手取川の戦い 【前編】
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---弘治元年(1555年) 加賀国 手取川---
戦が始まる数刻前、実虎は毘沙門天像の前で静かに佇んでいた。
以前から戦の前には毘沙門天像に向かって静かに念仏を唱えるのが恒例の事になっていたが、今回はいつにも増して長い時間をかけていた。
いつもより長いので何人かの諸将が声を掛けようとするが、何人たりとも踏み込めない空気がその空間に張り詰めており近づくことが出来なかった。
(毘沙門天様…今まで我はなるべくか弱き民を傷付けることなくやって来ました。ですがこの度の戦、今まで経験した事が無いほど苛烈なものになるでしょう。気を抜けばこちらが飲み込まれてしまう…そうならぬ為、今回だけは我らの手で命を奪った者達が、あの世で安らかに過ごせるよう御力をお貸しくだされ)
すると、実虎に毘沙門天の声が聞こえた訳では無いが、『任せておけ』と背中を押してもらった気がした。
そしてようやく一息ついた実虎は毘沙門天像を懐にしまうと、各部隊に指示通りにとの伝令を出しその時を待った。
一方、一向宗を指揮する下間頼照は朝倉方面も優勢な事から余裕の表情を浮かべていた。
「頼周殿は優勢で上杉勢は4万の軍勢に恐れをなしてか仕掛けてくる様子はなし。雪も降り始めてきてこれ以上戦をするのは困難、上杉家は越後に帰還せねばならん。この戦勝ったも同然じゃな!はっはっはっ!」
「やはり御仏は我らの御味方をしてくださいましたな!」
「この戦が終わった後、勝利の美酒は盛大に行こうぞ!はっはっはっ!」
そうして戦が始まると、実虎は手取川に掛かっている左右の橋を制圧する為右翼を上田衆のいる長尾家に、左翼を富樫晴貞率いる冨樫勢に任せると両翼共に派手に暴れて来るよう伝え進軍させた。
そして冨樫勢には援軍として腹心の本庄実乃を送りこんだ。
「本庄殿、頼りにしております!」
「こちらこそ!厳しい戦場になるとは思いますが、共に戦い抜いた後勝利の美酒に一杯付き合ってもらいますぞ!」
「はっはっはっ!それは良い!では何としてでも生き抜かねばなりませんな!」
一方右翼を任された景実は緊張と不安からか少し震えていた。
「景実様、不安でございますか?」
「うむ…私にとってこれほど大きな戦は初めての経験だ。そんな私が作戦の中で大事な右翼を任されて大丈夫なのか…とな」
政景は不安そうな顔をしている景実の両頬を包み込むように手を添えると、
「実虎は景実ならばこの大事な右翼を任せても大丈夫だと判断したから命じたのだ。それに越後でも随一の精兵である我が上田衆が居る、安心して大船に乗ったつもりで戦えばいい」
「叔父上…承知致した。精強な上田衆の力、存分に発揮してくれ!」
「はっ!」
こうして右翼左翼共に交戦を開始すると、上杉軍はこれまで信徒達の命はなるべく取らないよう戦ってきたが、今回は何の躊躇いもなく立ち塞がる一向宗を次々に切り倒して行った。
この上杉軍の戦い方に門徒達は命までは取らないと高を括っていたのもあって、一向宗は不意を突かれるような形になってしまい初めは上杉軍優位で進んで行った。
しかし、この報を受けた頼照は即座に大量の援軍を両翼に振り分け、数の差で押し潰す作戦を採る。
「頼照様!上杉軍の攻撃により橋の防衛に当っていた部隊が劣勢とのこと!」
「ちっ、流石に信徒だろうと構わず斬るつもりで戦うか…。では第二陣を防衛に回せ!数の差で押し潰すのだ!」
上杉勢優勢かに見えたが、倒しても倒しても際限なくやって来る一向宗の数を前に少しずつ押されてきた。
「全く、切っても切っても湧いてくるではないか!」
「晴貞殿!もう泣き言を吐いておられるのか!?」
「くっ!なんのこれしき!!」
敵の反撃が強まって来たのは右翼も同じであった。
「陣形を崩すな!戦は始まったばかりだぞ!」
「この作戦は我らがどれだけ敵を引き付けられるかが鍵となる!」
上杉軍の被害も少しずつではあるが増えてきた中、両翼とも粘り強く戦い数の差に負けることなく進んでいく。
そんな戦況に痺れを切らした頼照は、橋の防衛にさらなる戦力を集中させようとしていた。
「ええぃ!あれだけの信徒を駆り出しても潰せんのか!!もうよい!中央の部隊も動かして構わん!さっさと捻りつぶせ!!」
「頼照様、中央の部隊を動かすのは流石に危ないかと。中央が手薄になるのを待っているかも知れませぬ」
「お主は何も分かっておらんな、噂に聞くと上杉実虎は家臣を大層大事にするそうではないか。家臣が蹂躙されるのを黙って見ておる男では無いわ」
「しかし…」
「それに雪も強くなってきて視界が悪くなってきておる。そんな中、極寒の川を渡り本陣に突撃などという無謀な策をとる男でもあるまい」
「確かに…それもそうでございますな」
「分かったらさっさと兵を送れ!あの橋が制圧される方がよっぽど危険じゃ!」
「はっ!」
時が経つにつれしんしんと降っていた雪は勢いを増し、視界を遮るほどの強さになっていった。
橋の防衛に回された兵の数約3万に対し、上杉軍の数は両部隊合わせて1万。
しかしこの1万の兵もかなり数を減らされ約6千程の数にまで減少していた。
「本庄殿!!生きておられるか!!!」
「しぶとく生きておりますぞ!!晴貞殿こそもう限界ではないのか?!」
「限界など既に超えておりますゆえいつ倒れてもおかしくない!!はっはっはっ!!」
「全く、私も負けておられませんな!!…しかし、まだ動く時ではない無いと言うのですか実虎様…!!」
「はぁ…はぁ…景実様!!ご無事ですか!!」
「生きておるぞ政景!!もう少しだ!もう少しだけ耐えれば叔父上が必ず…!!」
「そうは言ってもこれではきりが無い!!…まだか実虎…!!」
両部隊が死闘を繰り広げる中、本陣の実虎は開戦してからこれまでずっと動かず何かを待っている様子だった。
「実虎様!冨樫長尾両部隊ともに壊滅寸前!!どうか救援を!!」
「救援は送らん。あの者達にはそう伝えてある」
「実虎様!私だけでも父上の救援に向かわせて下され!この豊弘、死ぬ覚悟は出来ております!!」
「ならぬ」
「しかし…!!」
「くどいぞ豊弘、我は救援は送らぬと申したはずだ。それにあの者達の働きで一向宗の本陣は手薄になった。後は…」
実虎がそう呟いた時、敵本陣に乱れが生じたのを実虎は感じ取った。
その乱れは雪が吹雪いているのもあり感じ取れた者は少なかったが、上杉軍の各部隊を率いる諸将含め戦場に感覚を研ぎ澄ましていた実虎達にはそれがはっきりと感じられたのだ。
「来たか!豊弘、付いて参れ!!」
「は、はい!!」
そうして実虎率いる本陣が動き出すと同時に、今か今かと待ち構えていた各諸将達も一斉に動き出し、実虎必殺の一撃が繰り出されようとしていた。
「皆の者時は満ちた!敵本陣が乱れている今が好機!!上杉の武を悪しき坊主共に刻み込むのだ!!『車懸かりの陣』を組め!!!!」
「「はっ!!!」」
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