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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
22/37

京の都

遅くなりました

 ---天文22年(1553年) 越前国 金ヶ崎城---


 翌朝、宗滴が実虎と豊弘に会って欲しい人物がいると言われて案内された部屋には、一人の男がいた。


「こちらの御仁は富樫晴貞殿の兄君、富樫泰俊殿だ」


「父上の…」


「豊弘であったな。私はお前の父の兄である富樫泰俊だ。お主から見れば叔父にあたる」


 会って欲しい人物とは豊弘の叔父、富樫泰俊であった。

 泰俊は先代稙泰の長男で、過去に大小一揆と呼ばれる一向宗が加賀を支配するきっかけになった戦が起こった際、父と共に加賀を脱し越前国にて匿われていた。


「それで…私達に会わせた理由は?」


「加賀を一向宗から取り戻す話し合いをと思ってな」


「そういう事でしたか。つまり朝倉家は越後上杉家に合力してくださるのですか?」


「ああ、朝倉家としても加賀の一向宗は悩みの種でな。上杉が共に攻めてくれるのならば勝機はある」


 朝倉家は長年加賀の一向宗と争っており、朝倉家が他国に侵攻できない理由の一つでもあった。

 だからこそ宗滴は自身が生きているうちに加賀を何とかしておきたかったのだ。


「宗滴殿が共に攻めてくれるならこれ以上の援軍はありませぬ。今度こそ加賀の地獄を終わらせなければ」


「私も一向宗によって辛酸を舐め続けてきました。そのせいで弟には苦しい思いをさせてしまって…豊弘も本当にすまなかった」


「顔を上げて下さい叔父上、叔父上が私達を支援してくれていたことは知っていますし、助けに来ようとしてくれたことも知っています。だから今度こそ私と一緒に父上を…加賀を救いましょう」


「あぁ…弟の為、加賀の為に我が命を懸けて戦うと誓おう」


「では実虎殿、仕掛ける時期は任せる。遣いを送ってくれれば即座に軍を纏めて加賀に侵攻しよう」


「忝ない。恐らく動きがあるのは翌々年になるかと思われますのでそのつもりで」


 こうして朝倉家の協力を取り付けた実虎は二日程滞在した後、京に向けて出立した。

 宗滴は別れ際、京の大徳寺にて出家した息子が修行しているから良ければ会って欲しいと実虎に伝えた。

 そして近江国に入り淡海を船で渡ると、遂に京の都に到着したのだった。


 京に到着した実虎一行はその日は宿にて一泊し、翌日御所から使者が案内人としてやってきた。

 案内に従い御所に入ると、そこからは山科言継が主上の元へと案内をしてくれて、部屋に入り実虎は天皇の前で頭を垂れた。


「そちが越後の龍と呼ばれておる上杉実虎であるか。朕の招きに応じてくれて感謝する。御所が少しずつ修復されてきたのも、そちの献金のおかげじゃ」


「勿体なきお言葉」


「そうじゃ、そちの顔をもっとよく見たい。もう少し近くに寄ってはくれぬか」


 そう言われて実虎が近付くと、天皇は実虎の姿を焼き付けるように見た。

 すると天皇は顔を上げるようにと言うと、実虎は恐れ多くもゆっくりと顔をあげた。


「ふむ、やはり見間違えではない。そちは()()()()を賜っておるな」


 天皇の一言に実虎は勿論、周りの公卿達も驚いていた。


「そう驚く事はない。朕は天皇、神の末裔故そういった気配には気付けるのだ。それに、天皇家に伝わる書物には神に愛されし者がごく稀に現れると書かれておるのでな。まさかそちがそれだったか」


「…恐れ入りました。確かに私は幼き頃、病によって死の淵を彷徨っておりました。そんな時、毘沙門天様が私の意識の中に現れて下さり、命を助けて貰った上加護を賜ったのです。この加護で日ノ本に安寧を齎せと」


「ほう、そちに加護を与えたのは毘沙門天であったか。それは良き神に愛されたのう。それなら鞍馬寺や神峰山寺に行ってみるとよいぞ、これらの寺は毘沙門天を祀っておるからの」


