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『知性の果てで、僕らは問いかける』  作者: α
【第一部:思考する機械の夜明け】
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第二章:思考する歯車、夢の設計図

1822年、ロンドン。

一人の数学者が苛立ちに顔を歪めていた。


「この表は、間違っている…またか」

天文暦、航海表、保険料率表――当時の英国社会は、“計算された表”に依存していた。

だが、その計算はすべて手作業。人の手は、いつもミスを犯す。


その数学者、チャールズ・バベッジは叫んだ。

「機械にやらせた方が、よほど正確だ!」


彼は考えた。人の思考を模倣する機械――自動計算装置。

計算表を人間の手から解放する機械、名付けて階差機関ディファレンス・エンジン


それは、歯車とレバーによって数列の計算を自動で行う、極めて先進的な装置だった。

バベッジは政府から助成金を受け、巨大な鉄のモンスターを設計し始めた。

しかし――構想は壮大すぎた。


部品は精密すぎて職人に作れず、資金は底を尽き、プロジェクトは頓挫。

だが彼は諦めなかった。


その十年後、バベッジはさらに野心的な設計に着手する。


それが、「アナリティカル・エンジン(解析機関)」だった。


計算機でありながら、プログラム可能な構造を持つ“思考装置”。

演算装置、記憶装置、制御ユニット、入力と出力――

それは、後にノイマン型コンピュータと呼ばれる構造と酷似していた。


まだ「コンピュータ」という言葉が“人間の職業”であった時代に、

バベッジはすでに“思考する機械”の青写真を描いていたのだ。


そしてその構想を唯一、完全に理解した存在がいた。

詩人バイロンの娘、エイダ・ラブレス。


彼女はこう書き残している:

「この機械は、自ら考えることはない。だが、私たちの指示によって無限の思考を模倣する」


エイダが記したアルゴリズムこそが、人類史上最初の「コンピュータプログラム」だった。


解析機関は、ついに完成しなかった。

だが、その設計図は「“未来の誰か”への手紙」となった。


歯車は回らなかったが、知性の芽は確かに蒔かれていた。

そして時代は進む。


人類はこの夢を、100年後にシリコンの中に再び芽吹かせることになる。

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