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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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冨樫家救援

 --- 弘治元年(1555年) 加賀国 ---


「ちっ!一向宗の者共め時間稼ぎなど小賢しい真似を!」


 冨樫家蜂起の報を受けた上杉家は即座に軍を起こし加賀国へと侵攻した。

 東北への抑えとして兵を残しただけで、連れてきた兵の数は二万五千。

 それ程の大軍を引き連れ加賀に入ったが、予想していたよりも一揆勢が組織的な動きを見せており、度々進軍の邪魔をされ思うように進めなかった。


「落ち着け実乃。しかし、よもや一揆勢がここまで統率された動きをしてくるとは…優秀な指揮官が派遣されたか?」


 実虎は統制をとることが難しい一揆勢をここまで上手く動かしているのを見て警戒を強めた。

 では一体誰がこれを指揮していたのかと言うと、石山本願寺の法主である顕如の右腕として信頼の厚い下間頼廉(しもつまらいれん)であった。

 頼廉は下間氏一族の中でも武芸、知略共に秀でた才能を持っており、跡取りである顕如の護衛兼側仕えとして指名される程であった。

 そして七里頼周からの要請により、法主の顕如は優秀な者が多い下間氏一族の派遣を決めた。




「流石でございます頼廉様、これ程上手く上杉勢を足止め出来ているとは」


「後ろから命令したところで民の統制は取れん。ならば坊主自ら先頭に立ち民を導いてやれば良いのだ」


「しかし…結局それを任せることが出来たのは頼廉様が連れてこられた者達。加賀の者達は臆病者ばかりでございますな」


「同志に対する陰口はそこまでにせよ。私はこの為にあの者達を連れてきたのだ、何も問題は無い」


「これは失礼致しました」


「(さて…ここまでは上手くいっているがこの程度で終わる男でもあるまい。念の為別働隊が居ないか確かめておくか)野々市城まで兵を動かすぞ。別働隊がいるかもしれん」


「はっ!」




「実虎様、現在冨樫家は一揆勢の猛攻により大分攻め込まれているようでございます。このままでは我々が到着する前に陥落する可能性も…」


「ふむ…それは少々まずいな」


「実虎様!どうか父上救援の為兵をお貸しください!私が先行して…」


「早まるな豊弘。そなたはまだ経験不足、大事な兵を任せる訳にはいかん」


「しかし!それでは父上が!!」


 父の危機に居ても立ってもいられない豊弘は必死に助けに行く許可を貰おうとした。

 だが豊弘は武士としての鍛錬を初めてまだ1年程しか経っておらず、兵を率いて戦うなど出来るはずがなかった。


「誰も助けに行かぬとは行っておらん。定満、景実に軍を任せるから政景と共に補佐を頼む。我は別働隊を率いて野々市城に先行する」


「承知致しました、我らも後から向かいます」


「うむ。豊弘、我と共に晴貞殿をお助けするぞ」


「は、はい!!」


「実乃も我と共に来い!それと景家(柿崎景家(かきざきかげいえ))、景持(甘粕景持(あまかすかげもち))、景元(安田景元(やすだかげもと))も我について参れ!」


「「はっ!!」」


 実虎は別働隊を編成するとそれを率いて直ちに野々市城へと向かった。

 豊弘案内のもと野々市城の近くまでやってきた実虎だったが、その動きは頼廉に察知されており一揆勢の奇襲を受けてしまう。


「やはり別働隊を動かしてきたか。兵を動かして正解だったな。皆の者!今だ!!」


 完全に不意を突かれる形になった実虎達は混乱に陥ったが、実虎含め部隊を指揮している者達は直前に気配を感じ取った為、しばらくすると冷静に状況を把握することが出来た。


(くっ、ここまで優秀な指揮官が加賀に居たとは。現状近くにいる部隊は実乃達か。ならば今は我らだけでも野々市城へと向かわねば!)


