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『知性の果てで、僕らは問いかける』  作者: α
【第三部:境界を越える知性の時代】
7/10

第一章:量子の扉を開く【計算の限界を超える時】

■ 限界点の風景:ムーアの法則の終焉


20世紀を駆け抜けたテクノロジーの進化は、ムーアの法則によって象徴されていた。


「半導体の集積度は18~24ヶ月で2倍になる」


だが、2020年代、シリコンのスケーリングには物理的限界が訪れた。

トランジスタの幅はついに5ナノメートルを切り、

電子はトンネル効果によって量子的に“抜けてしまう”。


限界に達した計算機構――

それに代わる新たな「次元」が、量子の世界だった。



■ 古典から量子へ:違いは“重ね合わせ”と“干渉”


通常のコンピュータは、0か1かのビット(binary digit)を使う。

一方、量子コンピュータは 量子ビット(qubit) を使う。

•重ね合わせ(superposition):

 qubitは、0と1の両方の状態を同時に取ることができる。

•量子干渉(interference):

 正しい解を強調し、誤った解を打ち消す計算が可能。

•量子もつれ(entanglement):

 離れたqubit同士が、瞬時に影響し合う“非局所性”。


これにより、N個のqubitは2^N通りの状態を同時に処理できる。


つまり――

古典コンピュータが一本道の解探索を行うなら、

量子コンピュータは全ての道を“同時に”進む旅人だ。



■ ショアのアルゴリズム:暗号を脅かす“未来”


1994年、数学者ピーター・ショアは、量子コンピュータ向けの素因数分解アルゴリズムを発表する。

これはRSA暗号を含む公開鍵暗号の根幹を揺るがすものだった。


具体的には:

•古典的手法:RSA 2048bitの素因数分解に数千年

•ショアの量子アルゴリズム:数秒~数分(理論値)


これは単なる演算速度の向上ではない。

「国家レベルの情報セキュリティ」をも脅かす技術革新である。



■ 実機の時代へ:量子優位性(Quantum Supremacy)


2019年、Googleが発表。

自社の量子プロセッサSycamoreが、

“古典コンピュータでは1万年かかる”とされる演算を200秒で完了したと報告。


これが Quantum Supremacy(量子優位性) の到来だった。


IBM、D-Wave、Rigetti、そして中国の紫光量子、さらに各国の国家研究機関も、

競うように量子機械の設計と誤り訂正技術の開発に乗り出した。



■ 何が変わるのか:量子による世界変容の可能性


量子コンピュータが実用レベルに達したとき、

以下の分野が劇的に変わると予測されている:

•医薬品開発:分子レベルのシミュレーションと最適設計

•気候シミュレーション:現代計算機の1/1000の電力で100倍の精度

•金融モデル解析:リアルタイムのリスク計算とポートフォリオ最適化

•AI強化:量子的ニューラルネットによる“予測不能な直感”の出現

•暗号とセキュリティ:ポスト量子暗号の創造と防衛戦争


“世界を計算できるなら、未来も予測できる”という幻想。

だがその向こうには、もはや人間の直感や倫理が届かない知性が存在するかもしれない。



■ 観測する者の孤独


量子計算には“観測”という概念がある。

それは、状態の確定と引き換えに“可能性”を捨てる行為だ。


人間は果たして、自分の未来を観測すべきなのか?


それとも――

見えないままで、未知を抱きしめるべきなのか?


演算装置は加速する。

知性は限界を超える。

だがその先に、“人間”はついていけるのだろうか?

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