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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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栃尾城の戦い

今回もお読みいただきありがとうございます!

ブックマークや高評価もしていただき感謝してます!


あと前回の話で本庄さんが栃尾城にいることを忘れていたので再度編集させてもらいました。

失礼いたしました。。。

 ---天文13年(1544年) 栃尾城 長尾景虎---


「報告します!越後の国人衆が反乱を起こし、三条城主の長尾俊景率いる近隣の一部国人衆はこの栃尾城に向かってきているとのこと!」


「来たか」


 年が変わり春になったこの日、予想していた通りに国人衆が反乱を起こしたようだ。

 俺は直ちに評定を開くと部隊を二つに分けることを告げる。


「危険です景虎様!相手は我らの数倍の兵数を揃えてきております。籠城をして春日山からの援軍を待った方が…」


「奴らは我を若輩者と侮っておる。その隙を突く」


「たったこれだけの兵でどうやって!」


 俺が部隊を二つに分けて別動隊に背後から敵本陣を突く旨を伝えると、兵を分けるのは危険だと主張するものが多くいた。

 確かに普通に考えれば数倍もある兵数を相手取るなら兵を分けずに籠城することを選ぶべきだろう。

 だが、加護の力と自分の勘が敵本陣を奇襲すれば勝てるという確信めいたものを感じていた。


「奴らは兄上のいる春日山にも兵を送っているだろう、だとすればすぐには援軍は来ない。その間にも城下は荒らされ民達は苦しい状況が続いてしまう。それだけはならん」


「民のことを考えれば早急に退けるべきでしょうな。ですが、少々危険すぎる気がしますが?」


「危険かもしれぬが、籠っていても状況が良くなることはない。それに敵はおそらく傘松に陣を張るはず、そこに別動隊で背後を突けば一気に片が付くだろう。実乃、そなたは別動隊を率いてもらう。おぬしにしか務まらんだろう」


「承知いたしました。必ずや敵本陣に大打撃を与えて見せましょう」


「よろしく頼む。それと、そなたの攻勢に合わせてこちらからも打って出るつもりでいる」


「なんと!わざわざそんな危険を冒さなくても我らが本陣を突けばおのずと敵も引いていきましょう」


「それだけでは足りん。奴らには二度と背く気が起きないように徹底的にやる必要があるのだ。でないとまた同じことの繰り返しになるだろう」


「それはそうですが…わかりました。くれぐれも無茶をされないように」


「わかっている。与七郎と弥太郎は我と共に城に残れ」


「「はっ!」」


 こうして評定を終え、それぞれ配置に着いたころやはり敵が本陣を傘松に敷き攻め寄せてきた。

 これが俺の初陣となるのだが、不思議と恐怖感はない。

 むしろようやく今まで積み上げてきたものを披露できるという高揚感が全身を駆け巡っていた。


「ようやく来たか。皆の者!何も恐れる必要はない!我らには毘沙門天の加護が宿っているぞ!!」


 後に上杉謙信の初陣にして軍神伝説の始まりとなった「栃尾城の戦い」が幕を開けた。


 ---本庄実乃---


 どうやら城攻めが始まったようだな。

 正直奴らが傘松に陣を敷くのか半信半疑だったが、こちらが確認する限り本当に本陣を敷いているみたいだ。

 景虎様の言ったとおりになった訳だが…全く、あのお方は何者なのだ?

 以前、栃尾城に来る道中でも敵勢力が襲ってきたようだが、傷一つなくたどり着いていらした。

 それにあの年で為景様以上に人の上に立つ者の風格を感じる。

 どうして為景様は景虎様を寺になど入れたのか等疑問は尽きぬが、今は目の前の戦に集中すべきだろう。


「皆の者、奴らは景虎様の言った通り傘松に陣を敷いている。これより我らは奴らの背後を突き敵大将の首を取る!私に続けぇ!!」


 城で指揮を執っている景虎様が心配ではあるが、その分私が素早く敵大将首を取ればいいだけの事。

 さて、私の手柄となってもらうぞ!!


