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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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結ばれる絆

 ---天文22年(1553年) 近江朽木 ---


「義藤様、私は貴方様の民を思う気持ちと将軍としての覚悟に感服致しました。これより私は将軍足利義藤様に終生忠誠を捧げる事を毘沙門天の神に誓いましょう」


 実虎は義藤に忠誠を捧げることを誓うと深々と頭を下げた。

 義藤は実虎が毘沙門天を信心深く信仰している事は知っており、その神に誓うということの重みは理解出来た。


「実虎…そなたは…そなたは儂の味方でいてくれるのか?」


「私の夢は日ノ本に安寧を齎すこと。日ノ本に住む民が安心して暮らせる世を作る事にございます。義藤様はその夢を託すのに相応しい御方であれば、身命を賭してお仕えしとうございます」


 義藤は嘘偽りの無い言葉を申す実虎に深く感激していた。

 というのも、今まで義藤の周りに居た者達は表面では心地よい言葉を並べていても、その裏に己の利権や欲を得る為だという薄汚い心が透けて見える者達ばかりであった。

 中には六角定頼ような心から自分を敬い支えてくれる者達も居たが、定頼は既にこの世を去ってしまい信頼を寄せられる者は藤孝を含め極少数となってしまっていた。

 そんな魔境とも呼べる京である程度相手の心の内を読めるようになっていた義藤には、実虎が自身を利用してやろうという思いは皆無である事を読めた。


「実虎よ…感謝するぞ。そなたのような者が儂に忠誠を誓ってくれたことを心の底から感謝する…!!」


 目に涙を浮かべながら実虎に感謝を伝えた義藤は、このような者がまだ居てくれた事が何よりも自身を勇気付けてくれた。

 そして再び表情を引き締めると、信頼出来る臣に助言を求めるのだった。


「改めて、現在の状況を踏まえてどうするべきか二人の意見を聞かせて欲しい」


「かしこまりました。現在京の都を三好家に抑えられている以上、それを取り返す兵も武器も兵糧もこちらには無い。何よりこれ以上都に戦火が広がる事を主上は危惧されておられました」


「ようやく大名家からの献金により主上のおられる御所が復興され始めたばかりですからな…」


「つまり、京に戻るのならば三好に頭を下げるしかないという訳だな」


「はい、ですがそれはやめておいた方が宜しいかと。三好との戦は経緯が経緯ですのでここで頭を下げてしまえば義藤様の権威は完全に失墜してしまいます。そうなれば傀儡にされるか最悪三好が用意した将軍によって義藤様は将軍位から降ろされてしまうでしょう」


「やはり三好と手を切ったのは間違いであったか…」


 義藤は自身の失策を後悔した。

 畿内の勢力図が過渡期を迎えており、京では三好がいずれ義藤を排除し自分達に都合のいい将軍を擁立するべく動いているという噂がまことしやかに流れていた。

 親三好派の家臣達はそんな事はありえないと義藤を説得したが、晴元が三好勢を破り京に迫ってきている事と、反三好派の家臣達の言によって三好と手を組んでから僅か十日という早さで手を切ったのだ。


「判断が難しい時期ではありましたので仕方の無いことかと。それよりこれからの事を考えて参りましょう。ひとまず私の考えとしましてはこのまましばらく朽木にて政務を行うべきと進言致します」


「義藤様、某も実虎殿の意見に賛成でございます。先程も仰られたように今の我々には兵も武器も無い。頼みの六角家は義賢殿に代替わりをした所でございますれば、晴元殿の軍も士気が低く期待は出来ないかと」


「わかった。二人がそこまで言うならしばらくは忍耐の期間であるな」


「ええ、そしてその時が来るまでに我が越後上杉家が北陸街道を抑え何時でも義藤様の元に駆け付ける事が出来るようにしておきます」


「おぉ!それは心強い!越後の龍が共に戦ってくれるのならば百万の兵を得たにも等しい」


「それは心強いですが、北陸街道を抑えるとなると加賀本願寺と事を構えることになりますが…」


「もとよりそのつもりでございました。本願寺の僧は民から巻き上げた金銭で好き放題しております。挙句の果てには念仏を唱えれば極楽浄土に行けるなどと宣い弱き民を戦に駆り出している。そんな腐敗した本願寺から加賀を救う手立ては考えてあります」


「そうか、だが寺社勢力は非常に厄介な相手だ。実虎なら大丈夫だとは思うが気をつけるが良い」


「ありがとうございます。吉報をお待ちくだされ」


 ひとまず京に戻るのは諦めこの朽木で政務を執り行っていくことを決めると、その後の事についての話し合いは進んだ。

 内容としては各地の大名達と誼を通じておく事、三好が和睦を申し出てきても相手有利の和睦は決して認めない事などを決めた。


「今後についてはこんな所か、助かったぞ藤孝、実虎。…しかし、こんな事も一人で決められんとは情けない話だ」


「完璧な人などおりませぬ。一人で決められなくても我らを存分に頼ってくだされ」


「そうだな、今の儂には頼れる家臣が居る。これまでの弱い将軍は終わりだ、近い内に儂は名を変えて心機一転しようと思う。その際には実虎に新しくした名から一字を与えたいと思っているのだがどうだ?」


「それは大変光栄でございます。是非賜りたく存じます」


「そうか!それはよかった。では長々と済まなかったな。これからも儂を支えてくれ、実虎」


「御意」


 こうして将軍足利義藤と上杉実虎はこの出会いによって固い絆で結ばれる事になる。

 しかし、その先に待ち受けるのは悲劇かそれとも理想の未来か、それが分かるのはまだ先の話であった。


 --- 京 ---


 京に戻ってきた実虎は宿に戻ると主要な家臣達と宿で話をしていた。


「実虎様、義藤様はどのような御方でしたか?」


「義藤様は我が志を託すに相応しい御方だと我は感じた。あの御方は何よりも民の事を考え、そして将軍家に生まれた者としての覚悟が伝わってきた。我はそんな義藤様をお助けしたい」


「ほう…実虎様がそのように申されるのならさぞ素晴らしい御方なのでしょうな」


「あぁ、義藤様はいずれ京を取り戻すために立ち上がられる。その時までに加賀を抑えいつでも馳せ参じる事が出来るようにしておくぞ」


「遂に本願寺のクソ坊主共を叩きのめす事が出来るのですな!腕が鳴りますなぁ!」


「うむ、弥太郎の武勇期待しているぞ」


「お任せくだされ!!」


「他の者も越後上杉家の為、力を尽くしてくれ」


「「「ははぁ!」」」


 実虎が皆に向かって力強い言葉を伝えると、一同は頷いた。

 すると、段蔵が実虎の前に進み出て自身故郷である伊賀に行きたいと申し出てきた。


「実虎様、誠に勝手ながらしばらくの間伊賀に帰ってもよろしいでしょうか?」


「伊賀か、確かそなたの生まれ故郷であったな。よかろう、我々が越後に戻るまでならば許可しよう。それで、ただの里帰りではないのだろう?」


「はい、実は前々から個人的に伊賀の者と文を交わしてまして、拙者が越後上杉家にお世話になっている事を伝えると詳しい話を聞きたいと申してきたので上手くやれば同胞を増やせるかと」


「おぉ、良くやってくれた段蔵。越後に来ることを希望する者がいれば受け入れると伝えておけ。そなたら忍びの働きは非常に役に立っている、これから仕事が増えていくゆえ人数がいればいるほどありがたい」


「かしこまりました」


更新速度がかなり牛歩となっていますが、今回もお読みいただきありがとうございます!


誤字脱字を感想等ございましたらコメントよろしくお願いします!

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