黒滝城の戦い
戦闘描写って難しい…。
視点が変わったりして読みにくいかもしれません、申し訳ないです。
---天文14年(1545年) 栃尾城 長尾景虎---
年が変わって天文14年になった。
一連の騒動は一応収束を見せたが、依然として越後国では各勢力が独立の兆しを見せている。
俺は段蔵率いる忍び衆により警戒をさせているが、実は年明けからずっと胸騒ぎが収まらなかった。
その胸騒ぎとは、春日山にいる兄上達に危険が迫っているような予感がずっとしているのだ。
しかも守護上杉家の誰かが反乱を起こすかもしれないという予感。
これは恐らく毘沙門天の加護による物だと思い、俺は段蔵に守護上杉家の家臣達を調べるように言っていた。
そしてこの日、段蔵から伝えたいことがあるとの事なので実乃にも同席してもらい自室で報告を聞いていた。
「それで段蔵、俺の予感通りだったか?」
「はっ、どうやら老臣の黒田秀忠が怪しい動きをしているようで」
まさか守護上杉家を支えてきた老臣がよりにもよって…。
「まさか…それを主導しているのは定実様ではあるまいな?」
「いえ、定実様は何も知らされてない様子です。おそらく黒田の単独でしょう」
言われてみれば定実様がそのようなことをするとは思えないな。
というのも、定実様は伊達家からの養子を迎える件でかなり精力的に動かれていた。
だが、越後の情勢が不安定になったことと伊達家でも内訌が起きてしまいこの件は白紙となってしまった。
それからというもの、定実様はすっかり元気を無くしてしまったようであまり表にも出てこられないのだ。
しかも我が越後長尾家は養子の件で定実様の支援をしていたこともあって恨まれているということはありえないか。
「景虎様、黒田秀忠は元々野心の強い男でした。やつは為景様の信任を受けて黒田家の養子に入り家督を継いでおります。能力の高さを為景様は買っておられましたが、それゆえ今の晴景様の統治に不満があるのでしょう」
「ふむ…。話を聞く限り奴で当たりだろうが、現時点では問いただす証拠がない。それが守護上杉家の家臣なら尚更だ。兄上達に備えておくよう伝えるしかないか」
「それがよろしいかと」
「よし、では密かにこの書状を兄上の元に届けてくれ。そして実乃、いつでも兵を動かせるように準備させておけ」
「「承知致しました」」
---同年 黒滝城 黒田秀忠---
クソっ!晴景が生温い統治ばかりしてるから一向に越後の争乱が終わらんではないか!!
我々上杉家家臣も奴の尻拭いをさせられて無駄に戦続きになっておる、このままでは越後の国が大変なことになってしまうぞ…。
やはり、ここは力あるものが国主として越後の統治をするしかあるまい。
定実様は以前の件ですっかり意気消沈しておられる上に、老齢に差し掛かっておられる。
…ん?待てよ、力あるものが統治すれば良いなら儂がなってしまえばよいのだ。
晴景を倒し、儂が越後の強き統治者になってどこにも侵略されない強き国を作る。
晴景如きが当主をしている長尾家など取るに足らん相手だしな。
ふふふ…ようやく儂にも良い風が吹いてきたようじゃ…。
---同年 春日山城 長尾晴景---
昨夜、景虎からの書状が私の元に直接届いた。
内容は守護上杉家の黒田秀忠に謀反の疑いあり、備えられよとのこと。
…はぁ、国人衆の反乱が終わったと思ったら次は守護家家臣の反乱か…。
どうしてこうも統治がうまくいかないのだ?私のやり方が間違っているのか?
戦なんてやらない方がいいに決まっている、だから私は他国に欲をかくことなく越後の国を争いなく抑えようとしているのだ。
だが結果はどうだ、次から次へと反乱が止まらない!
そんなに戦がしたいのか!そんなに人の血が見たいのか!!
私は…私は私なりに必死にやっているのに、どうして誰も認めてはくれないのだ…!!
…はぁ、最近は悪いことばかり考えてしまっている。
私は父のように権謀術数がある訳でもなければ景虎のように戦に強い訳でもない。
でもだからこそ私なりのやり方でこの越後を治められると思っていたのだが…。
景虎…あやつの活躍は聞いている。
華々しい初陣を果たしてこの越後の反乱をよく抑えてくれた。
家中にも密かではあるが景虎を良く思っている者もいると聞く。
あやつなら…あやつならばどのようにしてこの越後を治めるのだろうか…。
---栃尾城 長尾景虎---
10月、黒田秀忠の軍勢が春日山に向かっているとの報告を受け、俺は即座に軍を編成すると春日山に向けて出立した。
しかし、途中で再び反乱を起こした国人衆の対応にも追われてしまい、俺たちが春日山に着く頃には既に戦が始まっていた。
「ちっ!これも奴の差し金か。春日山の状況はどうだ?」
「反乱に備えていたおかげでまだ大した損害は受けていないようです」
「よし、ならばこのまま黒田軍の横っ腹を食い破る!我に続け!!」
春日山に到着した俺はすかさず黒田軍の側面へ突撃を敢行したが、向こうは俺達の接近に気付いたようで退却を始めていた。
「景虎か!こんなにも早く援軍に来るとは予想していなかったわ。引け!黒滝城まで退却じゃ!」
結局秀忠は素早い逃げ足で黒滝城まで引いていき、俺は春日山城に入り兄上と話をした。
「まずはお前のおかげで損害も少なく済んだ。礼を言う」
「いえ、兄上達のほうこそ良く耐えてくれました」
「それもお主が知らせてくれたおかげよ。それで黒田討伐なのだが、お主に任せようと思っている」
「承知致しました。必ずや奴の首を取ってみせましょう」
「頼りにしているぞ、景虎」
こうして黒田討伐を命じられた俺は休む間もなく軍を再編成し、夜のうちに黒田秀忠が籠る黒滝城に進軍した。
黒滝城は北陸道の軍略上の要衝として重要な役割を担っており、黒滝要害とも呼ばれるこの城は谷奥に一際高くそびえ立つ天然の山城である。
その他にも周辺の交通上の要衝や戦略上の重要な拠点全て牽制できる位置にあるため、一刻も早い制圧が必要だった。
「与七郎!お主に先陣を任せる。一部の兵を率いて先行し、謀反者共に我らの戦を見せつけよ!」
「承知しました!必ずや落として見せましょう!」
黒滝城で準備万端に構えられてしまうと長期戦になってしまう、それならば準備が整う前に攻め掛かる他ない。
兵達にはなかなか辛い行軍だろうがしばらく我慢してもらわなければ。
---黒滝城 黒田秀忠---
ひとまず黒滝城に着いたか。
すぐにでも籠城準備に取り掛かりたいが、兵たちの損耗も激しい。
数刻休ませた後、夜明けごろから始めるとしようか。
なに、奴らとて兵が損耗しておるのだ、すぐさま進軍してくることもなかろう。
「報告します!長尾景虎率いる軍勢が接近中!あと一刻ほどで先行部隊が到着する模様!」
「なに!?いくらなんでも早すぎる!奴らは夜通し進軍してきたというのか!くそ、こうしてはいられん。すぐに籠城準備に取り掛かれ!最低限の備えだけでもするのだ!」
まだだ、最低限の備えだけであろうともこの黒滝城はそう易々と攻め落とせぬぞ景虎!
