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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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早川嫁入り

 ---天文23年(1554年) 相模国 小田原城---


「遂に早川が嫁に行ってしまうか…子供の成長は早いものだな…」


「本当に…なかなか嫁ぎ先が見つからなかったのでどうしたものかと不安でしたが、氏康様が一目置かれる越後の実虎様の元に嫁ぐ事になり私も一安心致しました」


 小田原城にある氏康の自室にて、氏康は妻の瑞渓院(ずいけいいん)と仲睦まじく話をしていた。

 上野国の情勢に関して、上野国最後の砦であった長野家に対して氏康自らが使者として従属を要求した事で、長野家当主の長野業正(ながのなりまさ)は山内上杉家に対しての義理も果たしたと、北条家に従属する事を決めた。

 山内上杉家の重臣であった業正が北条に降ったことと四国同盟の影響もあり次々に残る勢力も降伏を申し出て、上野国は完全に北条家の支配下となった。

 これにより越後へのルートも安全が確保され、遂に今日早川が越後へ嫁ぐ事になっている。


「ところで氏康様、実虎殿はどのような御方で?」


「武勇に優れ家臣や民に対しての慈愛を持ち合わせている英傑だな。あの男ならば我が娘を大層大事にしてくれると思っている」


「まぁ、それはまさに氏康様のような御方ではありませんか。氏康様がそう仰られるなら私も安心して愛娘を送り出せるというものです」


「いや、私なんかよりも余程優れた男だ。武士としてもな」


「ふふふ、氏康様がそこまで仰るだなんて、私も実虎殿にお会いしてみたくなりました」


「ははは、実はあの男の唯一の弱点は女子なのだ。私が早川の話を持ちかけた時に恥ずかしそうに女子と接した経験が無いと申したのだ。そなたや早川が婿殿に会えばどのような反応をするか見てみたいな」


 二人が笑みを浮かべて笑い合っていると、侍女の一人が早川の支度ができたとの報告をしてきた。

 二人は早川がいる部屋まで向かうと、支度を終えた早川が座っていた。


「さすが我が娘だ。これなら婿殿も一目見ただけでそなたに見惚れるな」


「あらまぁ、綺麗ですよ早川」


「父上、母上…ありがとうございます。支度が終わりましたのでこれより越後に行って参ります」


「うむ、実虎は良き男だ。必ずそなたを大切にしてくれる。息災でな」


「早川、あなたとは離れ離れになってしまいますが、貴方がどこにいても私は貴方のことを思っておりますよ」


「はい、私も両家の繁栄のため力を尽くしてまいります」


 こうして両親に別れを済ませ早川を乗せた籠は、地黄八幡こと北条綱成(ほうじょうつなしげ)率いる北条家の精鋭に守られながら越後へと旅立った。


 ---越後国 春日山城---


「実虎様、先日小田原城を出立したようでございます」


 姫が小田原を立ったと聞いた実虎は落ち着きが無い様子を見せていた。

 というのも実虎は幼少期から寺に入り長尾家に戻って来てからも越後統一や越中侵攻など戦いに明け暮れる日々を送っていた為、こういった話とは無縁の生活をしていた。

 そんな自分が早川姫としっかり愛を育むことが出来るのか、幸せにしてやれる事が出来るのか不安の方が大きかったのだ。


「実虎…少しは落ち着いてくだされ。今からそんな調子では身が持ちませんぞ」


「越後の龍と畏れられる叔父上のこのような姿を見れる日が来るとは」


「そ、そうは言うが…」


「早川様なら北条綱成殿率いる精鋭に守られておいでですから、危険に晒されるような目にも逢いません」


 実乃や景実が普段見ることの無い実虎の様子に溜息を吐くが、当の本人はやはり緊張や不安を拭うことは出来なかった。

 それからしばらく日が経ち、早川がいよいよ越後に入りこの春日山までもうすぐとの報告を受けた。

 春日山城内では小姓や侍女達が早川を迎える準備を忙しく行う中、実虎はじっと姫の到着を待っていた。


「どうやら覚悟をお決めになられたようですな実虎様?」


「ふん、我があの調子なら姫も不憫だろうと思ってな。この越後まで嫁いで来てくれるのだ、少しでも不安を感じないように迎えてやらねば」


「いつもの実虎様に戻られたようで私は安心致しました。では、そろそろお着きになられるようですので私はこれにて」


 そうして実乃が部屋から出ていきしばらくすると、早川が春日山城に到着したようで遂に二人は対面を果たす。


「…」


「…」


 しかし、初めて会った二人は互いに顔を見るだけで話そうとはしなかったが、そんな二人の頬はほのかに赤く染まっており、互いに悪印象を持った訳ではなかった。


 ---実虎視点---


 我が妻となる早川姫を初めて見た瞬間、今までに感じた事の無い感覚に襲われた。

 少し幼い印象を抱かせる顔だが、整った目鼻と花のように美しく可愛らしい笑みに釘付けになってしまってた。

 何か話しかけねば…だが何を話せばいいのかわからん。

 考えようとしても彼女の笑顔が頭から離れん…


 ---早川視点---


 私の夫となる実虎様に抱いた印象は綺麗というものでした。

 女性のように整ったお顔はもちろんですが、実虎様の佇まいといい雰囲気といい、芸術品を見ているかのような美しさを感じました。

 そんな実虎様は頬を少し赤くさせていらっしゃる…ふふふ、どうやら父上の仰っていた事は本当だったようですね。

 それにしても綺麗な御方…。




 二人の間にはしばらく沈黙が続いたが、実虎が意を決して言葉を発した。


「おほん。お初にお目にかかる、私が越後上杉家当主、上杉実虎だ。早川姫、よくぞこの越後へおいでになられた」


「私は北条家より上杉実虎様の妻となる為やって参りました、早川と申します。不束者ですがよろしくお願い致します」


「ぷっ…あはは」


「ぷっ…うふふ」


 二人は互いに挨拶を交わしたが、そのぎこちない様子が互いにおかしくて次第に笑い声が出てしまった。


「その…私は見ての通り女子の扱いに関して慣れていない。特にそなたのような美しい者の前だと緊張してしまってな…」


「実は父上が実虎様は女子が弱点だと申していたのですが、それが本当だったようで少し意外でした。越後の龍と畏れられている御方ですので、もう少し恐い方かと思っていたものでして」


「義父上が…。も、もしかして…思っていた姿と違って失望させてしまったか…?」


「いいえ、むしろ逆でございます。とても愛らしく素敵な御方なのだと確信致しました」


 早川から愛らしいと言われた実虎は安堵すると同時に耳まで真っ赤になりながら「それならよかった…」と顔を背けて小さく呟いた。

 そして実虎は再び咳払いをし気を取り直した。


「こほん。では早川姫、これから末永くよろしくお願い致す」


「『早川』とお呼び下さいませ。実虎様」


「そ、そうか。よろしく頼む…早川」


「はい。こちらこそ不束者ですがよろしくお願い致します。実虎様」


 こうして顔合わせはとても好印象に終わり、晴れて二人は夫婦となった。

 その後早川は実虎が天皇や将軍以外で唯一頭の上がらない人物になると同時に、心身共に実虎の大きな支えとなるのであった。

今回もお読みいただきありがとうございます!


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