量産型女子と、僕。
結局は、みんなそうなのだろう。
だからこそ、それなりに距離を保って生きてきた。
それなのにいきなり問われた一言へは、意識せず口を噤む。
元々は垂れ気味の目尻をアイラインで持ち上げている、キツさを含む瞳。
細く引かれたライトブラウンの眉毛が顰められ、彼女の苛立ちに切実さを抱かせる。
だが、小柄な雨川に睨み上げられても危機感は持てない。
血色を抑える為、わざとトーンの低いリップを薄く塗っていた。
肉の少ない唇だから、尚のこと貧相に思う。
「あたしが間違ってるって、言いたいわけ?」
雨川雫。
隣室の主であるところの彼女は、字面だけ見れば堂々の水属性。
イメージカラーも、きっとブルー系。
だけど茹蛸みたいに赤くなるエネルギッシュさは、反している。
それなのに、雨川を包むのはピンクばかり。
しかも、鮮やかな彩りではない。
靄というか、フィルターでも重ねているように曇った色。
はっきりしない桃色に対し、装飾するリボンやフリルが見事に黒い。
艶やかなロングヘアを、子供が行うように高い位置で二つ結びしている。
差し色なのか、ワインレッドの大きなリボンを丁寧につけていた。
雨川は、控えめな胸へ指先を宛てて自分を示す。
「向ヶ丘に文句を言われる筋合いなんて、無いんだけど!」
別に、僕は文句なんて言っていない。
ただ答えただけ。
それなのに、雨川は納得せず居座り続けた。
備え付けの椅子へ腰を落ち着けている彼女をどうにか帰したい。
元々、僕は雨川を部屋に迎え入れる気などなかった。
共有スペースである廊下で悶着するのも嫌だったから仕方無い。
「別に、僕は文句なんて言ってない」
先程心で吐き出したものを、今度は音にしてみた。
当然の如く、雨川が食って掛かる。
「意味判らない。向ヶ丘、何なの。むかつく」
「雨川こそ。僕に、やたら絡むのは止めてくれよ」
「絡んでないし。気持ち悪い。マジで、大嫌いだし」
どうやら、ソーシャルネットワークサービス大好き少女は意味を履き違えたらしい。
実際に雨川は、ダル絡みしようよー鬼絡みしていいー?……と、メッセージを送ってくる。
無論それは、向ヶ丘であるところの僕に向けたものではない。
「てか、向ヶ丘には関係無い話じゃん」
それを言われたら、まあそうだとしか思えない。
今回の雨川に限らず、自分以外の物事は実際関りが無いに等しいものだ。
「だとしても、僕は君に言いたい」
十六時半を告げる、町内放送が窓の向こう側で響く。
悲壮感を抱く音楽。
これを背景に、僕は少しだけ語気を強める。
「雨川雫は、正しくない」
向ヶ丘未であるところの僕は、雨川雫という女子高生を全否定した。