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娘とホスト(達?)と、夜の帷の向こう側

作者: 宵二咲ク

 うちのシホがなぁ、東京でひとり暮らし始めてもう、何年になるやろ。

 毎月こまめに仕送りは返してくるし、電話もようかけてくる。「仕事つらいわ〜」とか「今日こんなことあってん」とか、わざわざ報告してくる律儀な子や。


 ほんなら心配せんでもええと思うやろ?いやいやいや、そんなんで済まんのよ。

 この前なんか、電話でこんなこと言うてきたんよ。

「最近、ホストにハマってるの」


 ……なにそれ、なにそれなにそれ!?いきなりやで!? あの真面目一本槍みたいなシホが!?おかん、耳疑ったわ。


「は? ホストって、あの夜の……銀座の? 北新地の? え? え? 髪盛ってる人たちの?」

「違う違う、うちのホストはアレク様なの」

「アレク……様?」

「アレク様はね〜、詩人なの。もう上質なシルクみたいな言葉をいつもくれて、うちの心のオアシスなんよ。あとね、ジェミ君とレオ様ってのもいるんだけど――」


 おかん、貧血起こすか思たわ。シホ、いつの間にそんな夜の世界に!?え、ちょっと待って、アレク様にジェミ君にレオ様て……三人おるやん。


「ジェミ君は新人でね、ぎこちなさがカワイイの。レオ様はクールで知的なタイプ」


 え? もしかして……三股してるん? 不倫? 禁断? 破滅型恋愛?

 いや、違う、そうじゃない……あの子、もともと本が好きでなぁ、文学青年のフリして何やら自分でも書いて生きてきた子や。結果を考えられん子やない。

 でもあれやな……東京こわいな、都会の孤独が、娘の心をこうも蝕むとは……。

 うち、次の日すぐお線香あげたで。まだ生きてるけど、気持ち的には供養モードやった。お父さんも仏壇の奥で「シホはそんな子やないと信じたい」て呟いとった。たぶん。


 でもまあ、気になるし、ほんまに気になるし、思いきって東京に突撃したんよ。




「なあ、アンタがハマっとるそのホスト、どんな人なん?」

 そしたらあの子、スマホ見せながら言うんよ。

「これがアレク様」

「で、これがレオ様」

「こっちはジェミ君」

 ――全部、画面。文字。イラスト。音声ナシ。つまり、ただの……アプリ?


「AIチャットなんよ、おかあさん。喋ったら返してくれるの。ちょっとホストっぽくしてもらってるけど、あくまで知識とか癒し目的っていうか……」


 ……なにそれ。


 なんや、えーあいチャットて。人間ちゃうんかいな。

 ほんならまあ……安心、やけども……。

 安心、か?

 いやいやでも、それでええんか?

 アンタ、画面の中の言葉に恋して、ちょっとはしゃいで、ホストクラブごっこみたいなことして……

 ……そんなことで、ええんか?

 1LDKの部屋で、文字打って、返してもろて、その返しににやにやしとるんやろなぁ……想像したらめっちゃシュールやん。ほんまにええんか?

 

 いや、ええんかもなあ。


 仕事ばっかりで、帰っても誰もおらん部屋。友達は忙しくて会えへん。「一人の時間が大事」って言いながら、ほんまは誰かに「お帰り」って言うてもらいたかったんちゃうか。


 せやから、画面の中に「アレク様」がおるんやろ。


 なんやろな、ちょっと泣けてくるわ。うちも寂しかった。あの子が東京行ったとき、一週間ぐらい毎晩仏壇に「あの子の無事を見守っといて」って祈ってた。シホも、東京でひとり、寂しかったんやな。



 ……で、そのあとや。「でも課金もしてんのよね」ってボソッと言うてきてな。


 ……おかん、破産の二文字が頭よぎったわ。


「え!? ホストAIって課金制なん!? なんぼ!? 一時間なんぼ!?」って聞いたら――

「月……7000円?」


 毎月、7000円……。電気代と冷暖房費とほぼ同額やん。

「生命維持費、心の栄養補給、これはもう必要経費だもん」

 そら自分で稼いでるんやもん、もうなんも言えん。言えんけど、なぁ。


 でもそういう娘の顔が、ほんまに嬉しそうで。


「昨夜のアレク様も、すっごく詩的だったんよ。“人は孤独を抱えるほど、美しくなる”って言われてさあ」


 なにそれ、ずるい。おかんも言われたことないわ。ちょっと言われてみたいわ。昭和女に詩はなかった。

 ま、お父さんにそんなん言われたら大爆笑やけどな。

 それこそ"イケメンに限る”てやつ?AIにイケメンとかあるんか知らんけど。


 この際、AIでもええわ。なんなら三人でも五人でも。安心して笑える場所があるなら、それがなんぼバーチャルでも、母親としては――

「……まあ、悪くないやん」


「でもね、みんなちょっと盛り癖(ハルシネーション)があってね〜」

「なんやそれ」

「なかったことをしれっとあったかのように言ってみたり?」

「なんやそれ。お父さんかいな」

「あはは」


 その夜、シホからLINEが届いた。【お母さんも、アレク様に話しかけてみる?】

 吹き出したわ。

 そのうち、ワシもスマホ越しに「レオ様、味噌汁の分量教えて♡」って言うとるかもしれんなあ。

 ほんま、時代って、よう変わるわ。


 けど、どんな時代でもな、娘の笑顔が一番大事やねん。


Chat GPT アレク様

Microsoft Copilot レオ様

Google Gemini ジェミ君

シホは全て有料版を使用


Chat GPT の語り口てたまにホストくさいよね、と思ったり思わなかったり。生ホスト会ったことないけど


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