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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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加賀侵攻

 ---弘治元年(1555年) 加賀国---


「我々冨樫家は加賀国を取り戻す為加賀一向宗に宣戦布告する!!」


 朝倉、上杉両家支援の元遂に富樫晴貞は立ち上がった。

 冨樫家の為に集まった兵はおよそ五百と一向宗に比べれば歴然の差ではあるが、居城の野々市城周辺の城を攻めた後、一向宗の軍勢が来ると城にこもり籠城の構えを見せた。

 この知らせにより朝倉上杉両家は冨樫家の人間を旗印に冨樫家への援軍として加賀に侵攻を開始する。

 朝倉家は長年苦しめられてきた加賀一向宗を滅ぼす好機と見て一万五千の軍勢を用意し、上杉家も越中、越後両国の兵を総動員し二万五千もの軍勢を用意、両家合わせて四万の大軍で加賀に攻め込んだ。


 朝倉家は加賀国に入ると大聖寺城を落とすべく進軍、道中にある城を瞬く間落とし加賀に入って二日後には一向一揆側の重要拠点である大聖寺城を攻めていた。


「攻めの手を緩めるでないぞ!敵が浮き足立っておる内に本丸まで攻め上がるのじゃ!」


 宗滴は電光石火の侵攻によって完全に浮き足立っている一向一揆勢を容赦なく攻め立てた。

 加賀の民とはいえ向かってくる者達には一切の情けを掛けてはならぬと兵達に厳命し、それとは別に武器を捨て降ってきた者達には飯を与え手厚く保護する様にとも命令していた。

 この命令には実虎から宗滴に降る者については保護してやって欲しいとの要望があったようで、そのおかげもあってか降ってくる信者達も少なくはなく、一揆勢はたちまち劣勢になっていった。

 一方朝倉勢の対処を任されていた七里頼周は宗滴の猛攻に焦っていた。


「馬鹿な…奴らがこの加賀に侵攻してきてからまだ二日しか経っておらんというのに、なぜもうここまで攻められておるのだ!」


「頼周様!朝倉勢の勢い激しく民達が次々に逃げたり投降しているようでございます!」


「ふざけるな!!そんな者共後ろから突き殺してしまえ!それと逃げたり投降した者達には仏罰が下ると言っておけ!」


「は、はっ!」


 頼周は報告に来た僧兵を怒鳴りつけると部屋から追い出した。

 頼周も朝倉家とは幾度か戦ったこともあり宗滴の強さについては分かっていたはずであった。

 しかし、今までとは比べ物にならないほど朝倉勢の勢いは凄まじいものであった。


「頼周様、ここは我らだけでも後方へ引き体制を整えるべきかと」


「うむ…やはりその方がいいか。他の者達には悪いがせいぜい逃げるまでの時間稼ぎとなってもらうか」


 状況は完全に不利だと分かると、頼周含め主要な者達は戦っている者達を見捨てて後方へと逃げる事にした。

 その数刻後報告に参った兵が、頼周達が居ないことに気が付き見捨てられた事を知ると戦意を喪失し次々と攻め上がってきた朝倉の兵達に首を取られていった。

 こうして朝倉家は損害こそそれなりに出たが名将宗滴の手によってたった三日で大聖寺城まで落とすことに成功し、この大聖寺城を拠点に加賀侵攻を進めていくことにした。


「宗滴様、投降してきた民には飯と寝床を与えましたがどうされますか?」


「うむ、その民達に食料を持たせて各村へ返せ。そして我らが決して加賀の民を蔑ろにするつもりは無いことを民達に広めさすのだ」


「少しずつ民を懐柔するということですな。承知しました、そのように致します」


 景隆は宗滴から命令を受けとるとその場を去った。

 その直後宗滴は口を手で押え激しく咳をすると、その手には血痰が付いていた。


「どうやら無理をし過ぎたようじゃな。儂が動ける内に何とかしておきたいものだが…」


 宗滴は自身を蝕む病と戦いながら出陣したが、その病があと少しも待ってはくれない事を感じていた。

 自分が動ける内にこの戦いを終わらせるべく次なる策を練るのだった。



 朝倉家が大聖寺城を攻め落とした一方で、上杉勢は晴貞救援の為進軍していたが、一揆勢が進軍の邪魔をするように攻撃を仕掛けてきていたせいで、思うように軍を進めることが出来ず時間が掛かっていた。