 ---長尾俊景---


「どうやら栃尾城の城兵はかなり少ないようだな。これなら勝ったも同然」


 ふふふ、所詮は14歳の小童が籠る城だ、この兵数で攻め掛かればひとたまりもあるまいて。

 それに一番警戒しておった本庄実乃の姿が見当たらないというのだから哀れなものよ。

 家臣にも見捨てられごく少数の兵だけで城を守らなければならん景虎には同情するが、頼りない兄を持ったことを後悔するのだな。

 しかし城攻めが始まってからそれなりの時間が経つが一向に城を落としたという報告が入らん。

 全く、前線の兵たちは何をぐずぐずやっておるか!

 …ん?何やら外が騒がしいな。


「殿!奇襲です!背後から本庄実乃率いる敵部隊がこの場所に向けて攻撃を仕掛けてきています!」


「なにぃ!?兵の数は!」


「およそ百から二百程度かと!」


 ふ、ふん!奇襲とはいえ所詮その程度の数ならば慌てる必要もないな。

 本陣にはその数倍の兵を置いておるのだ。


「そんな数の兵などさっさと蹴散らしてしまえ!」


「それが、敵の勢い凄まじく止められない様子!」


「ちっ!本陣周りの兵も向かわせろ!そうすればすぐに…」


「報告します!栃尾城の兵が城門を開きこの本陣に向けて突撃を仕掛けてきました!既に前線を突破している模様!」


 なにぃ!?前線がすでに突破されただと!?

 何がどうなっている!!兵数ではこちらが圧倒的であったはずだ!!


「前線の兵たちは何をしておった!城の兵と言ってもたかが知れておるだろう!」


「それが、城兵を率いる者が尋常ではない強さでして…何度食い止めようとも蹴散らされてしまうのです。その姿に周りの兵は恐れをなして統制が取れないようで…」


 ふざけるなふざけるなふざけるな!!

 何なのだそいつは!何故そんな者が栃尾城におるのだ!


「その率いている者はいったいどこの誰じゃ!!」


「長尾景虎自身が率いているとのこと!」


 そ、そんな…奴はまだ若輩者の小童に過ぎぬはず…。

 わしが奴の力量を見誤っておったのか?


「俊景様!敵がすぐそこまで迫っています!早くお逃げくだされ!ぐはぁっ!」


「…長尾俊景だな?景虎様を若輩者と侮ったこと、あの世で後悔するといいわ」


 あ…あぁ…わしが晴景に代わり越後の主となるはずが…。


 ---長尾景虎---


 時は少し遡り、実乃が攻撃を始めたという報告を受け、俺は城を守る城兵に門を開けるように指示を出した。


「時は来た。城門を開き敵陣目掛けて駆け抜けよ!!全軍我に続け!!!!」


「「うおおおおおおおお!!!!!!」」


 地鳴りのような雄叫びをあげながら馬に跨り敵陣を駆け抜ける。

 立ち塞がる敵をまとめて薙ぎ払い、側面の敵は弥太郎と与七郎が相手をしてくれた。


「景虎様には指一本触れさせん!!」


「そらそらそら!!そんなんじゃこの小島弥太郎は倒せんぞ!」


「立ち向かってくる敵にだけ対応しろ!その他の雑兵にはかまうな!!」


 この時の自分がどんな顔をしていたのかわからないが、次第に周りの敵兵が戦意を失っていくのが分かった。

 逃げ出すものや腰が抜けて立ち上がれないもの、武器を捨て投降するものが続出し、「化け物だ…」 「あんなの勝てっこない…」「投降しますから命だけは…!!」といった声が次々に聞こえてきた。


