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獣人の女の子 01

 今日は生憎の曇り空だった。


 しかもただの曇りじゃない。


 なんだかうっすらと赤紫色に変色していて、ここが呪われた地であることを改めて実感する。


 というか、不気味すぎる。


「瘴気の雨とか降らないよね……?」


 酸性雨的なやつ。


 飲水は濾過器で確保できたし、瘴気の雨が降ったとしても体内に取り込まなければ大丈夫だけれど、気分的によろしくない。


 とりあえず、雨が降ることを想定して畑の水撒きはやめて、濾過器で飲料水を大量生産するために水を汲みにいくことにした。


「……お、かなり出来てるな」


 出発する前に畑に寄ってみたところ、「俊敏力強化」をかけたキュウリがかなり育っていた。


 持ってきた木の棒を畝の両端に立ててロープを網状に張ったのだけれど、その網が隠れるくらいに葉っぱが広がり、かなり大きな実が出来ている。


 これは早く収穫しないと傷んでしまうかもしれない。


 キュウリは水や肥料が足りないと曲がってしまうのだけれど、パッと見たところまっすぐ育っているので、そこらへんは大丈夫みたいだ。


 キュウリの他にも、トウモロコシやジャガイモも収穫できそうだ。


 いいぞいいぞ。収穫が楽しみすぎる。


 ウキウキしながら桶を両手に抱えて川へと向かう。


 拠点にしているテントから川まではそこまで遠くないけれど、一度に運べる量に限界があるのが面倒だ。


 これは早めに馬を手に入れる必要がありそうだな。農園が軌道に乗ってきたら一度パルメザンに行って必要なものを買ってこようか。


「……ん?」


 と、そんなことを考えながら川に降りていると、何か動くものが見えた。


 曇り空のせいで薄暗くなっている対岸の川辺。大きな岩の影に何かがいる。


 まさかモンスターか?


 呪われた地には危険なモンスターが多く生息しているというけれど、これまでそんな気配はなかった。


 もしかすると曇りの日に活発になるのかもしれないな。


 何にしてもモンスターだったら追い払っておいたほうがいいかもしれない。


 腰に下げた短剣を手に取って、筋力強化と俊敏力強化の付与魔法をかける。いつもの範囲拡張の合わせ付与だ。


 これで身体能力を強化すれば、ある程度の相手ならいけるはず。


 恐る恐る川を渡って反対の岸に。


 大きな岩の近くまでゆっくりと近づき、岩の裏側を覗き込む。


「……えっ」


 つい、ギョッとしてしまった。


 岩陰に隠れていたのは女の子──それも、狼のような耳と尻尾を持った獣人の女の子だった。


 肩ほどまであるくすんだピンクの髪に、頬にはヒゲのような模様がある。頬のそれは獣人の特徴だ。


 着ているワンピースはボロボロだし少しやつれているように見えるけど、すごく可愛い。


 でも、なんでこんな所に獣人が?


 しばし考えて、僕ははたと思い出す。


 そういえばホエール地方には獣人の集落があって、昔は人間との交流があったとサクネさんが言ってたっけ。


 人間と獣人の交流があるなんて珍しいなと思ったから、よく覚えている。


 数が少ない獣人は人間から迫害されている。王都でもたまに獣人を見かけることがあったけど、ほとんどが奴隷商の売り物としてだった。


 ここの近くに住んでいるのなら、挨拶でもしておこうかな。


 そう思ってにこやかに近づこうとしたけれど、一歩踏み出した瞬間、「来るな」と言いたげに犬歯をむき出しにして威嚇され、逃げられてしまった。


 流石は身体能力が高い獣人だ。


 彼女の姿は、あっという間に消えてしまった。


「……いきなり嫌われちゃったな」


 誰かに嫌われるのには慣れているけど、初対面でいきなりはちょっと堪える。僕って、そんな悪人面してないと思うんだけどな。


「でも、大丈夫かな」


 少しだけ気になることがあった。


 あの子がすごく衰弱しているように見えたことだ。


 数ヶ月前に大海瘴によってホエール地方は大きな被害を受けたと言っていた。もしかすると、そのときにあの子の集落も壊滅してしまったんじゃないだろうか。


 住む場所を失って、食べ物や飲み物を探して彷徨っている。


 うん、すごくあり得る話だ。


 こんなことなら、携帯食と飲水を持ち歩いておけばよかった。頻繁にここに来ているのなら、食べ物でも置いておこうかな。


「……ギャウゥ!」

「っ!?」


 などと思案していると、遠くから甲高い動物の鳴き声がした。


 声が聞こえたのは、獣人の少女が逃げていった方向。


 まさか、モンスターに遭遇したとか?


 獣人は人間と比べて身体能力や戦闘能力に長けているし、簡単にモンスターにやられたりはしないはず。


 だけど、衰弱しているように見えたのが気がかりだ。あれじゃあ逃げるのもままならないかもしれない。

 どうしようか。


 見て見ぬ振りはできるけれど、あの少女が心配だ。それに、拠点の近くを危険なモンスターにうろつかれていても困る。


「……仕方ない。確認しに行ってみよう」


 そうして僕は、消えていった少女を追いかけて上流へと向かうことにした。

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