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監獄ダンジョンの攻略  作者: クラノ恩樹
【第2章】 囚人の奴隷
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第8話 監獄ダンジョンの闇

リンチを受けたホールの出口で呼び止められた俺は、警戒しながら男との対話に応じる。


「さっきは悪かったな。痛かっただろう?」


不敵な笑みを浮かべながら、男は腕を組んだまま俺を見下ろす。


「……ええ、ものすごく」


「くっくっく、若い割に面白そうなやつだな。名前は?」


「俺はコットンです。こんなボロボロの俺を引き止めて、何の話をするつもりです? どうせ俺には選択肢がないんでしょう?」


「話が早いな」


男はニヤリと笑い、わずかに体勢を前のめりにする。


「お前が賢い奴でよかったよ。せっかく目をかけたのに、アホだったら無駄足になるところだった」


随分と勝手なことを言ってくれるものだと内心怒りが湧いてくるが、この男にはまだ勝てない。

大人しく話を続けることにした。


「まず一つ、良い事を教えてやる。向こうに見える連中と今のお前とでは決定的な違いがあるんだが………何かわかるか?」


違い?

あの囚人たちと俺の違い………。


「………固有武器を携帯していない?」


「正解だ。目の付け所は悪くなさそうだな」


ニヤリと口に弧を描きながら男は答える。


「剣を持ったままゲートをくぐれたことが不思議でしたから」


「なるほど。だからさっき因縁を吹っ掛けられた時も、その剣を使おうとしなかったのか。賢明な判断だ。小さな違和感を疎かにしないところも気に入ったぜ」


「もしあの場で剣を抜いていたら……」


「その時は数人の看守がお前を取り囲んで、7日間の水だけ独房の罰を食らってただろうな。ついでに各看守共による鞭打ちの()()も洩れなくついてくるぞ」


「うへぇ…」


俺は顔を顰めて項垂れた。


「俺の右耳を見てみろ」


「耳?」


言われた通り男の耳を見てみると、リングのピアスがつけられている。

この監獄はアクセサリーの類は禁止だったはず………。


「まさか……っ?」


「勘の良い坊主だな。その通りだ。固有武器は、持ち主の意思で形を変えられる」


「なぜそんな機能が……?」


「そもそも固有武器ってのはな、お前の“生存”と深く結びついてるんだよ」


男は自分の耳にかかったピアスを軽く弾いた。


「武器のままじゃ常に警戒される。だが、これならどうだ? ただのアクセサリーにしか見えねぇだろう?」


「つまり、持ち主の生存確率を上げるための機能?」


「ご名答」


俺は遠くの囚人たちに目を向けた。

よく見れば、みんなそれとなくアクセサリーを身に付けていた。


あれ全部が固有武器…。


「早速お前も何かイメージしてやってみろ」


「えっ、えぇ?………ええと……」


――シュン


驚くことに、イメージしただけで腰の剣が消え、代わりに剣を縮小したようなチョーカーが首にかかっていた。


「似合うじゃないか。良かったな。これで新人だからと絡んでくるやつが半分は減る」


「どういうことですか?」


男が言う事には、管理者たちは治安維持のために、囚人たちの固有武器を保管庫などに預けさせたいのだという。倫理の乏しいであろう囚人たちが、武力となるものをぶら下げているのだから当然と言えば当然だ。


だが、他人の固有武器は管理しようにも無理があるらしい。

持ち主から離れるとあまり良くないことが起こるようなのだ。


「良くないことって?」


「前に誰かの固有武器が保管庫で爆発したらしい。自動で爆発したのか意図的に持ち主が爆発させたのかは分からないが、被害が相当大きかったようだ」


「爆発ですか………固有武器って人の個性と同じでみんな違うんですね」


「うまい言い回しだ。十人十色、その通りだよ」


他人が管理できない危険なものならば、せめてそれを管理区域で使わせないためにアクセサリーへの変化を徹底させているということか。

確かに武器として携帯していないだけで、それを使おうとする意識は半減するだろう。


だが、その()()()()()という役割を、ルールをはみ出した囚人が行っているという事が気になる。


これはもしや……


「ひとつ質問していいですか?」


「なんだ?」


「私を殴った人たちは何をもらえるのでしょう?」


男が目を見開いて驚いている。


「こいつはマジにたまげた………お前相当頭がキレるな」


「囚人たちが何のメリットもなく動くとは思えないだけです。教えてください、一体何を対価に囚人は他の囚人を見張っているのか」


男は一つ息を吐き、口を開く。


「魔石だ」


「魔石? 固有武器を強化できるという、あの?」


「知ってたのか。()()()()()()()…」


男は溜息をつきながらも話を続ける。


「魔石はただの強化素材じゃねぇ。ここでは、食い物も酒も、衣服も装備品も、全部が魔石で手に入る」


「……は?」


思わず、耳を疑った。


「ちょっと待ってください。魔石って、固有武器の強化に使うだけじゃないんですか?」


「俺もそう思ってたよ」


男は皮肉げに笑う。


「でもな、看守どもはダンジョンのシステムを利用して、それを“囚人の通貨”にしやがった。ダンジョンで魔物を狩って手に入れた魔石、そいつを特定の階層にある交換場所に持っていけば、好きな飯や服が手に入る。その交換場所を管理室として自分たちが常駐し、俺たちを囚人を取り仕切ってるというわけだ」


驚く事実ばかりだ。

でも、それには大量の魔石が安定的に必要になるはず。


「なんで魔石の在庫が尽きないんです?」


「……言いたくねぇが、仕方ねぇな。お前なら放っておいても、この事実に辿り着くだろうしな」


男は低く呟く。


「どうやら、俺たちが吸い取られた経験値が、魔石に変換されてるらしい」


「――っ!?」


予想だにしない事実に声を失う。


「……冗談、ですよね?」


絞り出すようにしてようやく俺は言葉を口にした。


「冗談だったらよかったんだがな」


男は煙を吐き出しながら静かに言った。


「やつらが経験値が吸い取るのは、俺たちの減刑のためなんかじゃない。上層の連中が贅沢するための餌なんだよ」


「っ……!」


拳を握る。


この監獄は囚人を閉じ込めるための場所じゃない。

更生させる気など全くない、ただ、家畜のように支配するための場所だ。


俺たち囚人は、 命を懸けて戦った唯一の報酬さえも奪われるだけの存在――ただ、それだけだった。

いつも読んでいただきありがとうございます!

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