 そして敵本陣が目前に迫ったところでこちらの勝鬨が聞こえてきた。


「敵将!本庄実乃が討ち取ったり!!!」


 よし!よくやった実乃!これで他の兵は抵抗することなく引いていくだろう。


「我らの勝利ぞ!!勝鬨をあげよ!!!」


「「えい!えい!おー!!」」


 こうして栃尾城の戦いを勝利で飾った俺は、勢いそのまま次々に敵国人衆を降していった。

 この一連の戦いで長尾景虎の名は越後国内に瞬く間に広まり、国人衆の反乱は終息を見せるが水面下で兄上に代わり俺を長尾家の当主にという動きが出始めることになる。

 しかし、俺がこの事を知るのはもう少し後になる…。


「皆の者、この度の戦では見事な働きであった。おかげで国人衆の反乱も抑えることができた。兄上に代わって礼を言う」


 一連の戦いが終わった後、俺は評定の間に集めて労うことにした。


「無事反乱が収まったこと、我ら家臣一同祝着至極に存じます。そして見事な采配でございました、景虎様」


「何を言う実乃、そなたの働きにはずいぶん助けられたわ。礼を言うぞ」


「過分なお言葉身に余る光栄。これからも粉骨砕身働かせていただく所存でございます」


「うむ。これからも未熟な私を支えてくれ、実乃」


「ははぁ!」


 お世辞でもなんでもなく、本当に実乃には助けられた。

 彼が居てくれなければあの戦いにも勝てなかったと思うし、その後鎮圧にももっと時が掛かっていたであろう。

 それにあの戦いは運が良かったと今は思う。

 相手が油断していたことに加え寄せ集めの軍勢だったから上手く統率が取れていなかったこと、実乃が素早く敵将を討ち取ってくれたことなど要因は様々だ。

 これから戦っていくのはこんなもんじゃないし、まだまだ学ぶべきことは多い。


「他の者も大儀であった!ささやかだが宴席も用意させてもらったから存分に楽しんでくれ」


 その後各自恩賞や褒美を与え評定は終了し、夜遅くまで宴は続くのだった。


 翌日、俺は改めて実乃を呼び出すと自分に軍学を教えてくれと頼んだ。


「俺はまだまだ未熟だということをこの初陣で思い知った。だからこの私に軍学についてもっと教えてはくれぬか?」


「景虎様、それは構いませぬが私でよろしいのですか?」


「先日も言ったがお主にはずいぶん助けられた。その働きのおかげで今の状況があると思っている、だからこそお主に教えてほしいのだ」


「…承知いたしました。不肖ながらこの本庄新左衛門尉実乃の全てを景虎様にお教えしましょう。某は厳しいですぞ?」


「望むところだ。これからもよろしく頼む、実乃」


 その後、本庄実乃は景虎から絶大な信頼を寄せられ、彼の側近として支えていくこととなる。


 ---本庄実乃---


 私はようやくこの越後を治めるのに相応しい御方を見つけたようだ。

 景虎様は初陣で恐ろしいほど鮮やかな勝利を収められ、無事に国人衆の反乱も鎮圧できた。

 だが景虎様は慢心せず自らを未熟だったと戒め、私に軍学を教えてほしいと頼み込まれてしまった。

 私のような者がこの御方に軍学の何たるかを教えてもいいものか迷ったが、あのように言われてしまっては断ることなどできない。

 それからというもの景虎様に私の知りうる全てをお教えしているが、驚くほどに呑み込みが早い。

 一の事を教えると十の事まで理解されてしまうので早々に教えることが無くなりそうな程だ。

 それから嫡男の清七郎を景虎様の小姓として働かせている。

 景虎様も清七郎のことを弟のように可愛がってくれており、ありがたい限りである。


 しかし、反乱を鎮圧したとはいえまたいつ次の反乱が起こるかわからないのが今の越後の現状なのだ。

 これは本格的に景虎様に越後を治めてもらうため動いていかねばならんな…。

 さて、とりあえず色んな者に声をかけてみるとするか。


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