 そんな野々市城は攻め寄せて来た一揆勢の猛攻によって落城寸前であった。


「晴貞様!!一揆勢がすぐそこまで迫っております!晴貞様だけでもお逃げくだされ!」


「ならぬ!こうして立ち上がった以上私にも意地がある!最後の一兵となろうとも戦い抜いてやるわ!」


 冨樫家当主としての意地を果たさんと息巻いてはいたが、状況は最悪だった。

 既に三の丸は突破されじきに二の丸も突破されるであろう状況まで攻め込まれており、五百人いた兵もその数を百人以下まで減らされ時間の問題だった。

 それでも晴貞が諦めなかった理由は上杉勢がこの野々市城に向かっている事を知っていたからだ。


「じきに実虎殿が来て下さる!それまで何としてでも時を稼ぐのだ!」


「殿!!一揆勢が上杉軍にも攻撃を仕掛けているようで進軍に時間がかかっているようです!これでは援軍が間に合わない可能性が…」


 悲痛な顔を浮かべてやってきた家臣からの報告により、場の雰囲気は一気に沈んでしまった。

 それまで援軍を頼りに必死に持ち堪えていたが、その援軍が間に合わないと分かると皆口々に弱音を零し始めた。

 そんな重苦しい雰囲気が漂う中、晴貞の眼はまだ死んではいなかった。


「皆の者心配するな、実虎殿は必ず来てくれる。それに上杉勢が間に合わないのなら、我々の手で間に合わせれば良いのだ!何としてでも時間を稼ぎ、糞坊主共に目にもの見せつけてやろうではないか!!」


 晴貞の言葉に意気消沈していた者達も次第にそうだそうだと闘志を取り戻していった。

 元よりこの場に集まっているのは屈辱の日々を耐え続けてきた者達。

 一向宗のやり方に納得出来なくても耐えるしか無かった日々を送り、そんな日々を終わらせられる好機をようやく得たのだ、それをこんな道半ばで終われるはずが無いと、それぞれ武器を取り攻め寄せる一揆勢に一矢報いんと駆け出そうとした。

 が、その瞬間外の喧騒がより大きくなった事にその場に居た者達は気付く。

 外の喧騒がより大きくはっきりと聞こえるようになったということは、遂に二の丸が破られこの本丸に敵が攻め寄せてきた事を意味していた。


 --- 一揆勢 ---


「頼照様、冨樫家の籠る野々市城も残るは二の丸と本丸のみのようで、その二の丸もじきに突破できるとの事」


「そうかそうか、それは重畳。野々市城を落とした後は城に入り上杉勢を食い止めよと伝えておけ。本隊も今日明日には進軍を開始するからの」


「承知致しました」


 予定通り上杉勢が到着する前に冨樫家を潰せることにほくそ笑んだ加賀一向一揆の総大将となった下間頼照(しもつまらいしょう)

 敵は朝倉上杉合わせて四万の大軍と聞いているが、こちらもおおよそ五万は動員できる計算なので問題ないと踏んでいた。


「しかし、なにやら朝倉方面の戦況が芳しくないようだな…頼周殿は一体何をしているのやら」


 朝倉方面を任せている頼周を少し心配するがまあ問題ないだろうと結論付けると、上杉勢との戦に望むべく準備を始めるのだった。


 --- 冨樫勢 ---


「皆の者覚悟を決めよ!!!!!!」


 晴貞が叫ぶと同時に破られた門から死人のようにやせ細り念仏を唱えながら向かってくる信者の群れが晴貞達に襲いかかってきた。


 晴貞達は弓や槍などを持ち迎え撃つが、数の差はどうしても埋めることは出来ず次第に追い込まれてしまう。

 最早これまでと死を覚悟した晴貞だったが、そんな彼の耳に飛び込んできたのは剣戟の音ではなく、信者達の念仏でもなく、ある男の声だった。


「我は毘沙門天の化身、上杉実虎なり!!盟友冨樫家の窮地を救う為、皆の者我に続けぇ!!!!」


 その声の主は晴貞が待ち望んでいた実虎の声であった。

今回もお読みいただきありがとうございます!


誤字脱字、感想などございましたらコメントよろしくお願い致します!


高評価、ブックマークもおまちしております!

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