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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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兄の死

 ---天文23年(1554年) 越後国 春日山城---


 年が明け北陸地方を覆っていた雪が解けると実虎は帰途に着いていた。

 実虎自身今回の上洛は非常に有意義なものであったが、越後上杉家の勢力圏内に入ると息咳切らせて慌てた様子の家臣が近付いてきた。


「実虎様!!!」


「何事だ?」


「は、晴景様が!!!」


 家臣から晴景の名が出た瞬間、実虎は馬を足を蹴り春日山城へと急いだ。

 休む間もなく走り続け春日山城に到着した実虎は、馬から飛び降りると晴景の自室へと向かう。

 勢いよく部屋の扉を開いた実虎の目に飛び込んできたのは、真っ白な装束に身を包み綺麗に化粧を施され眠ったままの晴景の姿があった。


「兄上…?只今戻りましたぞ。いつもなら出迎えてくださるのに…」


 よろよろと晴景の元に歩み寄り、力なく座り込んだ実虎は未だ信じられないと言った様子で晴景に語りかけ続ける。


「兄上…虎千代でございます…何時まで眠っておられるのですか…」


「叔父上…父上は…もう…」


 横から声がして目を向けると甥の景実が居たことに気付いた。

 景実は目に涙を浮かべながら実虎に父になにがあったのかを告げる。


「景実、兄上はなぜ眠っておられる?昨日夜分遅くまで起きていらしたのか?」


「叔父上…父上は一月程前から病状が悪化し、先日お亡くなりに…」


「っ!そんな…兄上が、嘘だ。我を驚かせようと…、こうして眠っておられるの、だろう…?」


 晴景が亡くなったという景実の言葉を未だ信じられない実虎。

 しかし、どれだけ声を掛けようと微動だにせずただ静かに目を閉じ息もしていない晴景がそこに居た。


「嘘だ…嘘だと言ってください兄上ぇっ!!兄上が居なくなってしまったら…私は…私の支えになってくれるという約束はどうなさるおつもりなのだ…!」


 実虎のあまりの様子に景実は声を掛けることが出来ず、静かに部屋を出た。

 それから一日中実虎は晴景の部屋へと籠り、春日山城内には実虎の悲痛な叫びが虚しく響き渡っていた。

 翌日、家臣達を広間に集めた実虎は晴景の葬儀を盛大に執り行う事を告げ、数日の準備期間を経て越後全体を挙げての葬儀が行われた。

 つつがなく葬儀が終わりひとまず落ち着いた頃、実虎と景実は晴景の自室にある縁側に座って思い出を語り合っていた。


「幼い頃、病で床に伏せっていた私が目を覚ますと母上以外では誰よりも先に見舞いに来てくださってな…。周りの者から気味悪がられていたこの眼を見ても、兄上だけは普通に接してくれたのだ」


「流石父上ですな。某が幼い頃も女子を育てるかのように大切にしてもらったものです。あまりにも頻繁に様子を見に来るので母上に政務に集中してくださいと怒られておりました」


「ははは、兄上ほど心優しい者は未だ見たことが無い。…兄上は、最期に何と?」


「叔父上の事を宜しく頼むと言っておられました。一人で何でも出来てしまう自慢の弟ではあるが、孤独というのは人を狂わせてしまう。誰かが傍で支えて居るからこそ弟は輝ける。私がそんな存在で在ることが出来たかは分からないが、その役目を息子に託す。と」


 実虎は最期の言葉を聞くと、静かに天を見上げ心の中で兄に対しての感謝を述べた。


(兄上…私はこの身体を毘沙門天様に救っていただいたが、我が心を救ってくれたのは間違いなく兄上でございます。兄上から頂いた温もりはこれからも私を支えてくれるでしょう。どうか安らかにお眠りくだされ)


 その瞬間、実虎の頬を優しく包み込むように暖かな春の風が吹いたのだった。

 そして実虎はギュッと強く目を閉じ感傷的な心と別れを告げると、ゆっくりと目を開けいつもの力強い目で景実の方を向いた。


「景実よ、我が道はまだまだ始まったばかりだ。この先どのような困難が待ち受けているかはわからぬ。だがしかし、我は立ち止まること無く進み続ける。そんな我を支えてくれ。兄上の代わりではなく、長尾景実として」


「某のやり方で…でございますね。えぇ!お任せ下さい!」


 兄のようにではなく、甥である景実のやり方で自分を支えて欲しいと語った実虎の言葉に、景実は自分自身を頼って貰えた喜びと共に力強く頷いた。

 そんな時、側近である実乃が部屋に入ってきた。


「お取り込み中失礼致します。先程今川家から庵原元政殿が使者としてやって来たのですが、如何されますか?」


「今川家だと?何用だ」


「それが極めて重要な話ゆえ、実虎様に直接お話したいと申しておりまして…」


「極めて重要?ふむ…よかろう、庵原殿といえば今川家の重臣、それなりの用があるに違いあるまい」


 そう言うと使者の話を聞くため広間へと向かった。

 そして、わざわざ重臣を寄越してまで極めて重要な話と言った理由をそこで知ることになる。

今回もお読みいただきありがとうございます!


という訳で、耳を疑う知らせその1でございました。

少し文字数が長くなりそうだったので分けることにしました。

次回は今川家からの使者という事で、一体どんな話を持ち込んで来たのか楽しみにお待ちください!


誤字脱字、感想などございましたらコメントして下さると嬉しいです!


高評価、ブックマークもお待ちしております!

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