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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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玄任の行方

皆様大変お久しぶりでございます。

少しずつ執筆意欲が戻ってきましたのでぼちぼちやっていきたいと思います。

 ---弘治元年(1555年) 加賀国 尾山御坊---


「なに?冨樫攻めが失敗しただと!?」


「はっ、上杉実虎自らが別働隊を率いて野々市城に先行し、足止めに向かった頼廉様の部隊をも突破しそのまま…」


 下間頼照は予想外の報告に歯噛みをした。

 実際途中までは上杉軍を足止めすることが出来ていたし、別働隊が動くことを頼廉なら予測していたはず。

 それでも冨樫家の救援を許してしまったということは、上杉軍の力を侮っていたのと兵の練度に差があることだろうか。

 いくら数を揃えられたとて兵の質という面では圧倒的に相手が上。

 その兵の質を埋めるために民を犠牲にして敵に突撃させれば良いのだが、頼廉はそれを嫌う男だということを失念していた己の失態だった。


「…まあ過ぎたことは仕方がない。恐らく上杉軍はこの尾山御坊まで攻めてくるであろう、ならばそれを数の暴力で踏み潰すまでよ!どうせこの加賀の民など教えが無ければ生きていけぬ者共だ、念仏でも唱えて突撃させれば面白いように敵を殺してくれるだろう」


 頼照の不敵な笑みに思わずそばにいた僧兵はゴクリと唾を飲み込む。

 そして頼照は朝倉方面を任せている頼周へ伝令を走らせる。


「頼周殿に伝えよ、出し惜しみをするなとな…」





 上杉軍との戦いを終え尾山御坊に帰ってきた頼廉は頼照に呼び出されていた。


「頼照殿、この度は任せて頂いたのに誠に申し訳ない」


「全くだ頼廉殿…そなたであれば上杉相手にも引けを取らんと思っておったのだがな。信者達を上手く扱えばこうはならんかっただろうに」


 頼照は上手くいかなかった責任を全て頼廉に押し付けるように嫌味を言い放った。

 頼廉は口を閉じじっとその嫌味にじっと耐えていたが、内心頼照の言葉に憤慨していた。


(上手く扱うだと?貴様の言っているそれは大切な民に死ねと言っているのと同じだろう!!)


「ふんっ…まあ過ぎたことは仕方がない。次の戦、貴殿はここで待機だ。総大将を任された私の戦を見ておくといい」


「…はっ」


 頼廉は部屋を出ると、しばらく歩いたところで壁を殴った。


「クソっ!民を道具としか思わん外道め!!」


 上杉軍の力を見誤った自身の失態であることは重々承知している。

 承知しているからこそ自身の情けなさとそのせいで民が大勢犠牲になるかもしれない事への怒りであった。

 すると、頼廉の声を聞き付けた若い僧兵が一人何事かとやって来た。


「頼廉様!如何なされました!?」


「あぁ、いや、何でもないんだ。大きな音を立ててしまってすまぬな。そういえば、玄任殿はどこにおられるかな?」


「玄任様でございますか?実は拙僧も数ヶ月前から姿を見かけないのです」


「…なに?」


 頼廉は以前から玄任の事を探していたのだが姿を見かけなかったのでずっと不思議に思っていた。

 朝倉方面軍に居ないことは確認しているのでこちら方面に残っていると思っていたのだが、加賀の僧兵ですらその姿を見かけなくなったと言うのだ。


「心当たりのありそうな者は居らぬか?」


「そうですね…頼周様なら何か知っておられるとは思いますが、如何せんここには居られませんし…」


「ならば頼周殿に近しい者は居らぬか?その者なら知っているかもしれん」


 頼廉は少々きな臭さを感じたので、待機となった時間を使って玄任の行方追うことにした。




 数日後、野々市城を出立した上杉軍は手取川を渡り尾山御坊を攻め落とすべく進軍していた。

 上杉冨樫連合軍2万5000に加え、能登畠山家から先日の礼として3000の兵が援軍としてやって来て、総勢2万8000の軍勢となった。


「数年前まで越後一国すら治められなかった我らが、これほどの兵を率いれるほど大きくなるなんて…感慨深いですなぁ実虎様」


「何を言っている、これから更に大きくし将軍をお支えして天下の大軍勢を率いていくのだ。まだまだ道半ばよ」


「はっはっはっ!確かにその通りでございますな。ならばこんな一向宗ごときに後れを取る訳には参りませんぞ本庄殿」


 これ程の軍勢を率いて戦えるということで、上杉軍の諸将は意気揚々といった様子だった。

 先の戦いでは無事に冨樫家を救うことができ、一揆勢も退ける事が出来た事で軍の士気は悪くなかった。

 しかし、実虎は一つの懸念があった。


「段蔵」


「ここに」


「玄任殿からの連絡は何もないのか?」


「はい、数ヶ月前から連絡が途絶えておりまして、さらに尾山御坊の警備もかなり強化されているので様子を探る事が出来ませぬ」


「そうか…。数ヶ月前からとなれば恐らく事が露見してしまったか」


 懸念とは玄任の事であった。

 数ヶ月前までは進捗状況を連絡し合っていたが、ある日を境にその連絡が途絶え今まで音沙汰が無かったのだ。

 となればこの事が誰かに露見してしまって玄任の身に何かがあったと考えるのが妥当だが、それを確かめる術が無かった。


「では段蔵は何とか玄任殿と連絡が取れないか試してくれ。これから一揆勢本隊との戦になろう、その間尾山御坊の警備が薄くなるはずだ」


「承知致しました」


 こうして玄任との連絡が取れず一抹の不安を抱えたまま、いよいよ一揆勢との決戦に臨むことになった。


今回もお読み頂きありがとうございます!!


高評価、ブックマークをお待ちしております!

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