 実虎は自身の旗を高く掲げさせると、声を張り上げた。


「我と実乃の部隊の者はこの旗を目印について参れ!!その他の者達は陣形を固めて敵を退けよ!!」


「「はっ!!」」


 実虎の声によって意思が統一された上杉勢はすぐに落ち着きを取り戻し、兵達は指示された通りに動き始める。

 一方頼廉は抜群の奇襲を仕掛ける事が出来たはずなのに、実虎の一声でたちまち対応され始めて来たことに焦りを感じた。


「何という男だ…仕掛ける場所も間も抜群だったはず。それなのに冷静に状況を見極めた上たった一言で混乱を鎮めよった…。それにあの声と体格、堺で出会った男は上杉実虎であったか!」


「我が部隊は実虎様の旗を目指せ!!敵には構うな!!」


「ええぃ!奴らを行かせるな!!なんとしてでも食い止めよ!!」


 頼廉は兵に食い止めるよう激を飛ばすと、兵もそれに従い攻撃を仕掛けるが、凄まじい勢いで駆け抜けようとする上杉勢を食い止めきれずにいた。

 その様子を見て痺れを切らした頼廉は自ら弓を取ると、先頭に立つ実虎目掛けて矢を放った。

 限界まで引き絞られた矢は一直線に実虎の顔目掛けて飛び、頼廉は射抜いたと確信した。

 しかし、実虎は自分目掛けて放たれた矢に対して顔を少しだけ傾けると頼廉の放った矢は実虎の頬を掠める程度に終わり、そのまま実虎の率いる部隊はその場を抜ける事に成功した。


「くっ、何をやっている!追え!追え!!」


「我らの事を忘れてもらっては困るな坊主よ!!」


「実虎様の元へ行きたければ我等を退けてからにしてもらおうか」


 頼廉はすぐさま追いかけようとするが、場に残った景家達に阻まれてしまい一部別働隊を行かせてしまった。

 しかし、一揆勢を抑えておくために実虎は半数以上の兵を残した為、残った兵まで行かせる訳にはいかなかった。


「全く上杉の兵は厄介極まりないな。だがこれ以上兵を行かせる訳にはいかんな!」



 

「我は毘沙門天の化身、上杉実虎なり!!盟友冨樫家の窮地を救う為、皆の者我に続けぇ!!!」


 声を張り上げ城攻めをしている一揆勢に猛攻を仕掛けた実虎は押し寄せる敵を次々に薙ぎ倒しながら晴貞の籠る本丸へと突き進んだ。

 追い込まれていた晴貞達は上杉の援軍が到着した事を知ると落ち込んでいた士気が一気に回復し、一揆勢を逆に押し返すほどの力を見せた。


「皆の者!!ここが踏ん張り時だ!!ここで一気に押し返すぞ!!!」


「「おおおぉぉぉぉ!!!!」」


 後ろからは上杉勢が、前からは勢いを取り戻した冨樫勢が襲いかかってくる事により一揆勢はたちまち劣勢となった。

 後方では既に指揮官である坊官が実虎達によって討ち取られており、統制の取れなくなった民衆は死兵と化すか逃げ出すかの大混乱であり、その混乱のせいか両陣営とも多大な被害を被っていた。


 豊弘は実虎に離されないよう必死に槍を振るい応戦していると、晴貞が奮戦している本丸が見えてきた。

 そして豊弘が向かってくる敵に対処しながら進み続けると、晴貞の姿をようやく視認できたその目に飛び込んできたのは、尻もちを着き死兵と化した信者に追い詰められている姿であった。

 それを見た瞬間、豊弘は手に持っていた槍を信者に向かって思いっ切り投げ放つと、投げた槍は信者の胴体に突き刺さり間一髪の所で晴貞を助けることに成功した。


「父上!!ご無事で御座いますか!!」


「おぉ!豊弘か!!よくぞ…よくぞ助けに来てくれた!!」


「晴貞殿!ご無事か!」


「実虎殿!!救援かたじけない!」


「盟友の危機に駆けつけるのは当然の事。さあ、残った敵を一掃しましょう。豊弘、まだ戦えるな?」


「はい!」


 こうして無事晴貞を助ける事が出来た実虎達は残った抵抗する者達を片付けると、そのまま野々市城にて景家達や上杉軍本隊と合流し、これからについての話し合いを始めた。

今回もお読みいただきありがとうございます!


誤字脱字、感想等ございましたらコメントお願い致します!


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