表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰にも言えないやめられないコトはありませんか?

作者: 本瑞 いこ

気を悪くしたらすみません。最近…大丈夫ですか?体調面とか、何かその……。

休憩のランチ中、会社の後輩チヨが言い淀んだ。

いつもなら大きな瞳をぱっちり開けて笑顔で喋ってくれる彼女が、今日は目線を下げ、視線も合わなかった。

え?元気だと思うけど…。何で?私は質問の意図が分からずに聞き返す。


いいえ、ごめんなさい。実は…少し聞いてほしい話があるんです。

もう…3年以上前の話なんですけど。

チヨは、大きく息を吐いてから話し出す。


近況トークや面白い話、やってみた企画など、時にはアダルトな企画も…声だけでリスナーを楽しませることが目的のラジオ配信サイトがあったんです。

私も、配信自体はしてなかったんですけど、声が好みの配信者を発掘しようと思って、夜な夜なサイトを徘徊していました。


ある時、1人の女性配信者を見つけたんです。

その方は、囁くようなウィスパーボイスでポジティブな言葉を配信している、まだ投稿も3日目とか4日目ぐらいの駆け出しの配信者さんでした。

「明日は今日より良い日になるよ!」とか「今日も朝起きられたの偉い!」とか、ありきたりで聞き飽きたポジティブな言葉ばかり配信していました。正直、内容は面白くなかったんです。それに、ウィスパーボイスでも分かるぐらい、声はしわがれていて、お世辞にも綺麗とは言えませんでした。


ここの配信サイトって、基本的に視聴回数やコメントもリスナーが見れるようになっているんですけど、この配信者、仮にマリコさんとしますね。マリコさんの配信は、視聴回数が分かりませんでした。非表示になっていたんです。


でも、コメントは送れたので「へったくそ、やめちまえ、汚い声w」と書きこんでしまったんです。最初は出来心でした。

私はその頃、前職の仕事が忙しくて残業続きで、イライラしていることが多かったんです。好みの配信者を探す傍ら、面白くない配信者に対して、鬱憤晴らしのためアンチコメントをするのが癖になっていました。

匿名でのコメントだし、こんな何人聴いているかも分からない弱小配信者に対してだったら何言ってもいいでしょ、って勝手に思ってしまったんです。今思えば酷い話ですよね。


大体の配信者はブロック機能を使って、私に配信を聴かれないように設定してくるんですけど、マリコさんだけはブロックしてきませんでした。

私も、調子に乗って毎日のように下手だの、声が気持ち悪いのだの、早くやめれば?などコメントを書き綴りました。


ある日、マリコさんが「負けない。酷い言葉を他人に向ける人はその人自身を醜くさせます。私はポジティブに、毎日素敵な言葉を届けたいです」とまるで私に向けて言っているかのような配信をしたんです。


私、その配信に腹がたってきちゃって、何でこんな弱小配信者に歯向かわれなきゃいけないの?って。そこからマリコさんの配信に対して、どんどんアンチ行為をエスカレートしてしまいました。気づいたらコメント欄は、ほとんど私が書いたアンチコメントだったんです。


酷いストレス状況だったからって、やっていいことと悪いことがあるのに、本当に申し訳なかったと思っています。


アンチ行為を辞めるきっかけもありました。


会社の行き帰りの電車の中、配信ラジオを聴くことが多かったので、その日も帰り道にマリコさんの配信を聞いていたんです。でも残業疲れがたたって電車の座席に座ったまま、眠ってしまいました。

アンチコメントも途中まで書き、送信ボタンを押す前に眠ってしまったようでした。スマホの画面は点灯しっぱなしで、周りの人からも丸わかりでした。

そろそろ最寄りの駅に着く、ってタイミングでやばい!寝過ごす!とビクッと飛び起きると、目の前に、白目が充血した私を睨む女の顔がありました。

思わず小さな悲鳴をあげてしまったんですけど、終点の駅間近だったこともあり、周りに人はおらず、私と女だけでした。座った私の目線に合わせるよう、かがんでジッと私を睨んでいる女は、異様でした。

急に目の前に現れた女に驚いて声も出せずにいると「お前だったんだな」と囁かれたんです。

何度も何度も聞いた声、マリコさんでした。


私ビックリしちゃって、急いで電車から飛び出して駅のホームを走って逃げました。

匿名でアンチコメントを書いた相手が目の前にいる状況に耐えられなかったんです。

あの血走った目で恨みがましく私を睨む顔、手入れの行き届いていない傷んだ髪の毛、乾燥で皮膚が粉をふいてボロボロの肌、全てを思い出し吐き気がしてきました。


駅のトイレに駆け込み、洗面台で一息つき、ふと顔をあげると、ゲッソリとした生気の抜けた女が目の前の鏡に写っていました。私でした。

マリコさんのように血走った目、頬もこけて黒っぽくなった肌、髪の毛もボサボサで、私こんな見た目だったっけ…と焦りました。


ようやく、憑りつかれたようにアンチ行為にのめり込んでいたことに気づきました。

人を悪く言い過ぎると、自分自身を醜くするんですね。

奇しくも、マリコさんが言っていた通りの結果になりました。


------------------------------------------------------


話を終え、チヨは意を決したように、私の目を見て伝えた。

ーーー先輩の最近の顔つきは、アンチ行為に必死になっていた時の私の顔つきと、一緒なんです。


ヒュッと内臓が縮むのが分かった。

あーバレていたんだな…。

チヨのSNSに、匿名でアンチコメントを書いているのが、私なこと。

後味の悪さ!!!笑

やはり気持ち悪い話は書いてて楽しいな~。。

大好きなイヤミスを書きたかったけど、このお話はヒトコワ系です。

電車で寝ちゃって、目を覚ましたらすぐ目の前にめっちゃ睨んでる人いたら怖いなーと思ってそこからアイディア出しをしてみました。

**************

少しでもお気に召して頂けましたら、【ブックマークに追加】や【☆☆☆☆☆】欄でお気軽に評価をいただけたら励みになります。

いただける感想からも、勉強させていただきます。お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 夏のホラー企画、参加者作品を片っ端から読んでいる者です。 本企画はどうしても『ラジオ』という限定的なテーマのためか、没個性がひしめいております。 ですが本作は、ラジオ配信サイトのコメント…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