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17 お前の声で

 これまでに感じた違和感を思い返す。


 初めて二人で参加した夜会でも、貴族の情報を収集すると言っていたのに、人の声が到底聞こえない位置から動かなかった。魔法を使って声を聞いているのかと思っていた。


(もしかして……)


 ふと思い浮かんだ考えに、首を横に振る。

 いや、まさか。あり得ない。そんなこと。


 そんなことは——、


「あるはずがない、か?」

「……!」


 マティアス様は口の端だけで笑った。


「隠していて悪かった。一応このことは王家の機密事項なんだ。まぁそれを言い訳に、お前にはできるだけ知られたくなかったわけだが……」


 絶句した私をじっと見つめる紅玉の瞳には、諦念が浮かんでいる。私に受け入れられることを想定していない、そんな目だ。


——俺は竜人の血が濃いから、色々と特技があるんだ。諜報活動にうってつけな人材だ。

——あんな気味の悪い子の傍にいられるなんて物好きな子ね。


——バーナード・コネリーが好きだったんだな。


 あぁ。そうか。そういうことだったのか。


 ようやく腑に落ちる。

 誰にも言わず、隠していたバーナードへの思いを、言い当てられた理由。自分の傍におくのは口が堅く、正直な者ではないといけないと言った理由。


「……気味が悪いと思うよな」


 どこか自嘲じみた声でぽつりとこぼすと、マティアス様は目線をそらした。知られたくなかったのに、私に隠し通すことだってできたはずなのに、彼はそれをしなかった。私に誠実であるために。


 私は「いいえ、」と首を振る。


「思いません、そんなこと」

「…………」

「少し……いえ、ものすごく驚きました。けど、正直マティアス様に思考を読まれて特段困ることはありませんし……」


 自分が考えていたことが彼には筒抜けだったと考えるとかなり恥ずかしいとは思うが、気味が悪いとは思わない。別に彼に知られて困ることは考えていなかったと思う。

 しかし、どこまで私の内心は伝わっていたのだろう。ずっと聞かれていたのだろうか……。


(もしかして、ずっと私の考えていたことは筒抜けだったのでしょうか)


「お、お前な……、横着するな。口で話せ、口で!」


 愕然とした表情で彼は言った。


(すごい。本当に伝わっているんですね。これ、少し便利かもしれません)


 そう思うと、また彼は「だから口で……」とつぶやいた。


「はぁ。ライラが相手だと力が抜ける……」

「あ、もしかして。マティアス様があんなにヒュエスが強いのは……?」


 私が置く手を先読みしているから強いのだろうか。それなら勝てるはずがないのも当然である。


「お前な、そんなはずないだろ。ゲームは正々堂々とやっている。そもそも俺だって別に、四六時中他人の心の声を聞いているわけではない。疲れるし、身が持たない……ふ、は、ははは」


 マティアス様は肩を震わせながら笑い始めた。その目尻からは涙が滲んでいる。


「ずっと、言うべきだと分かっていても言えなかった。言ったらきっとライラは離れていくと思って……。ライラはすごい。本当にすごいやつだな。俺はお前に救われている。とても」

「それは私もです。本当に、マティアス様に救われています」


 マティアス様は私を助けてくれた。

 辛かったあのときに、手を差し伸べてくれた。この屋敷で暮らす毎日を与えてくれた。


 あの日、私を好きだと言ってくれた。そして私の答えを急かさなかった。私が恐れていることを、解決してやると言っただけ。私のために、過去の文献を引っ張り出して薬まで作ってくれたのだ。


 嬉しかった。マティアス様がしてくれたこと全て、私は嬉しかったのだ。


 それでも、私が今マティアス様を拒んだら、きっと彼はそれを受け入れるのだろう。そして今まで通り、私が望む限り侍女としてここに置いてくれるのだ。


 私はどうしたい。


 よりどころだったからと、雨の日の思い出を宝物のように語った顔。夜空の下で、お前がいて良かったと、笑った顔。

 これまでの全てが私の胸に去来する。暖かいものがいっぱいに広がって、切なくなる。泣きたくなる。


 これが何かを、私はもう知っていた。


「……ライラ?」

「マティアス様、わたし」

「うん」

「あなたの、一番そばにいたいです」


 マティアス様は手を伸ばし、両手で私の手を包んだ。そのまま彼の顔の前に引き寄せて、額に当てる。


「俺の都合の良いように受け取っていいのか」

「私の心は聞こえておられるでしょう?」

「今は聞いていない。それに俺は我儘だから、ちゃんと聞きたい……。お前の声で」


 マティアス様の紅玉が、縋るように私を見ていた。心で思うことと、その思いを口に出すことは全く違う。しかし今思い返すと、彼はいつもちゃんと口に出して自分の気持ちを伝えてくれた。いつだって私に正直だった。


「マティアス様のことを、お慕いしています。ずっと一番そばにいさせてください」


 私の右手を包んだ彼の両手に左手を添える。マティアス様は瞳を揺らした。


「嬉しい。本当に嬉しい。ライラ。ありがとう」


 マティアス様の頬を一筋の涙が伝って、ぽたりと落ちた。





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ぜひチェックいただければ幸いです!

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