---黒滝城 村山与七郎---
「攻め掛かれ!相手は籠城の準備が整っていないぞ!!」
私は景虎様から兵を預かり、先行して城を攻めている最中だった。
黒滝城は堅牢な城としても有名だが、籠城準備が整っていない今ならば我ら栃尾勢の敵ではないわ!
「弓兵隊前へ!城兵共に矢の雨を降らせてやれ!後の者は私に続け!!」
敵側はこちらの素早い進軍を予測できていなかったようで、かなり慌てた様子で迎撃をしてきた。
そんな様子で迎え撃ってくる敵を次々になぎ倒し足掛かりとなる砦を落とした後、景虎様率いる本隊も到着したようでいったん降伏の使者を送るとのことだった。
その後降伏の使者が呼び掛けるが城からは何も返答は無く、むしろ矢が撃ち込まれてしまう。
この態度に景虎様は激怒し、全軍で総攻撃をするよう命令を出した。
「黒田の首を取れ!我らの恐ろしさを見せつけてやるのだ!」
城兵も必死に抵抗してくるが、こちらの士気の高さは異様なまでに高く次々に敵を倒していき残るは黒田秀忠の籠る本丸のみとなった。
すると、これ以上の抵抗は無駄だと悟った黒田秀忠が城を開城し降伏を申し出てきたのでひとまず城兵と黒田の身柄を拘束し、景虎様の前に連れていくことにした。
---黒滝城 長尾景虎---
捕縛した黒田の首を切ろうと思っていたが、少し前に定実様から使者が送られてきて黒田秀忠を追放処分にするとの沙汰を貰っていた。
正直甘い対応ではないかと思ったが、定実様からの命令なので従わない訳にはいかない。
「黒田秀忠よ、命拾いしたな。貴殿は定実様の恩情により他国へ追放となった」
「承知いたしました。定実様のご恩情に感謝致します」
こうして黒田秀忠は他国に追放されたが、俺は奴が必ずこの越後に帰ってくる予感がしていた。
そしてその予感は一年後の天文15年に現実のものとなる。
「報告します!昨年追放された黒田秀忠が兵を挙げました!」
黒田秀忠は密かにこの越後に戻ってきており、黒滝城にいる一族や家臣達と共に再び兵を挙げたのだ。
二度目となる反乱に定実様も許せなくなったようで、兄上を通じて俺に討伐の命令を出した。
「黒田秀忠は定実様に命を救ってもらったにもかかわらず再び兵を向けてきた。これは到底許されるものではない!今度こそ奴らを一人残らず根絶やしにするのだ!!」
俺は怒っていた。
本来なら首を切られるところを定実様の恩情で救ってもらったのにこれほど早く戻ってきて兵を挙げるとは。
俺はあの戦いの後、定実様に労いの言葉を貰うと同時にこれまで支えてくれた黒田秀忠に対する思いも聞いていたからこそ、その思いを踏みにじった黒田秀忠という武士を許せなかった。
今回のことについて定実様は大変心を痛めているご様子で、あの様子を見たらようやく訪れかけていた平穏を壊した奴には死を持って償ってもらうしかあるまい。
黒滝城に到着した俺は全軍に総攻撃を命じると、瞬く間に城を攻めあがり残るは本丸のみとなった。
「何なのだ…奴らの強さは異常だ…長尾景虎とはこれほどまでの男なのか…」
最後まで抵抗した黒田秀忠だったが、抵抗むなしく捕縛され俺の目の前に連れられてきた。
「黒田秀忠よ、何か言い遺すことはあるか?」
「長尾景虎、貴様はいったい何者なのだ…?」
「我は我だ、それ以外の何者でもない。ただまあ、そなたの問いに答えるとするならば…毘沙門天の化身とでも言っておこうか」
「はは…それは勝てないはずだな…」
こうして二度目の反乱は俺の手により黒田秀忠をはじめ一族や家臣達も悉く討ち死にあるいは斬首となり終結を迎えた。
この活躍で越後での俺の名声は確固たるものとなり、俺を長尾家の当主に据える動きが本格的に加速していくことになる。
今回もお読みいただきありがとうございます!