「そうでございましたか。では後日参らせて頂こうと存じます」


「うむ。では上杉実虎よ、そなたの忠義を称えて御剣と天盃を授けよう。それと、この日ノ本の為そなたの敵を討伐せよ!これは勅命である!」


「ははぁ!!」


 こうして実虎は後奈良天皇から御剣と天盃を賜り、敵を討伐せよとの勅命まで頂き実虎の出兵に大義名分ができた。

 そして御所から出る際に関白である近衛稙家に声をかけられる。


「実虎殿、この後時間はあるかのぅ?」


「これは関白殿下、これといった用はありませぬが」


「おぉ!ならば我が屋敷にて宴を催したいのじゃがどうかのぅ?」


「私の為に催して頂けるとは感謝致します。是非参加させて頂きたく存じます」


「うむ!ならば我が屋敷に案内しようぞ」


 こうして稙家と共に近衛屋敷へとやってくると、稙家の妻である慶子と息子の晴嗣に出迎えてもらった。

 特に晴嗣は実虎に対して友好的に接してくれて、宴が始まっても隣に座ってずっと話をする程であった。


「実虎殿!貴殿は元服間もない頃に何倍もの敵兵を相手に城を守りきったそうだな!」


「えぇ、よくご存知で。でもあれは我が家臣の本庄実乃が良く働いてくれたからで、私は必死に敵を食い止めていただけでございます」


「それにあの越後を二十歳にも満たない年齢で統一したと聞く。私は一度でいいから越後の龍と会ってみたかったのだ!父に実虎殿を歓待するよう言った甲斐があったというものよ」


「それ程までに私を買ってくださっていたとは、嬉しい限りでございます」


「私は貴殿のような者がこの日ノ本には必要だと思うのだが実虎殿はどのようにお考えで?」


 と、晴嗣のこのような調子に稙家は苦笑いしながら、彼も実虎に興味津々といった様子であった。

 その後、宴も終わり二人に感謝を告げた実虎は宿舎へと帰った。

 そして次は将軍足利義藤への謁見があったが、これはまだ数日先の事だったので、暇が出来た実虎は鞍馬寺へとやってきていた。


「ここが鞍馬寺か…毘沙門天様の気配を感じる」


 住職の了承を得て本尊の前にやってきた実虎は、毘沙門天像に向けて目を閉じ祈りを捧げると妙な感覚に襲われた。

 妙と言っても害がある訳ではなく、先程まで居た本堂とは別の場所にいるような感覚である。

 ゆっくりと目を開けると、見覚えのある山道の入口に立っていた。


「この場所は…そうか、毘沙門天様がお呼びになられているのか」


 毘沙門天に招かれたと分かった実虎は胸の高鳴りを感じながら階段を登り始める。

 そして登ること数分、立派なお社のある開けた場所に到着した。

 その時お社の方から声が聞こえる。


「中で待っている、入ってくるがよい」


 その声が聞こえたと思ったら、お社の入口と思われる障子が開いていた。

 実虎は一礼してから入ると、趣のある部屋で毘沙門天が腕を組んで座っていた。


「よく来たな虎千代。いや、今は実虎と名乗っておるのか」


「お久しゅうございます毘沙門天様。私はあなた様のおかげでこうして生きることが出来ております」


「そなたの活躍ここから見ておるぞ。我の助言通り鍛錬を怠っていないようだな。あの童がよくぞここまで成長したものよ」


「それも全て毘沙門天様のおかげでございます。あなた様が授けてくださった加護の力と歴史の知識、この二つがあるからこそ起こりうる事象に対して有効な手を打てているのです」


「加護はともかく歴史の知識はもはや当てにはならんだろう。すでにそなたの有している歴史とは異なる道を辿っておる。まあ参考程度にはなるだろうがな」


「ですがこの加護があれば私は負ける気が致しませぬ。必ずやご期待に添えるよう力を尽くしてみせまする」


「はっはっはっ!期待しておるぞ!それはそうと、その加護だが面白い事に周りの人間にも影響を与えておるようだぞ」


「周りの者にもでございますか?…確かに皆目覚しい活躍をしてくれております。もしや私に影響されて?」


「おそらくそうであろうな。そなたの信心深さによって加護の力が強まり、そして溢れ出る闘志によって周りにも伝播しておるのだと推測する」


「なるほど…ここぞという局面で皆が期待以上の働きをしてくれていたのはそれ故の事だったのですか」


「とはいえ、虎千代が同じ戦場に居なければその効果は出ない。だから配下に任せる時は気をつけることだ」


「肝に銘じておきまする」


「おっと、そろそろ時間のようだ。これ以上この地に居れば虎千代の意識が耐えられんからな。とにかく鍛錬だけは怠るな、武を磨き知を磨き、己を磨き上げればそなたは今以上に比類なき強さを手にできる。そなたが日ノ本に安寧を齎してくれる日を心待ちにしている」


「はっ!必ずや成し遂げてみせまする!!」


 そうして最後に言葉を交わすと実虎は意識が徐々に引き戻されるような感覚に陥り、気付けば元いた本堂の中であった。

 実虎は再び毘沙門天様に会えた事、そして成長していると褒めて貰えたことで高揚感に包まれていた。

今回もお読みいただきありがとうございます!


誤字脱字の指摘、感想などありましたらコメントを書いていただけると幸いです。

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