idea note 2
世界大戦が終わった。
長らく続いた世界大戦の始まりは二国間の些細な国境を巡る争いからであり、誰もが一年も続かないだろうと予想したが、案に相違して利害が絡む国が次々と参戦した結果、三年、五年、十年と戦争は続き、終戦を迎えたのは開戦から五十年以上が過ぎてからでした。
大戦中に人類は軍用機や戦車などを開発、戦地への導入を始めましたが、それでも長引く戦争で生じる兵員不足の解消には至りませんでした。
そこで各国は自動機械人形の研究、開発を行って戦地へ投入するようになった。
その初期型は人の形をしたロボットと言ったところで金属のボディを持ち、人間に命令されたまま動く以外、何もできなかったが、現場からの意見で人工的な皮膚を持つようになり、合わせて軍服に身を包むようにもなって遠目には生身の人間と判別がつかないようになった。
また自律思考も日進月歩の勢いで発達し、人間の上官がいなくとも自分達で判断して行動できるようになって民間人の保護、敵味方を問わず負傷兵の収容などが可能となった。
さらに軍医や衛生兵もオートマタへと移行していった。同時に参戦している各国でも医師や看護師の不足が問題となっていたため、国内の医療機関へ積極的にオートマタの医師や看護師を導入していった。
各国では医療機関と同様に農業、漁業、商業に工業と各分野でも労働力が不足していたので医療機関に前後してオートマタが各分野へ導入されていった。
当然だが、戦地には職業軍人と志願兵が最初に送り込まれる。そして戦争が長引き、兵士が不足すると若者が集められて戦地へと送られるようになる。
若い男性が戦地へ送られて労働力不足が生じると女性がそれを補うのだが、戦地で軍医や看護師が不足すると女医や女性看護師が戦地へ送られるようになった。勿論、銃弾が飛び交うような戦場の真っ只中へ送られるわけでは無かったが、それでも砲弾の雨がいつ降ってくるかわからないような場所ではあった。
戦争が長引いて若者を軒並み戦地へ送ってもなお兵士が不足しているとなれば三十代、四十代の男性が戦地へと送られるようになる。合わせて女性も「後方支援」や「軍属」と言う肩書きで戦地へと送られ、傷病兵の看護や食事の用意、機械整備などを任されるようになる。
こうして参戦している国ではほぼ一世代が戦地へ送られ、出生率が極端に減った。このような状況がオートマタの研究と開発、戦地や産業への積極的な投入へと繋がった。
そしてオートマタは人間にとって良き隣人となっていった。
戦争が終わった時、参戦していた国の多くは人口減に頭を悩ませることとなった。中には人口を半分以上失った国もあったし、人類全体で言っても三割から四割を失っていた。
中立国や利害が一致せず参戦しなかった国から移民を受け入れると言っても数に限りがあるし、国民を減らした国の多くはオートマタに頼るしか無かった。
兵士として戦っていたオートマタの多くは民間へと転用されていき、焦土と化した国土の復興に利用されることとなった。
一方、戦争が終わったと言っても各国は軍隊を解散させたわけでも無く、工場で製造されている最新のオートマタを軍は配備していった。
多くのオートマタは民間へ転用された際、個人や企業などに引き渡された。
各国はオートマタを保護する法律や条例を設け、国民がオートマタを粗略に扱わないようにした。
一つには世界大戦が終わったとは言え、何が原因でまた戦争が始まるかわからない。それ故に一体でも多くのオートマタを残し、開戦と同時にオートマタを戦地へ送るという意味があった。今開戦してもそれこそ生身の人間による兵士はほとんど居らず、オートマタを大量投入することしか政府も軍部も方法を思い付かなかった。
もう一つはオートマタ自体が学習し、人間とほぼ同じ自律思考をもったことである。オートマタはいわゆる「ロボット三原則」に則って人間を傷付けることは無いが、人間から理不尽な命令をされた場合は非暴力、不服従で抵抗し、最後は逃亡などの手段を選択する。オートマタ一体が逃亡すること自体は大した問題にならないが、その一体が他のオートマタに呼び掛け、百体二百体単位で逃亡する可能性もある。それで政府はオートマタを人間同然の法律や条例で保護することへと繋がった。
人間と同じ休日や勤務時間、賃金、宿舎や個室、移動の自由に就業の自由などが保障された。
オートマタは軍は勿論、警察や消防、役所の職員に学校の先生、農業、漁業、商業、工業とあらゆる分野で活躍していた。
例えば軍を除隊した一体のオートマタ、戦友達とも別れて汽車に乗り、遠く離れた街で新しい仕事を探したりします。
またオートマタがオートマタ向けの商売を始めたりもします。
オートマタ自体は大量生産されますから外見の個性という物は有りません。経験や学習によって内面の個性は出てきます。
戦争が終わって平和が訪れると軍服を着る義務も無くなり、それぞれが好きな服を着て良くなりますが、人間用の服でも良いのですが、人間とオートマタでは微妙にサイズが合わなかったりします。そこでオートマタがオートマタ向けに服を作るようになるのですが、いきなり工場を持つとかでは無く、街角の小さな店舗を借りてオートマタ一体か二体でこつこつと店舗を経営していたりします。
同じように髪型や瞳の色、爪や肌の色を変えることで個性を出そうとするオートマタも出てきますし、その需要に応えようとするオートマタも出てきます。
人間の数が少ない分、音楽や演劇、スポーツの分野へもオートマタが進出していきます。
中にはパンク・ロックに目覚めたオートマタが黄緑色のモヒカンヘアーでエレキギターをうならせながら舞台狭しと駆け回るとか、オートマタの俳優に数多のファンが歓声をあげるとか、野球やサッカーもオートマタによって構成されたチーム同士が試合をし、人間やオートマタが客席で観戦しています。
人口が回復すればオートマタは必要なくなるだろうとも言われていますが、一方でオートマタの数が戦争の抑止力になるとも言われるし、戦地で無くとも人間にとっては危険な作業を難なくこなす労働力としてオートマタは各分野から重宝されています。
また探検家は探検へ赴く際、必ずオートマタを連れていきます。北極や南極のような氷に閉ざされた世界でもオートマタならば寒冷地仕様へ改修することで人間よりも寒さに強くなります。それでも防寒着は必要です。
また極地以外にも人間がまだ足を踏み入れていない土地や海、果ては星々の世界などを目指した時、オートマタは良きパートナーになると言われています。
十年後ぐらいには一行か二行は加筆されているかもしれません。