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真夏、橋の上

 絶叫が嫌いでたまらない。

 耳に響くし、見た目も悪い。

 愚か者のすることだ。

 絶叫する奴は全てこの手で潰してきた。

 色々な潰し方をした。奴等は全員、最後に絶叫して消えてゆく。

 

 俺は絶叫が嫌いだ。

 だから、橋の上で絶叫していた男を潰すときも、しっかりイヤホンをつけて行おうとした。

 銃を向けると、男は笑顔で俺に歩み寄り手を握ってきた。

 俺は戸惑った。今までそんなことをされたことがなかったからだ。

 絶叫するゴミどもは皆、恐怖の表情で絶叫しながら消えていった。

「……、……!」

 何やら喋っているようだが、全く聞こえない。

「……!」

 男が口パクで何か喋る。

 心の底から嫌だったが、渋々イヤホンを外す。

「……何だ、貴様」

「俺は『川に飛び降りようとしている男』です!」

「声がうるさい、音量下げろ」

「あっすみません……興奮するとつい声が大きくなってしまって」

「飛び降りるならさっさとしろ。処分する手間が省ける」

「あなたは俺を消してくれるんですよね!?」

 耳がきぃぃんとなる。イヤホンを外さなければよかった。

「音量下げろ……」

「あっすみません……あなたは俺を消してくれるんですよね?」

「『くれる』……?」

「俺……失恋して……この世から消えたいと思ってこの橋に……」

 聞いたことを後悔するくらいくだらない理由だった。

「飛び降りるならさっさとしろ」

「あなたが消してくれるんですよね?」

「断る。慈善事業じゃない」

「俺を消せって指示受けたんですか?」

「違う。個人的に俺が消したいから消そうとしていた」

「今は?」

「勝手に飛び降りてくれと思っている」

「冷たい人ですねえ……」

 男はへらりと笑って欄干に手をかける。

 そうだ、そのまま飛び降りろ。

「でも俺は飛び降りませんよ」

「は? なんでだ」

「今、この瞬間、俺には新しいハニーができたからです」

 心底嫌な予感がしたが、念のため問うてみることにする。

「新しいハニーとは何だ」

「もちろん、あなたですよマイビューティ!」

「音量下げろ! ふざけてるのか!?」

「おおう……すみませんハニー」

「その呼び方をやめろ」

「じゃあ何て呼べばいいんですか?」

「そもそも呼ぶな」

「ええ、そんなひどい。愛しい人の名前は呼びたいじゃないですか」

「貴様のようなうるさい人間に名前を呼ばれたくない」

「あなたのことを考えて音量を抑えているというのに」

「善意の押しつけは嫌われるぞ。だが音量は抑えたままでいい」

「えへへ」

 へらへら笑う男。全てのやる気が失われるような笑みだ。

「……気が抜けた。さっさと帰れ」

「えーもうちょっとお話ししていたいです」

「いらん。帰れ」

「消してくれるんじゃなかったんですか?」

「知らん。帰れ」

「また会いましょうマイハニー」

「だからその呼び方はやめろと」

「さらば~!」

 男は手を大きく振りながら走り去って行った。

 何だったんだ、いったい。

 イヤホンをもう一度耳にはめる。

 今日はもう何もしたくない。

 

 次の日なんとなくあの橋に行ったら例の男がいて、

「そういえば、連絡先聞くの忘れてました」

 と笑った。


 そこからだ。不可解な関係が始まってしまったのは。

文披31題24日目「絶叫」

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