわってる」



 ジーンはしばらく無言でアンブローズを見ていた。

 ややしてから「うっわ」とつぶやく。

「あの事件のまえにもう変わっていましたの?」

「なにそれ。目的は?」

「順番に質問しろ」

 アンブローズは眉をよせた。



「目的は、特別警察の幹部を国体護持のさまたげとなる個人および団体と見なした」

「まじ?」



 ジーンが顔をしかめる。

「聞くのこわいんだけど。遺体はどうなってんの……」

「所在不明。見つかればいい証拠の一つになると思うが、遺体さがしまでは手が回らないままだった」

 アンブローズは灰皿にタバコを押しつけた。

 ソフトパックからあらたに一本取りだし、火をつけてからつづける。


「つか誰もほんものが死んでるとは言ってないが」

「アンは生きてると思ってんの?」


「思ってない。フルで呼べ」

 アンブローズはそう返した。

「わたくしもアンってお呼びしてよろしいかしら」

 組んだ手に小さな(あご)を乗せてアリスが問う。

 アンブローズは無言で顔をしかめた。

「いままで何て呼んでたの?」

 ジーンが尋ねる。

 アリスが得意気に答えた。


「 “あなた” ですわ」

「おお……」


 かなり複雑な表情でジーンがアンブローズと目を合わせる。

「なにを言ったらいいの? こういうの」

「俺にか。お嬢さまにか」

「とりあえずお嬢さまに」

「 “口腔ケアして寝ろ” 」

 アンブローズはそう答えた。

「だとさ」

「子供扱いですわ」

 アリスがコーラルピンクの唇を尖らせる。


「子供以外の何ものでもないだろう」

「精神年齢を無視して実年齢だけで人を語るのは前時代的だと思いますの」

「いまだ確かな数値データで示すこともできない分野を、おもな判断材料にする気はない」


 アンブローズは灰皿に灰を落とした。

「軍人って、頭が固いんですのね」

「いや……いろいろだよ」

 ジーンが苦笑する。

「まあいいですわ。お土産いただきましょ」

 アリスは持参したケーキの箱を自身のほうに引きよせると、小さな手で青いリボンをほどいた。


「きょうはスイート・ティニー・メイデンの、チョコチップ・チーズケーキ期間限定カレンベリーとシブーストクリームですわ」


「さっき聞いた」

 アンブローズはそっけなく答えた。

「ヴィラーニ社のオレンジ・ペコーとなら最高でしたのに」

「持参するか自宅で食えとなんど言ったら」

「ヴィラーニ社創業者のご先祖にあたる侯爵は、とある下級貴族の美少年に狂ったように入れこんで、かくまった庶民の男に拳銃を突きつけて少年を連れ戻したあと、私室に軟禁してついには口説き落としたそうですわ」

 アリスが頬に小さな手をそえて語る。

「こっわ」

 ジーンは顔をゆがませた。


「そのエピソードが気に入ってヴィラーニ社の紅茶飲んでんじゃないだろうな、お嬢さま」

「狂おしい恋の味がしますの」


 アリスがしみじみと言う。

 うっとりとした表情のままケーキの箱を開けた。

「そんなものを感知する味覚があるのか」

 ふわりとただよったクリームの甘ったるい香りに、アンブローズは顔をしかめた。


「俺はいらん。ジーン食え」

「なにその突撃を人に押しつけるみたいな口調」


 ジーンが、立ち上がりケーキの箱をのぞきこむ。

「ふつうのいちごケーキだよね?」

「わたくしが厳選したお店のおすすめ品ばかりをいつも持参しておりますわ」

「甘いもの好きが甘いもの好きにすすめたものを俺に食わすな」

 アンブローズは眉間にしわをよせた。

「アンは基本、甘いものきらいらしいよ」

 ジーンがこちらを指さす。

「フルで呼べ」


「あなたに教えられる筋合いはございませんわ。本妻はわたくしですから」


 アリスがよく通る声でぴしゃりと言う。

「俺は独身だ」

 アンブローズは反論した。

「あー、あのさ、アリスちゃん」

 ジーンが苦笑する。



「アンは、ドロシーちゃんていう彼女がいるみたいだよ?」

「なにを言っておりますの? ドロシーさんはこのかたの妹さんですわ」



 アリスがそう言い返す。

「妹」

 ジーンがふたたびこちらを見る。

「……うるさい」

「まだ何も言ってないよ」

 ジーンは真顔で答えた。





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